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No.10【サスペンス小説】『追いかける人々』最終話:繋がる未来
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最終話:繋がる未来
古びた図書館の中、彼らは翔一が遺した書類を手にして立ち尽くしていた。
書類には、翔一の遺言と共に、健太の父親に関する「可能性」が記されていた。翔一が美沙に何を伝えたかったのか、そして健太の父親が何を意味しているのか――その全てが、目の前に広がっていた。
高月美沙の感涙
美沙は、震える手で遺言書をもう一度読み上げた。
「美沙へ。君がこの手紙を読む頃、僕はもう君のそばにいないだろう。でも、君には知ってほしい。家族というのは、血のつながりだけでできているものじゃない。僕がどれだけ君を愛していたか、そして君がどれだけ愛されるべき存在か。」
涙が一滴、頬を伝った。
「兄さん……。」
兄がいつも自分を守ろうとしてくれていたことを思い出す。その優しさが、今もなお、自分を支えようとしていることに気づいた。これまで「失った」と思い続けていた兄の存在が、今は胸の中で暖かく広がっていく。
「私……ずっと兄さんに守られてたんだね……。」
美沙は、兄が遺した想いを胸に抱きしめ、目を閉じた。その瞬間、これまでの悲しみが少しずつ解けていくのを感じた。
三島健太の希望
健太は、翔一が「父親の可能性」として記された文書を見つめていた。
「俺の父さんが……翔一さんだったのかもしれない……?」
その言葉の重みが、彼の胸を揺さぶる。ずっと探し続けていた父親。ペンダントを握りしめ、「父さんが自分を助けてくれる」という希望にしがみついてきた。だが、その希望が「翔一」という一人の人間に繋がっている可能性に、健太は戸惑いを隠せなかった。
「でも……俺を置いていったのは、なんでなんだよ……。」
彼の中には、父親を求める気持ちと、それに裏切られたと思う怒りが混ざり合っていた。そんな健太の様子を見て、美沙がそっと手を伸ばした。
「健太くん……翔一があなたの父親かもしれない。でも、それが事実だとしても、あなたがここにいる理由は、ちゃんとあるはず。」
健太はその言葉にハッとして、美沙の瞳を見つめた。彼女の目には、深い慈愛が宿っていた。
「俺が……ここにいる理由……?」
神谷優一の感謝
一方、神谷は彼らのやり取りを静かに見つめていた。
翔一が遺した言葉や、真希が語る夢の風景――それらが、自分が捨てた過去に繋がっていることを否応なく理解していた。
「俺は、あの草稿を捨ててよかったのか……?」
あの時の自分は、未熟さや失敗を恐れ、すべてを投げ捨てた。それが今、こうして形を変えて他人の人生に影響を与えている。神谷の胸に込み上げてきたのは、後悔ではなく、不思議な感謝だった。
「俺が書いたあの物語が、誰かを動かしてる……。」
神谷は深呼吸をし、微笑んだ。そして、小さな声で呟いた。
「もう一度、書いてみようかな……。今度は、誰かのために。」
その言葉は、誰に向けたものでもなかった。ただ、自分に対する宣言だった。
篠崎真希の得心
真希は、夢で見続けた風景が現実となり、それが他人の人生と繋がっていることに驚きを隠せなかった。
「私……このために、ずっとあの夢を見てたのかもしれない。」
翔一の遺した手紙、草稿、ペンダント――それら全てが、自分の中の夢と合致していく。真希はその意味を、言葉にできないまま感じ取っていた。
「きっと……これはみんなで解き明かすものだったんだね。」
真希は、美沙、健太、神谷の3人を見回した。彼らの存在が、自分の夢を「現実」に変えてくれた。そして、それが偶然ではないことを彼女は信じていた。
全員が、それぞれの心の整理をし始めた時、美沙がゆっくりと健太の肩に手を置いた。
「健太くん……もし翔一があなたの父親だとしたら、私はあなたのお姉さんになるわね。」
その言葉に、健太の目が潤んだ。
「……本当に?」
「ええ。兄があなたに託したものを、私も一緒に守りたいの。」
美沙の優しい声に、健太は胸がいっぱいになった。今まで感じたことのない「安心感」が、彼の心を包み込む。
図書館を後にした4人は、湘南の夜風に包まれながら並んで歩いていた。静かな街灯の光が、それぞれの横顔を照らしている。これまでの旅路で絡まっていた糸が解け、少しずつ未来の形を編み始めているようだった。
美沙がふと足を止め、3人に向き直る。
「みんな……ありがとう。兄の想いを受け取ることができたのは、あなたたちがいてくれたおかげ。」
その言葉に、真希が微笑む。
「私も……夢で見てきた風景が、こうして現実になるなんて思わなかった。みんなに出会えて、本当に良かった。」
その時、健太がポツリと呟いた。
「俺さ……ずっと一人だと思ってた。父さんがいなくなって、母さんにも冷たくされて……誰も俺を必要としてないって。」
その言葉には、これまでの孤独と恐れが詰まっていた。けれども、彼の手を取った美沙が、静かに言った。
「もう一人じゃないよ、健太くん。兄の気持ちを受け継いで、私があなたを支えるから。」
健太の瞳から、ぽろりと涙がこぼれる。
「……本当に?」
「本当に。だって、私たちは家族だもの。」
その言葉が、彼の心を溶かす鍵になった。これまで自分を縛っていた孤独が、暖かい光に変わっていくのを感じた。
神谷優一の決意:物語を紡ぐ意味
少し離れた位置でその様子を見ていた神谷は、心の中で静かに微笑んだ。彼自身もまた、長い間抱えていた未完成の過去に向き合い、今やっと前に進む勇気を持てた。
