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人の痛みを感じる国
梅雨入りを迎え、蒸し暑さが続いていますが、いかがお過ごしですか。
先日、遅ればせながら「MINAMATA―ミナマタ」というハリウッド映画を見ました。水俣病で苦しむ人々を実在の米国人写真家ユージン・スミスの視点で描いたものです。未だ水俣病の訴訟が続いており、全面救済は、道半ばです。いったい何十年待てばいいのでしょうか。
アスベスト(石綿)の被害者も同じです。昨年の最高裁の判決を受けて、救済の法律が成立しました。しかし、それでも救済から、こぼれ落ちてしまう方がいらっしゃいます。もう何十年が経つのでしょうか。
咳が止まらないアスベスト被害の方々は、今のコロナ禍の中、電車に乗って咳をすると睨まれ、場合によっては腕をつかまれて電車から引きずり降ろされてしまうこともある、と言います。自衛策として電車に乗っている間は、「私はアスベスト被害者で、この咳はうつりません」とのプレートを掲げる方もおられます。
多くの薬害、公害の被害者の救済が何十年経ってもなかなか進みません。以下のように、いつも同じパターンが繰り返されています。
被害が発生→企業や行政は因果関係を否定→被害拡大→裁判(地裁、高裁、最高裁判決)→政府は法律を作って救済策を実施→それでも救済から漏れる人が出る→また裁判
このような、何十年もの気の遠くなるようなサイクルが必要となるのです。被害者が死ぬのを待っているのではないか、と批判されても仕方ないような対応が繰り返されています。
私も他人事ではありません。かつて厚生労働大臣を務めており、反省する点は多々あります。政府はどうしても、因果関係が確実に証明されてから救済する、との発想を捨て切れず裁判で白黒つける、という流れになってしまいます。
財務省も、因果関係が確実に証明されなければ救済金は出せないという立場を頑なに守ります。
先手を打って被害を拡大させず、救済を迅速に進めるためには、因果関係が科学的に確実に証明されなくても、「疑わしきは罰す」という予防原則の考え方を取り入れることが重要です。
何十年の歳月をかけて最高裁の判決を受けてから動くなら、政府や国会はロボットにでもできます。
「人の痛みを感じる国」――。それが目指すべき国の姿です。