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洗礼、続々。ゾクゾク Part3
~♪曲~
ぶおん、ぶぉーん。
レッカー車がガレージの前で停まり、レッカー車からバイクを下ろしている。
エド:「やあ、来たね。ハーレーダビッドソン・ローライダーだ。1981年式…かな?」
マイク:「かっこいいだろう!その通り。ハーレーといえばローライダーだというファンも多いんだ!」
エド:「電話で聞いてたけど、オイル漏れするんだって?なるほど、確かに今も滴っているね」
マイク:「そうなんだ。それから、ここに来るまでの間に油圧警告灯が点いたんだ。でも、君ならそんなの朝メシ前だろう?ちょちょいと直してよ。」
エド:「冗談じゃないよ。それはつまりエンジンオイルが正しく循環していない可能性があるってことさ。オイルポンプか、循環経路か…とにかくエンジンまわりに深刻な問題がある可能性があるってことだ。こりゃ大仕事だぞ。。」
マイク:「それから、旧車ならではのオイルにじみがあちこちにみられる。ほら、フロントブレーキラインにもにじみがある」
エド:「ブレーキは安全性に直結するから必ずチェックしなきゃ。。。やれやれ、なんてこった。ともかく、工場の中に入れよう」
マイク:「君が押してくれるんだよね?ハーレーは重いんだ。僕はお茶を淹れるから」
エド:「そのくらい自分でやれよ!」
~♪曲~
エド:「ハーレーダビッドソンの中でも絶大な人気を誇るモデル、ローライダーです。創業者の孫にして、カリスマデザイナーウィリー・Gがデザインしたローライダーは、それまでの豪華だが大きくて重いといういわゆるビッグツイン系のモデルのイメージを一新し、パワフルでありながら比較的コンパクトで、アスリートの肉体を持つようなイメージを創り上げることに成功しました。
さらに、カスタムされたモデルが圧倒的に多いハーレーでありながら、この個体はほとんど手が入れられておらず、オリジナルコンディションをキープしている貴重な1台です。逆を言えば、製造された1981年から40年以上の月日が経っている部品ばかりの可能性がある。あちこちにガタが来ているのは確実です。できるだけオリジナルは活かしつつ、劣化した部品は交換し、現代の基準にアップデートしていくのが良いでしょう。
さて、まずは燃料警告灯が点灯した原因を探ります。エンジンまわりから車体全体を見て回ると、エンジンの腰下のあちこちからオイルが吹き出て、リア周りにかけて飛び散った跡があります。エンジンをかけると、確かに通常であれば発生しない「カタカタとメカニカルノイズがする」状態で、これはオーナーが語っていた症状とも合致します。
いわゆるエンジンの下にオイルパンがあって、そこにエンジンオイルが蓄積され循環していくウェットサンプ方式ではなく、ハーレーはドライサンプ方式を採用しているのが特徴です。別体のオイルタンクにエンジンオイルがあり、そこからオイルラインを通ってオイルがエンジン内に行き渡り、再びオイルタンクに戻ってくる循環が行われます。
![](https://assets.st-note.com/img/1738503004-uO1hFbP6C8ScLmXGnyHfvAtV.png)
そのオイルタンクを覗いてみると、なんとすっからかんです。ショベルヘッドエンジンは3L近くエンジンオイルを使用するのですが、納車から200キロ程の走行でその全てをぶちまけてしまったのでしょうか?いえいえ、それでしたら大問題ですし、いくらなんでも気づきます。となると、そのオイルはどこに行ってしまったのでしょう?
状況としては何らかの原因でオイルの循環に不具合が起き、エンジンの中にエンジンオイルが全て送り込まれたまま蓄積されてしまい、必要とされる全ての領域にオイルが行き渡らなくなっていたのではないかと想定されます。本来バイク全体で循環しているはずの3Lが徐々にオイルタンクには戻ってこなくなり、エンジン内部に留まり続け、規定量以上になってしまったオイルが逃げ場を失った状態で圧力をかけられ続けた結果、あちこちから吹き出していた…という状況にあったのでは?と予測を立てます。
エンジンオイルには潤滑、洗浄、冷却という3つの役割があり、特にハーレーのような空冷エンジンは熱に弱く、適切にエンジンオイルが循環しないことでピストン周りが焼きつきを起こしてしまったら致命傷にもなりかねません。警告灯が点灯してからあまり距離を走らず、すぐロードサービスサポートを受けたのは賢明な判断だったと言えます。
いずれにしても、まず疑うのはオイルポンプとその周辺機構です。エンジンオイルを抜き、オイルポンプやギアケース、更に周辺部分を分解し、抜いたオイルや外した部品の状態を確認します。
ん~、エンジンオイルには金属片が混在するなどの異常は見られませんねぇ。ギヤやカムにも異常な摩耗などはみられません。
続いてプッシュロッドまわりはどうでしょうか。おおっと、これがオイル漏れの直接の原因ではなさそうですが、気になるところを見つけてしまいました。プッシュロッドとタペットの接続部分が変摩耗というか、異常な欠け方をしており、あきらかにザラついているのがわかります。
