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No.4【恋旅小説】恋をしないと死ぬ男 第四話:「北海道の花畑で」

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第四話:「北海道の花畑で」

青く澄んだ空、どこまでも広がるラベンダーの紫色のじゅうたん。秋山真一(あきやましんいち)は、北海道の富良野にたどり着いていた。長崎での切ない別れを胸に、次の土地へ向かう旅の途中だったが、彼は心の中に一つの決意を抱えていた。

「俺はもう逃げない。この旅で、本当の自分を見つけるんだ」

北海道の広大な風景は、その決意を後押ししてくれるように思えた。

富良野の観光名所となっているラベンダー畑を訪れた真一は、花の香りに癒されながら散策を楽しんでいた。その時、畑の一角で一人の女性が忙しそうに作業をしているのが目に入った。

彼女は麦わら帽子を被り、作業服姿で黙々とラベンダーの手入れをしている。額に浮かぶ汗を気にせず働く姿が、どこか凛として見えた。

「こんにちは、観光ですか?」

不意に彼女が声をかけてきた。真一は少し驚きながらも挨拶を返した。

「ええ、旅の途中で立ち寄ったんです。すごく綺麗な畑ですね」
「ありがとうございます。この畑、私たち家族で管理しているんです」

彼女は田中紗枝(たなかさえ)。30代半ばの若い女性で、この広大なラベンダー畑を家族で経営しているという。

「よかったら、少しお手伝いしていきませんか?」

突然の申し出に戸惑いながらも、真一は断る理由もなく承諾した。

紗枝と共にラベンダー畑で作業をする中で、真一は彼女の明るく素直な人柄に惹かれていった。

「この畑、すごいですね。一面紫色で……なんだか別世界にいるみたいだ」
「そう言ってもらえると嬉しいです。毎日手入れするのは大変だけど、こうやって花が咲いてくれると報われますね」

紗枝はラベンダーへの愛情を語りながら、笑顔を見せた。その笑顔は、真一の心を癒し、同時に何かがじんわりと胸の奥で芽生えるのを感じさせた。

「真一さんは、なんで旅をしているんですか?」

突然の問いに、真一は少し考えてから答えた。

「自分を変えるため、ですかね。不器用な自分に向き合いたいというか……」
「へぇ、不器用なんですか?」
「ええ。恋愛もろくにできないくらい」

真一の言葉に、紗枝はクスッと笑った。

「でも、そんな真一さんだからこそ、素直に向き合える何かがあるのかもしれませんよ」

彼女の言葉は、真一の心をそっと照らすようだった。

作業の合間、紗枝がふと立ち止まり、遠くを見つめながら呟いた。

「私、この畑を継ぐって決めてるんですけど、本当にこれでいいのかなって、時々思うんです」

真一は意外だった。紗枝はこの畑に誇りを持っているように見えたからだ。

「どうしてそんな風に思うんですか?」
「昔は都会で暮らすことに憧れていたんです。でも、この畑を守りたいって気持ちもあって……だから自分がやらなきゃって思ってるんですけど、本当は怖いんです。この先の人生が、全部ここに縛られてしまうんじゃないかって」

その言葉には、紗枝の本音がにじみ出ていた。真一はその姿に自分を重ねるような気がした。

「俺も同じです。自分にできることが分からなくて、でも何か変わりたくて旅をしてます」

二人は共に、人生の岐路に立たされていることを感じながら、静かに夕陽を眺めた。

その日の夜、予期せぬ嵐が富良野を襲った。激しい風と雨がラベンダー畑を荒らし始め、紗枝の家族は必死に畑を守ろうとしていた。

「これじゃ花が全部ダメになっちゃう!」

紗枝の必死な声に、真一も力を貸そうと動いた。二人で畑のビニールシートを押さえつけようとするが、嵐の勢いは容赦ない。

「くそっ、全然止まらない!」

真一は必死に踏ん張りながらも、初めて自分が本気で誰かのために動いていることに気づいていた。

「紗枝さん、俺がここにいる限り、大丈夫だから!」

その言葉に紗枝は驚いた表情を見せたが、すぐに力強く頷いた。

嵐が去った翌朝、畑は一部が荒らされていたものの、なんとか大半を守ることができた。

「本当にありがとう、真一さん。あなたがいなかったら、きっと全部ダメになってた」

紗枝の言葉に、真一は素直に嬉しく思った。そして、彼女の強さと優しさに惹かれている自分を改めて感じた。

しかし、彼には分かっていた。この旅には「終わり」があるということを。

その日、真一は紗枝に別れを告げた。

「紗枝さん、本当にありがとう。この畑での時間は、俺にとってかけがえのないものになりました」
「もう行ってしまうんですか?」

紗枝の目に一瞬、寂しそうな色が浮かんだ。しかし、真一は決意を固めていた。

「俺、旅を続けなきゃいけないんです。ここで止まることはできないんです」

その言葉に紗枝は静かに頷き、真一に小さなラベンダーの花束を手渡した。

「これ、持って行ってください。旅が素敵なものになりますように」

列車の中で真一は、手元のラベンダーを見つめながら心の中で呟いた。

「俺は、不器用なりに進んでいくしかない。紗枝さんも、きっと大丈夫だ」

涙を拭いながら、それでも前を向いて次の目的地を目指した。

次週「京都の伝統と和傘」へ続く。

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