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英国プロサッカーリーグの財務分析

英国プロサッカーリーグの財務分析

英国のプロサッカーリーグは、世界最高峰の収益規模を誇るプレミアリーグ(Premier League)を筆頭に、チャンピオンシップ(Championship)、リーグ1(League One)、リーグ2(League Two)の4つのディビジョンで構成されています。しかし、その収益構造には大きな格差があり、この格差はクラブ間の競争力やリーグ全体の持続可能性に大きな影響を与えています。本投稿では、英国プロリーグ全92クラブを収益規模ごとに13のグループに分け、それぞれの特徴を分析しました。各ディビジョン内の収益/支出、グループごとの特徴、そしてリーグ全体の課題などの分析となります。


1. プレミアリーグの財務分析(English Premier League = EPL)

プレミアリーグ全体の収益

2022/23シーズンのプレミアリーグの総収益は約60億ポンドに達しました。そのうち、「ビッグ6」が35億ポンド(総収益の57%)を占めています。残りの14クラブが43%を分配する構造であり、収益の集中度が非常に高いです。

収益グループによる分類

プレミアリーグ内では、収益規模に基づいて下記の5つのグループに分けられて比較されることが多いです。:

  1. 北西部BIG 3(マンチェスター・シティ、マンチェスター・ユナイテッド、リヴァプール)

    • 平均収益:6億5200万ポンド

    • 選手移籍益:平均5900万ポンド

    • 純利益:平均1300万ポンド

    • 特徴:UEFAチャンピオンズリーグへの継続的な参加が収益の主要因であり、選手移籍益も高い水準を維持しています。

  2. 残りのBIG 6(チェルシー、アーセナル、トッテナム)

    • 平均収益:5億900万ポンド(約9647億円)

    • 純損失:特にチェルシーが巨額の損失を計上。

    • 特徴:選手補強への積極的な投資が損失増加の要因ですが、収益規模自体は他クラブを圧倒。

  3. アスピレーショナルクラブ(ニューカッスル、ウェストハム、アストンヴィラ、ブライトン)

    • 平均収益:2億2700万ポンド(約4313億円)

    • 平均損失:2500万ポンド(約475億円、例外項目除く)

    • 特徴:次のレベルへの到達を目指すため、選手補強や施設投資に注力。

  4. 中位クラブ

    • 平均収益:1億7700万ポンド(約3363億円)

    • 平均損失:営業損失が1億ポンド(約1900億円)を超えるクラブが多数。

    • 特徴:競争力維持のため支出が収益を超過する傾向が強い。

  5. 降格ゾーンのクラブ

    • 平均収益:1億4700万ポンド(約2793億円)

    • 選手移籍益:平均400万ポンド(約76億円)

    • 特徴:昇格クラブは残留を目指すため支出が拡大し、財務的に苦境に立たされやすい。


2. チャンピオンシップの財務構造

チャンピオンシップ全体の収益

チャンピオンシップの総収益は7億4700万ポンドで、プレミアリーグのわずか12%に過ぎません。その結果、特に昇格を目指すクラブに大きな財務リスクを伴います。また、プレミアリーグから降格し「パラシュート・ペイメント」を受けるクラブと、そうでないクラブの間には大きな格差が生じます。2022/23シーズンでは、パラシュートを受けた5クラブが総収益の44%にあたる3億2700万ポンドを占め、他の19クラブは合計4億2000万ポンドにとどまりました。

収益グループによる分類

  1. パラシュートクラブ

    • 平均収益:6600万ポンド

    • 平均損失:2900万ポンド

    • 特徴:プレミアリーグ降格後も収益的に優位で、選手移籍での利益が高い。

  2. 上位クラブ

    • 平均収益:3200万ポンド

    • 純損失:1200万ポンド(選手移籍益で損失を半減)

