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DB Gruppe 62客車の系譜:INDEX


はじめに

戦前から戦中にかけての豪華列車時代

戦前から戦中に掛けて、英国ロンドンとオランダ、ドイツを経由してスイスのバーゼル(一部はイタリアミラノまで)を結ぶFFD "RHEINGOLD EXPRESS"は、風光明媚なライン川左岸線を走るMITROPA社による車両保有と運営で、オランダからベルギー、フランスを経由するルートのCIWLプルマン客車による、”EDELWEISS PULLMAN EXPRESS"とほぼ同時刻にオランダとスイスを発着し、両社がその豪華さを競っていた*ほどで、ライバル関係の両社が凌ぎを削る唯一のプルマン客車で組成された看板列車として運用されていました。

1945年ドイツの敗戦による終戦となり、戦勝4カ国統治から西側3カ国とソ連の対立からドイツは東西に分断され、ドイツの鉄道もDRG(ドイツ帝国鉄道公社)から2つの事業者DR(東独国鉄)とDB(ドイツ連邦鉄道)の2つのエリアと事業者に分かれ、西ドイツは、DBが運営することになりました。
また、食堂車や寝台車の車両保有とサービスを担うMITROPAも本社所在地が東ベルリンに位置していたこともあって、東ドイツはMITROPA、西ドイツは新たにDSGを発足し、その任を担うことになりました。

戦後の復興とF-Zug "RHEINGOLD"の復活

戦後は、1952年からF-Zug"RHEINGOLD EXPRESS"として再開しましたが、戦後の混乱からようやく復興を始めた同列車は、そうした豪華さから離れた列車となり、戦前製造のSchürzenwagen(スカート客車)ながら、Stahlblau(鉄青色)に塗装された新たな装いで登場した客車の車体側面に"RHEINGOLD"の切抜き文字を入れた専用客車で運用され、専用の同色に塗装された03.10形で牽引するなど、DBの看板列車としての役割を果たしていました。

Gruppe 62客車の登場

そして、日本同様経済成長著しい1962年、Gruppe 62と呼ばれるDBでは標準型となる1等車の3形式と食堂車の合計4形式が登場し、全長26.4mのF-Zug専用客車で組成された"Rheingold"は、それまでの戦前生まれのSchürzenwagenによる列車とは全く異なるいで立ちで登場しました。
それまでのドイツの重厚さを象徴するような鉄青色一色のカラーリングから、26.4mの長い車体にコバルトブルーとベージュのツートンカラーが一層スマートな印象を醸し出していました。
Gruppe 62客車は、ICEが主流となる現在まで一部がInterCityとしても活躍。ドイツの優等客車のイメージセッターとしての大きな役割を果たしました。

列車種別の変遷

F10 "Rheingold" 1963 冬ダイヤ列車編成表

F-Zug時代

62系列客車は、Av4üm-62、Ap4üm-62、AD4üm-62、WR4üm-62の4形式でした。しかし1962年夏ダイヤ改正で颯爽と登場したこの最新の車両は、まだ全てが揃っておらず、当初の列車は新旧車両が混成された変則的な編成で運用され、4形式揃ったのは1965年夏ダイヤからでした。
62系列客車が運用を担ったのは、オランダのAmsterdam CS / Hoek van Holland - Basel SBBを結ぶ"Rheingold"とDortmund Hbf - München Hbfを結ぶ"Rheinpfeil"の2列車でした。オランダ側は、首都のAmsterdam CSと英国からフェリーを使って乗換えとなるHoek van Hollandの2つの駅を起点として途中Utrechtで連結。ドイツのDuisburg HbfでDortmund方面からの"Rheinpfeil"と組成入替えをして、BaselとMünchenに向かって景勝地で風光明媚なライン川沿いの左岸線をスイス方面に向かいます。もちろんその逆もあります。特に目立った要因の1つは、景勝地を走る看板列車として眺望の良いドームカー(AD4üm-62)を連結していたことです。DBの"Rheingold"が世界に有名になったきっかけはこのドームカーの存在があったからこそでしょう。
この1962年に登場した新型車両は数が少なかったため、F-Zugはこの2列車のみ運用されました。


TEEロゴ

TEE時代

62系列客車が花開いたのは、TEE(Trans Europ Express)の時代がそれに当たるでしょう。
1957年から始まった欧州国際特急TEEは、大陸での以下欧州西側7カ国で運用開始されました。

