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No.3【神様小説】⛩️愛喜楽天の『湘南青春日和』⛩️第三話:「神様と商店街の秘密」
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第三話:「神様と商店街の秘密」
江ノ島の商店街には、地元の人々に愛される名物店が数多くある。その一角に、老夫婦が営む小さな駄菓子屋「虹屋」があった。木製の看板が年季を感じさせるこの店は、昔ながらの懐かしい雰囲気を残し、地域の子どもたちや観光客にも親しまれていた。
「ここ、なんかいい匂いするなぁ」
愛喜楽天(あきらてん)は缶ビールを片手に店先をうろうろしていた。今日もどこかのんびりした雰囲気を漂わせている。
「愛喜楽天、またサボってんのか?」
地元高校生の光(ひかる)が苦笑いしながら近づいてきた。彼はすっかり愛喜楽天の“付き添い”のような立場になっていた。
「サボりじゃないって! 俺は地元の幸福を探るために視察してるんだよ」
「ウィンナー食いながら視察って言うなよ……」
光がツッコむ中、駄菓子屋の中から店主の陽一(よういち)と、その妻である澄子(すみこ)が顔を出した。陽一は温和な笑顔を浮かべたまま、愛喜楽天に声をかける。
「おやおや、新しい顔だね。神様さんって聞いてるけど、ほんとに神様なのかい?」
「あ、そうそう! 俺、神様なんです。愛喜楽天っていいます!」
愛喜楽天は自信満々に名乗ったが、澄子は微笑みながら首をかしげた。
「ふふ、ずいぶん親しみやすい神様だこと」
「いやぁ、俺、こう見えても人間に寄り添うタイプなんで!」
陽一と澄子は愛喜楽天のゆるい性格にどこか興味を持ったようで、二人の会話はすぐに打ち解けた。
ある日、光が祠(ほこら)に駆け込んできた。彼の表情はいつになく真剣だった。
「愛喜楽天、大変だ! 商店街の『虹屋』が閉店するかもしれないって!」
「えっ、虹屋が? なんで?」
光の話によると、駄菓子屋の経営が厳しくなり、陽一と澄子は引退を考えているという。近くにできた大型スーパーの影響で、商店街全体の売り上げが減少しており、虹屋もその影響を受けていたのだ。
「でも、虹屋ってみんなに愛されてる店だろ?」
「それでも、お客さんが減ってる現実は変わらないんだよ……」
愛喜楽天は珍しく真剣な表情になった。
「俺がなんとかする!」
「お前が? 大丈夫かよ……」
「俺は神様だぞ! 信じろ!」
愛喜楽天は拳を握り締めたが、その自信が空回りするのは目に見えていた。
愛喜楽天はまず、商店街に神力を使って大々的なイベントを仕掛けることにした。祠の中で集中し、手を合わせて神力を発動させる。
「虹屋の魅力をみんなに伝えるんだ……えーっと、どうすればいいかな……」
結果、彼が生み出したのは――「虹色の光で包まれた商店街」という、まるでファンタジー映画のような光景だった。
「おおお! なんかすごいことになったぞ!」
商店街の人々や観光客が足を止めて見上げる中、愛喜楽天は得意げに胸を張る。
「どうだ、これで客が増えるだろ!」
しかし、虹色の光に驚いた観光客たちは写真を撮るばかりで、肝心の「虹屋」に立ち寄る人は増えなかった。光が肩を落として愛喜楽天に言う。
「いや、綺麗だけどさ……これ、ただの光のショーだよな」
「うーん、違ったか……」
愛喜楽天の作戦は失敗に終わったが、彼は諦めなかった。
ある晩、愛喜楽天は光と共に陽一を訪ねた。駄菓子屋の奥で陽一が何かを書いているのを見て、愛喜楽天は首をかしげる。
「陽一さん、それ何書いてるんですか?」
「ああ、これかい? 昔の商店街の思い出をね、少しずつ書き留めてるんだよ」
陽一は懐かしそうに微笑みながら、色あせた写真を手に取った。それは、商店街がにぎわっていた頃の写真だった。陽一は、その写真を見ながら静かに語り始める。
「この商店街で子どもたちが笑い声を上げていた頃が懐かしいなぁ。でも、時代の流れには逆らえないんだよ」
愛喜楽天はその言葉に胸を締めつけられるような思いをした。陽一の思い出には、ただの店以上の「温かさ」が詰まっていたのだ。
翌日、愛喜楽天は考え抜いた末、再び神力を発動させた。だが、今回は派手な演出ではなく、小さな奇跡を起こす方法を選んだ。
虹屋の店先に、昔懐かしい「手作りの駄菓子」を復活させたのだ。それは陽一がかつて手作りしていたもので、商店街の子どもたちに人気だったという。愛喜楽天は陽一の書き留めた「思い出」の中からヒントを得たのだった。
「陽一さん、これ、試しにまた作ってみませんか?」
「こんな古いものが今さら売れるかねぇ……」
「売れるかどうかじゃないですよ。これが、あなたの『虹屋』の心なんでしょ?」
愛喜楽天の言葉に、陽一はしばらく沈黙していたが、やがて微笑みながら頷いた。そして、彼の手で作られた懐かしい駄菓子は商店街の人々を驚かせ、大人も子どもも笑顔でそれを手に取った。
その日、商店街には久しぶりの賑わいが戻っていた。懐かしい駄菓子を手にした人々の笑顔を見て、愛喜楽天はそっと涙を拭った。
「やっぱり、人の思い出ってすごいパワーを持ってるよな」
「お前がそれ言うと、なんか説得力ないけどな」
光が笑いながら愛喜楽天をからかうが、愛喜楽天の表情はどこか誇らしげだった。
虹屋はその後、懐かしい駄菓子をメインにした店として再出発を果たすこととなった。陽一と澄子も少しずつ笑顔を取り戻し、商店街の人々に感謝の気持ちを伝える。
「ありがとう、愛喜楽天さん。あなたのおかげで、もう少しこの店を続けてみようと思えたよ」
「いやいや、俺はちょっと手伝っただけですよ。みんなの力ですよ」
そう言いながらも、愛喜楽天は内心、自分が役立てたことを心から嬉しく思っていた。
愛喜楽天のポンコツながらも温かい行動が、人々の心に小さな奇跡を起こした。こうして、江ノ島商店街にまた一つ、笑顔が増えたのだった――。
続く。
最新話は2/9(日)の
午前11時に投稿予定です🌈
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