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街歩き 2021.11.13 なんば(味園ユニバース)
仕事を終えて地下鉄に乗ったのは15時すぎだった。
Helsinki Lambda Clubとtetoのライブを観るために、味園ユニバースを目指している。
アクセスをネットで調べると、なんば駅の近くのようなので、淀屋橋で地下鉄に乗り換えて、なんばまで行こうと思っていた。
淀屋橋でホームへ降りると、もう電車が来ていて慌てて乗り込む。
土曜日の昼間とはいえ、この混雑は、この車両だけなんだろうか。後ろに立っているカップルの女の子の鞄が背中に当たっている。扉のガラスに張り付かんほどのスペースに立っている私の隣の初老の男性はこっちを向いて立っている。閉塞感にあと一駅が耐えられず、歩きなれている心斎橋で降りて歩くことにした。5番出口から出ればすぐ心斎橋筋商店街なので、そこを直進すれば、なんばにたどり着くはずだ。電車のモーター音と風を見送りながら、進行方向へ歩く。5番出口を出て、南への流れに滑り込んだ。
戎橋より南は、実は歩いたことがない。
戎橋筋エリアに突入すると、ホルモンという文字が乱立していて、「じゃりんこチエ」的な、よりディープな大阪に来た感じがする。
味園ユニバースが、元キャバレーだったというのも納得な雰囲気だ。
どこかで左へ曲がらねばならないのは分かっているのだけれど、さっぱり見当がつかない。
そろそろかなという頃合いに、美味しそうな海鮮丼の写真のあるお店が目に入った。
お昼をここで…と覗いてみたが、強面のおにいさんが店先に立っていて、こちらをぎろりと見た(ような気がした…)ので、素知らぬ顔で左に曲がった。
思いがけず左に曲がることになってしまったが、前方を見ると、ネットで見た味園ユニバースへの道の風景写真そのものだった。
この通りにもホルモン焼きやさんが、美味しいよと嗅覚を刺激している。
外に置かれた丸椅子に座って、ホルモン焼きを頬張っているおじさんグループが楽しそうだ。
そこに突進していく勇気もなく、とりあえずユニバースの看板を目指す。
途中、焼き落ちたままの家が放置されていて、少し前にニュースで見た火事現場だろうかと心の中で手を合わせて通りすぎた。
その少し先の、一目で「ここですね」と分かる妖艶な建築物が味園ユニバースだった。
場所にそぐわない南国感な植物と、螺旋する必要のないところにある螺旋階段が妖艶な世界の入り口に相応しい。
この年になって恥ずかしながら、ラブホというものに入ったことのない私は、これは冒険心をくすぐるなあと期待したが、しかしそこはライブ会場の入り口ではなく、少し先のもうひとつの入り口にスタッフの方が立っていて、物販が始まっている様子だった。
場所の確認が出来たので、あまり離れていない場所で時間を潰そうと商店街に戻る。
少しきれい目な建物にとりあえず入ってみたものの、一人でもゆっくり出来そうなお店がなく、後ろを歩いているカップルも入れる店を探しているようだった。
同じルートを辿ることになりそうなのが気まずくなって、目の前の「風月」に入ってしまった。
「一人で鉄板焼き」に違和感しかなかったが、もう楽しむしかないと思い直し、焼きそばと、ふと昼飲みしたいと梅酒を注文した。
注文を聞きに来た東南アジア系の女性が「梅酒?」と聞き直した。割り方か?と思って「ロックで」と言ったが、そういう問題ではなかったのかもしれないが、真意は定かではない。
完成した状態で鉄板に乗せられた焼きそばは、すぐにカピカピになったが、昼飲みの背徳感が最高で、持ってきた本を読みつつ、ゆっくり時間を過ごすことが出来た。
入場時間が近づいて、店を出た頃には既に夕闇が近づいていて、味園ユニバースは更に妖艶な建築物になっていた。
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その前に爽やかな若者が並んでいる様は、なかなかの面白さだ。
その列に紛れ込んで、中に入る。
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ここは装飾も色彩も艶やかで、反して、日常とは如何に色を押さえ込んでいるものなのかということが、よく分かる。
中は案外広かったが、もう前の方は人で埋まっていたので、壁際の一段高くなっているスペースに陣取った。
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遠いがステージが見渡せる。
まずは、tetoがステージに現れた。
ユニバースでのテトシンキではないけれど、こんな感じで、tetoのエネルギッシュなライブに心震えた。全身全霊で何かを伝えようとしているアーティストに尊敬の念を禁じ得ない。ヘルシンキの曲もサプライズでカバーして薫さんを驚かせていた。ギターの方が脱退したあと、ヘルシンキのタイキさんがサポートしていて、そのことでも彼らの友情の深さを察することが出来る。
テトシンキを観ることが出来て本当によかったなと思った。
今年のライブ初めに行った、このライブで、すっかりはまってしまったヘルシンキ。
知的な変態さが何とも言えない。
私はYouTubeのオススメに出てきた「しゃれこうべしゃれこうべ」で、まんまとオススメの意図に引っ掛かったのだけれど、お涙頂戴でもなく、感動させてやろうでもなく、踊らせてやろうでもない。でも、泣いたり踊ったりしてしまう、本当に不思議な音楽。特にガッツリ聴いてる自覚はないのに、ライブで演奏される曲全部覚えてて、口ずさんでしまう。マジックか。
この日も、まんまと口ずさんでいて、ロックンロールプランクスターの「死ぬまで生きたらほめてよ」に、またうるっとしてしまう。
ユニバースの独特の照明の色彩に、ヘルシンキの音楽の色彩が、とてもよく似合っていた。ワンマンもここでやってほしい。
味園ユニバースという場の華やかさに、名残惜しさを感じつつ、また商店街を北へ遡った。
なんば駅のお手洗いに寄ったが、その入り口の、夜間に閉めるのであろう鉄格子が、この土地の治安を物語る。一方、一歩地下街に入るとインスタ映えを狙った撮影スペースがあったりする。
目に見えないグループ分けが、ここにも蔓延っているように感じた。
どこにも属したくないなと思いながら、こことは異世界な家に帰るべく、私はまた満員の地下鉄に乗り込んだ。