    • 特徴:収益がパラシュートクラブに大きく劣るが、上位進出を目指し支出を拡大。

  3. 中位クラブ

    • 平均収益:2100万ポンド

    • 賃金率:116%

    • 特徴:競争力を維持するために収益を超過する支出を行わざるを得ない。

  4. 下位クラブ

    • 平均収益:1700万ポンド

    • 賃金率:122%

    • 特徴:財務的に非常に厳しい状況であり、オーナーからの資金注入が不可欠。


3. リーグ1とリーグ2の収益構造

リーグ1の特徴

  1. 上位クラブ(イプスウィッチ、ダービー、ボルトン、シェフィールド・ウェンズデイ)

    • 平均収益:2000万ポンド

    • 特徴:下位リーグで突出した収益を誇り、多くが昇格を果たしている。

  2. 中位クラブ

    • 平均収益:1000万~1500万ポンド

    • 特徴:収益規模が限られる中、昇格を目指す投資で損失が拡大。

リーグ2の特徴

  • 平均収益:600万~1000万ポンド

  • 賃金率:83%

  • 特徴:収益情報を公開しないクラブが多い一方で、経営持続性の課題が顕著。

財務指標の比較分析

収益と賃金率の相関

収益が減少するほど賃金率が悪化し、特にチャンピオンシップ以下では100%を超えるクラブが多数を占めます。これは、競争力を維持するための人件費が収益を大幅に超過していることを示しており、リーグ全体の財務的持続可能性に警鐘を鳴らしています。

選手移籍益の役割

上位リーグでは選手移籍益が損失補填に寄与していますが、下位リーグではその効果が限定的です。このため、下位クラブはオーナー資金に依存する傾向が強まります。

収益分配の課題

プレミアリーグとその他リーグ間の収益格差が非常に大きく、プレミアリーグ内でも財務力別にグループが形成されています。特にパラシュートクラブが他のチャンピオンシップクラブに与える競争上の影響は大きいです。


全体の課題

これらの財務データは、英国プロサッカーリーグが直面する収益格差が浮き彫りになります。下位リーグのクラブが競争力を維持するために収益を超過する支出を行い、オーナーの財力に依存している現状と言われざるを得ません。そのため、下記のような課題が挙げられます。

  1. 収益分配の再検討
    収益格差を是正するためには、プレミアリーグから下位リーグへの分配金を増やす必要があるかもしれません。具体的には、パラシュートクラブへの支払いモデルの見直しや、下位リーグ全体のクラブへより公平な分配が挙げられます。

  2. コスト管理の強化
    各クラブが賃金率を適正範囲内に抑えるための仕組み強化が必要かもしれません。例えば、リーグ全体での賃金比率に基づく財務規制を設け、収益を超過した支出を抑制する仕組みを整えるなどが挙げられます。

  3. 選手移籍戦略の再構築
    選手移籍益がクラブ経営の重要な収益源であることを踏まえ、下位リーグのクラブでも収益性の高い選手開発策を構築していくことも考えられます。育成型クラブモデルの確立は、持続可能な収益を確保できます。


収益格差の影響

グループごとの収益格差は、プレミアリーグ内でも複数の「ミニリーグ」を生み出しています。また、下位リーグに降格したクラブは、収益減少に伴う経費削減が求められ、選手層の質やクラブ運営に影響を及ぼしています。

さらに、給与費と収益の比率がリーグ下位になるほど悪化する傾向にあり、クラブが競争力を維持しながら財務健全性を保つことが困難な状況が浮き彫りとなっています。


全体のまとめ

いまや圧倒的に世界トップリーグであるプレミアリーグを有しますが、英国プロサッカーリーグの財務構造は、プレミアリーグの収益規模に依存し、下位リーグにおける持続可能性に多くの課題が存在しているのは事実です。特に、収益格差が拡大する中、リーグ全体の安定性を確保するためには、収益分配の見直しや規制の強化策の実施により、クラブ経営の健全化が課題の一つとして挙げられています。

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