当初は各国間を気動車や電車タイプの車両で結んでいました。そのため、ここで取り上げる62系列客車は、国際特急であるにも関わらずF-Zugとして運用されています。

TEEネットワーク図 / 1957年夏ダイヤ:Matsukaze, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=8981002

Purpurrot(紫赤)色とベージュのツートンカラーで統一されたTEEは、欧州国際間で活動するビジネスマンをターゲットとしていたことから、全車両1等車、必ず食堂車やシートサービスなどで温かい食事がとれることなど、国際間で運用される列車というだけではないルールが細かく設定され、それを満たした列車がTEEを名乗ることができました。
参加各国は、TEE専用の車両を開発し、VT11.5(DB)、ALn 442/448(FS)、X-2770(SNCF)、RAm(SBB/NS)は全て気動車でした。一方SNCB、CFLはTEEに参加したものの専用車両はありません。またSBBは、1961年から電化区間のみを運用する4電源仕様のRAeを開発し運用しています。

航空便の少なかった当時、TEEの運用は当時の需要とマッチし、ネットワークは徐々に拡大すると共に、固定編成の気動車では汎用性が低く、次第に客車によるTEE列車が参加各国で登場するようになります。
DBでは、1965年からTEE "Helvetia"が客車列車として初めて運用に就きました。その際に増備されたのは62系列客車で、路線運用に合わせて新たに食堂車やバー車などを開発し、F-Zug "Rheingold"とは異なる設備で運用されました。

TEEネットワーク図 / 1979年夏ダイヤ:Matsukaze, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=8981021

その後、1等と食堂車、バー車で組成された国際優等列車をTEE、国内優等列車はIntercityの種別に変わり、"Rheingold"/"Rheinpfeil"もTEE化されることになり、塗装色もTEEカラーに準拠することになりました。
そしてDBで最後までTEEとして残った列車は"Rheingold"で、それは観光列車として運用されたのは時代の流れではありますが、当初の理念とは異なる列車でした。1987年の冬ダイヤを最後にTEE "Rheingold"は、DBの種別・名称共に消滅しました。

InterCity, EuroCityロゴ

InterCity/EuroCity

1970年代末になると、利用者の増加は進み、優等列車の2等車の利用要望が増えてゆくと同時に、航空便の増加による1等利用者は減少することになり、TEEは時代の要請に応えられなくなってきます。そこでDBの国内線をInterCity、国際線をEuroCityと新たな種別を作り、双方とも食堂車を挟んだ1等、2等の編成となりました。InterCityはそれまでの1等車と食堂車、バー車を連結したIntercityからバー車を外し、2等車を連結した組成に変わり、1時間毎の同時刻パターンダイヤ運用により、乗換がスムーズに行われる同一ホームによる同時発車のダイヤも組まれて、比較的ダイヤに正確だった当時のDBでは極めて合理的な運用が組まれました。(遅延が常態化した現在では考えにくい設定です)

1992年夏ダイヤにInterCityExpressが登場してからは、ICEがDBの看板列車となり、ICEネットワークもその後の高速新線の開通と共に徐々に拡大してゆきます。InterCity、EuroCityの活躍も次第に影を潜めてゆきました。
しかし、ICEネットワークを補完する役割は今なおICが担う形で残っています。車両も高齢化が進み、現在はICEカラーで数少ないIC列車の任に就いています。

車両形式

当初F-Zug "Rheingold"向けに開発された62系列4形式の車両も、最終的には12形式となり、アップデートにより形式が変更された車種もありますが、勢力的には大きな車両群となりました。以下がその形式になります。

  • ADmh 101

  • ARDmh 105

  • ARDmz 106

  • Avmh(z) 111

  • Apmh(z) 121

  • Apmz 122

  • WRmh 131

  • WRmh 132

  • WRmz 135

  • WRbumz 139

  • ARmz 211

  • ARmh 217

まとめ

1980年代のIC/EC全盛時代は、先に紹介したUIC-Z客車が登場してからも、増備の続いた62系列客車が主流で、この系列車両がDBの代表的車両の1つとなったことは疑う余地のないところです。それら車両群の変遷を各車両別に記してゆく予定です。

参考サイト:
EDELWEISS-PULLMAN-EXPRESとRHEINGOLD EXPRESS / Spielkiste


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