「俺も……書き直さなきゃな。」
誰に向けるでもなく、そう呟く。その声を聞きつけた真希が、軽く首を傾げた。
「神谷さん、小説……もう一度書くんですか?」
「ああ。昔は自分のためだけに書いてたけど、今度は誰かの心に届く物語を紡ぎたいと思う。」
真希は明るく頷いた。
「きっと、素敵な物語になりますよ。だって……今日のことだけでも、もう一冊書けちゃいそうだし!」
その言葉に、神谷も思わず笑ってしまう。
「確かにな。これだけ濃い一日を過ごしたんだからな。」
彼の中で、捨てたはずの情熱が再び燃え始めていた。失敗してもいい、未完成でもいい――それでも、自分が生きた証を物語として残したいと思った。
篠崎真希の未来:描き続ける夢
真希は静かに夜空を見上げた。いつも見てきた夢の風景が、今日の旅で現実と重なり合った。その奇跡が、彼女の胸に新たな火を灯していた。
「私も……絵を描き続けよう。」
彼女の中には、まだ描き切れていないものがあった。それは、今日ここで出会った人々の姿。彼らの生き様や思いが、彼女の心を揺さぶった。
「神谷さんの物語に絵を添えられたら……それって、素敵じゃないですか?」
そう言って笑う真希に、神谷は頷いた。
「お前らしいな。そういうのも、悪くないかもな。」
4人は丘の上に戻り、夜が明け始めるのを静かに見つめていた。東の空が薄い紫から金色に染まり、やがて真っ赤な太陽が顔を出す。その光景は、どこまでも広がる希望そのものだった。
美沙がそっと口を開いた。
「兄が残した言葉……『家族は血のつながりだけじゃない』って、本当にその通りだね。」
健太が頷き、ペンダントを握りしめた。
「俺も……父さんが残してくれたものを大事にするよ。これからは、自分で自分の未来を守れるようになりたい。」
真希はその言葉に目を輝かせた。
「きっとできるよ、健太くん。だって、こんなに大切なペンダントを守り抜いたんだから!」
神谷も静かに言葉を添えた。
「そうだな。お前には、その力があるよ。」
健太は少し照れ臭そうに笑いながら、朝日に向かって大きく深呼吸をした。
朝日を浴びながら、4人は笑顔を交わした。それぞれが新たな未来への一歩を踏み出す準備を整え、再び自分の人生へと帰っていく。
美沙は、兄の遺志を胸に、新しい家族として健太を支え続ける決意を固めた。
健太は、翔一から託された希望を胸に、自分の人生を自ら切り開いていく強さを手に入れた。
神谷は、捨てたはずの情熱を取り戻し、物語を紡ぐ作家として再出発することを決めた。
真希は、夢で見た風景を現実のキャンバスに描き続けることで、誰かの心を動かす絵を作り続けると誓った。
「これで、終わりかな?」健太が少し寂しそうに呟く。
真希が首を振って、にっこりと笑った。
「ううん、これが始まりだよ。だって、ここからみんなで新しい未来を作っていくんだから!」
その言葉に、全員が微笑んだ。
湘南の丘に立つ4人を包む朝の光は、どこまでも優しく、温かかった。
完
あとがき
本作を最後まで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。
この物語は、「繋がり」というテーマを軸に、4人の主人公たちがそれぞれの過去と向き合い、未来へ進むための旅路を描きました。
最初は、それぞれが孤独の中で迷い、傷つきながらも、自分なりの「答え」を探していました。けれども、彼らが出会い、心を通わせ、互いを支え合うことで、一人では決して辿り着けなかった真実に手を伸ばすことができました。
「家族は血のつながりだけではない」
「追いかけることは、自分自身を見つけること」
この物語で描いたのは、僕たちが日々の中で忘れがちな小さな奇跡――人と人が心を通わせる瞬間、過去の苦しみが誰かの手によって癒される時間、そしてそれが新たな希望となって未来へ繋がっていく過程です。
登場人物たちが持っていた「ノート」「ペンダント」「草稿」「夢」。これらは、彼ら自身の未完成な部分を象徴していました。誰しもが人生において、自分の未熟さや失敗、過去の痛みを抱えています。それでも、誰かと繋がることで、その断片がやがて一つの形となり、新しい自分を見つけることができる――そんな想いを込めました。
物語の中で、翔一が遺した言葉がありました。
「家族は、血のつながりだけでできているものじゃない。」
この言葉は、本作の中で最も大切なメッセージです。家族の形は人それぞれですが、それを形作るのは、お互いを思いやる心や行動です。この物語を通じて、そんな「見えない絆」の存在を改めて感じていただけたなら、これ以上の喜びはありません。
最後に……
本作を書きながら、僕自身も彼らと共に歩き、迷い、そして希望を見つける旅をしていました。この物語が、読者の皆さまにとっても、少しでも心に響く旅となったなら、とても嬉しいです。
4人がそれぞれの未来を見つけたように、僕たち一人ひとりにも、自分だけの「未来」への道があります。そして、その道の途中で出会う人々や出来事が、きっと僕たちを導いてくれるはずです。
この物語が、あなたの心の中に何か一つでも温かな種を残せたなら――それが僕にとって、最大の幸せです。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
またどこかで、物語を通じてお会いできることを楽しみにしています。
2025年2月15日(土)
愛喜楽天(あきらてん)より
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