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プッシュロッドとタペットの詳細な説明はここでは省略しますが、本来、この先端部分はボールペンのペン先のようにピカピカで、スムースな運動を行える状態でなければなりません。最近できた欠けでもなさそうなので、おそらくアメリカ大陸を走っていた時からこのような状態になっていたのでしょう。以前のオーナーは「エンジンの腰上をオーバーホールした」と言っていて、そうであるならばこの部品を取り外さないはずはありません。なぜこれを放置したのかは今となっては知る由もありませんが、いずれにせよプッシュロッド自体は1本15ポンドほど。日本円で3000円程度なので、迷わず交換しましょう。
一方、その他の箇所に異常は見られませんでした。金属同士のアタリも綺麗で、偏摩耗などが無いことを踏まえると、オイルポンプがオイルを送り出す機構そのものではなく、その前後のオイルラインに何らかの問題がある可能性を考えます。そのためにはもう少し切り分けをしながら原因を探らなくてはなりません。次に疑うキーポイントはオイルクーラーです。
~♪曲~
エド:ハーレーのエンジンはラジエーター、つまり水冷冷却機構を持たない空冷エンジンであり、シリンダー側面の大きな放熱フィンと、エンジン内を循環するエンジンオイルが冷却機能の一役を担っています。オイルクーラーとは、潤滑の過程でエンジンから熱をうばって高温になったエンジンオイルの温度を下げるための放熱装置です。搭載されているモデルといないモデルがあり、このローライダーにはオイルクーラーが標準装備されています。
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このローラーダーに現在装着されているオイルクーラー(コアユニット)は純正品で油圧に関して影響は無いはずなのですが、このオイルクーラーの入り口もしくは出口、さらにその前後のホースのどこかがなんらかの原因で流れが悪くなっているか、最悪詰まっている可能性を疑っています。人間が、血管が動脈硬化を起こすとそこの血液の流れが悪くなり、様々な健康被害を引き起こす症状に近いといえます。本来であればオイルタンク→エンジン→オイルクーラー→オイルタンクへ”戻る”部分の循環が発生しなくなっているのでは?という予測を立てました。
![](https://assets.st-note.com/img/1738501144-mtDinpdlkVSzw1HO9FoEjrPe.jpg?width=1200)
オーナーと相談して、オイルクーラーに入るオイルをバイパスさせることにしました。つまり、オイルクーラーを通らずにそのままオイルタンクに戻る状態を意図的に作り、正常にオイルタンクにオイルが戻ってくれば、オイルクーラーのコアに流動を妨げる原因がある、と切り分けできます。これで少し様子を見てみましょう。
~♪曲~
エド:バイクは車と違って、ネジ1本を緩めればシートを簡単に外すことができます。モデルによってはキーでシートが外せる仕組みになっていたり、スクーターなどはシート下が巨大な荷物入れになっているモデルも存在します。非常に使い勝手が良いですね。シートの下にはETCユニットを搭載したり、バッテリーがあったりなど、整備の際にも頻繁に取り外しをするものです。
今回オイルタンクにアクセスするためにシートを外したところ、驚いたことに真っ二つに割れているじゃありませんか。やれやれ。
![](https://assets.st-note.com/img/1738504323-Kilc2AWSst1aeV3dvZCGNPEx.jpg?width=1200)
いわゆるエンジンの振動、力強い鼓動感がショベルヘッドエンジンを搭載したモデルの最大の魅力であり、また弱点でもあります。こうしたプラスチックパーツや、金属部品でさえ長年の振動にさらされることで割れてしまうことがあるのです。
正しい乗車姿勢が取れないわけではないのですが、そもそも正しく車体に固定されていない状態なので迷わず交換することにします。修理もできなくはないですが、シートのそもそもの構造的に極めて割れやすくなっているデザインになってしまっているため、修理したとしてもきっとまた割れてしまうことでしょう。純正部品はもうメーカーからは出ない状況ですが、アフターマーケット品が驚くほど充実していて、ハーレーが絶大な人気を誇ることを物語っています。あまり高くない、程度の良い中古品をマイクに探してもらうことにします。
~♪曲~
マイク:「エド!調子はどう?なんだいこりゃ?何も変わってないじゃないか!?」
エド:「そんなこと言うなよ、、原因究明に手こずっているんだ。これだから旧車は大変なんだよ。まず燃料警告灯だけど、オイルラインに不具合がある可能性がある。オイルクーラーに行くオイルを一旦バイパスさせて、これからテストしてみるところさ。それからその過程で発見したのだけど、プッシュロッドがダメになっていたからこれも交換した。この部分は当分大丈夫だと思うよ」
マイク:「さすがはエド・チャイナだね!」
エド:「それから、シートを外して分かったんだけど、みてよこれ。真っ二つに割れている。きっと長年の振動で割れたんだ。」
マイク:「こりゃひどい。でも「走っていると振動でボルトが緩んでくるから時々増し締めをしましょう」なんて、工業製品としてあり得ないような運用が必要なバイクがショベルなんだ。(笑)」
エド:「これじゃちゃんと乗れないから、別のシートを探してきてよ」
マイク:「よし、分かった。じゃあ僕はシートを。君は作業を続けてくれ!」スタコラ
~♪曲~
つづく