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No.4【偉人小説】『偉人居酒屋』第四話:ナイチンゲールの灯火
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第四話:ナイチンゲールの灯火
連日の忙しさに追われる日々。中原直人は仕事のトラブル続きで疲れ切っていた。取引先の要望に応えられず、上司から厳しい叱責を受ける。
「お前のせいでチーム全体が迷惑してるんだぞ!」
言葉の一つ一つが胸に突き刺さり、直人はその場で泣きたくなるのをこらえた。いつもなら居酒屋で愚痴をこぼす同僚もいるが、そんな気力さえなかった。彼の足は自然と「無限」の路地へ向かっていた。
居酒屋の扉を開けると、温かな灯りと美味しそうな料理の匂いが迎えてくれる。
「いらっしゃいませ!」看板娘が元気よく声をかける。
だが、直人は挨拶を返す気力もなく、静かにカウンターに座った。
「直人さん、今日はずいぶんお疲れのようですね。」店主が優しい声で言う。
「まあ……いろいろありまして。」直人は乾いた声で答えた。
その時、奥の席から静かな声が響いた。
「疲れているのは、あなたの体だけではないようですね。」
振り向くと、白いナース服を模したエプロンを身にまとい、穏やかな眼差しをした女性が座っていた。彼女はゆっくりと微笑み、手元のランプを灯す。
「私はフローレンス・ナイチンゲール。あなたと少し話がしたいと思いました。」
「ナイチンゲール……? あの『クリミアの天使』って呼ばれた?」
「そうです。戦場で傷ついた人々の声に耳を傾け、少しでも救いたいと思っていました。」
その言葉に、直人は心がざわつくのを感じた。
「いやいや、そんな大層な話、僕には縁がないですよ。ただ、仕事が上手くいかないだけです。」
ナイチンゲールは頷きながら、優しい声で問いかけた。
「では、その仕事をどうして始めたのですか?」
「どうしてって……生活のためですよ。他に理由なんてありません。」
「本当にそうですか?」
ナイチンゲールの静かな問いに、直人は一瞬言葉を失った。
「あなたのように、使命感を持って働ける人には分からないですよ。」直人は苦笑混じりに言った。
「僕なんて、誰かの役に立ってる実感なんて持てないし……ただの歯車です。」
その言葉に、ナイチンゲールは少し考え込み、ランプの灯りを見つめながら話し始めた。
「戦場で働いていた時、私も同じようなことを感じていました。一人では何も変えられない。全てが無力に思えたのです。」
「でも、あなたは変えたんですよね? たくさんの人を助けて。」
ナイチンゲールは微笑んだ。
「ええ、そうですね。でも、それは特別なことではありません。ただ、目の前に苦しんでいる人がいて、私はその人にできる限りのことをしただけです。」
直人はその言葉に戸惑いながらも、自分の仕事を思い出していた。取引先で忙しそうにしていた担当者を手伝った時、感謝されたことがあった。
「もしかして、それが僕にもできることだったのかな……。」
ナイチンゲールは直人の表情を見て、静かに続けた。
「大きな目標を掲げる必要はありません。小さな灯りを灯し続けること、それが人を救う道になるのです。」
「灯り……。」
「そう。あなたの仕事も、誰かの一日を少しだけ明るくする灯りになれるはずです。」
店主がふと口を挟んだ。
「ナイチンゲールさんの言う通りですよ。直人さん、これまでだってきっと、誰かに灯りをともしてきたはずです。」
「でも、僕の仕事なんて……。」
「小さくてもいいのです。」ナイチンゲールが言った。
「大切なのは、その灯りを消さずに続けること。それがあなたの価値になるのです。」
直人はその言葉を聞きながら、次第に自分の中で何かが変わっていくのを感じた。
ナイチンゲールは席を立ち、最後にこう言った。
「あなたが今日から灯す灯りが、誰かの救いになる日がきっと来るでしょう。その日まで、諦めずに続けてくださいね。」
彼女の姿が静かに消えると、店内には穏やかな空気だけが残った。
帰り道、直人はふと立ち止まり、夜空を見上げた。
「僕も……灯りをともせるのかな。」
仕事の中で感じた無力感が少しだけ和らぎ、心に小さな希望の火が灯ったような気がした。
来週に続く。
次回は織田信長と飲む!?
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