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【読書】ピエール・ルメートル/傷だらけのカミーユ

ついに最後の一冊、その感想は予想通り…

悲しみのイレーヌ、我が母なるロージーを読み、とうとうカミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズの最後の一冊を読みました。私は毎晩寝る前に本を読むのですが、面白すぎてなかなか眠りに誘われず帰って目が覚めてどんどん読み進めてしまって、おかげで今週は久しぶりに寝不足になりました。

このように書けば感想は明らかで、もうさすが、としか言いようがないです。テンポ、話の展開、ひねり、落とし方、ヴァイオレンス、人の心の揺れ動く様、フランス作品らしい美術への造詣の描き方、いろいろなものがこの一冊に実に見事にはめ込まれていました。

災いは偶然を装ってやってくる

盟友アルマンを病気でなくし、その葬式の日に、我が母なるロージーにも名前が出ていた新しい彼女、アンヌに降りかかった災難から始まった三日間を描いています。

朝立ち寄ったショッピングアーケードのトイレでこれから仕事に行こうとする強盗団と鉢合わせたアンヌはそこでボコボコにされます。なぜか執拗にそのうちの一人にボコられるのです。この辺り、その女アレックスと相通じるところかも、です。

カミーユは彼女との関係を隠して事件を担当し、とっとと捕まえてやろうとするのですが、相手の姿が見えません。

ここは読み進めている中で気付いたのですが、彼女は犯人の顔を見ていないはずなのに、顔写真を見て過去に類似の強盗事件を起こしたある男を犯人だというのです。ここでなんだかざらっとした違和感を感じて、(いつものルメートル作品を知っているので)より注意して読み進めました。

他作品へのオマージュ

悲しみのイレーヌではエルロイなどの実際にある他の小説を取り上げていたりしましたが、本作では悲しみのイレーヌのあの人に会うシーンが、名作「羊たちの沈黙」を彷彿させられます(全然違う!っていう人がいたらごめんなさい、あくまでも個人的な感想なので)。

巧みなストーリーテリング

犯人の第一人称「オレ」と、カミーユやアンヌたちの描写が入れ替わりで話は進みます。上述の通り違和感を感じたものの、なかなか犯人像が絞れないのですが、ある瞬間私は気付いたというか、なんとなくそうだろうなぁ、と分かったのですが、確信を持てるようになるまで少し時間がかかりました。

物語の終わりに犯人にはもう少しカミーユやルイと長く話をして事件に至る流れやそれぞれの考え、思いを読ませて欲しかったのですが、スパッと終わらせるあたり、余韻ありすぎですね。

ルメートル作品では毎回やられっぱなしですが、今回も最初から見ていたことが実は違っていて、そうだったのか、と解き明かされていくさまは見事ですし、また最初に戻って読み返したくなりますし、読み返せば思い込んでいたシーンもまた違って見えて来ます。再読、おすすめかもです。

どのような物語にも終わりがあるのですが久しぶりに面白いキャラクターと語り手に出会えたので、今回は読み終えて面白かった、という気持ちよりも、あー、もうこれでカミーユに会えないんだ、という気持ちの方が強く、たいへん複雑です。もしまだ読んだことがないという人がいたら、あなたは幸せです。今からこの面白い作品に出会えるのですから!

それとこれは決してこの一冊だけで読むべき小説ではなく、悲しみのイレーヌ、その女アレックス、我が母なるロージーを読んでから読むべきです。これまでのカミーユ、そしてヴェルーヴェン班の活躍を知った上で読めばこの小説がもたらす闇の深さがよくわかるからです。

おすすめ度:★★★★★(カミーユ警部シリーズへの称賛として!)

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