今年つくった新しい授業とワークショップ(2020)
大学はまもなく新年度を迎えますが、新しい授業のデザインについて、以前こんな記事を書きました。
それを受けて、2020年の初めにはこんな記事も書きました。
その後、2020年度について、つくると言ったきりでしたので(もう3月ですが)年度内ということで振り返ってみたいと思います。
1.ABSの「青山アクション・ラーニング MPP」
コロナ禍でスタートが遅れること1ヶ月、5月から青山学院大学ビジネススクール(ABS)で授業を担当しました(非常勤講師)。ABSの特色の一つでもある「青山アクション・ラーニング」の講座のひとつとして、「マーケティング・プランニング・プロジェクト(MPP)」という授業を専任教授の黒岩健一郎先生と共同で担当しました。授業のクライアント企業として 株式会社ティップネス(TIPNESS)様にご協力いただき、「健康経営」をテーマに新たなサービスの創出(サービスデザイン)に取り組みました。
図:ガイダンス資料のスライドより(黒岩教授作成,許可をいただいて掲載)
受講生は、フルタイムコース(昼間)とフレックスタイムコース(夜間と土曜)の両コースの大学院生で担当初年度にも関わらずいきなりフルオンラインの授業となりました。(夜間開講,15週)
予定していた現場のフィールドワークは感染拡大防止の点から見送らざるを得ず、エクストリームユーザーへのインタビューは全てオンラインになりました。授業での講義はもちろんですが、顔を合わせたチームのチームビルディングもディスカッションもオンラインというハードル高めの条件でのスタートでした。いまでこそツールや知見、経験値もたまってきましたが昨年の前期は教員も学生もまだオンラインでの授業には慣れていませんでした。そんな状況の中でも受講生のみなさんは授業に意欲的に取り組み、プロジェクトを前進させていきます。
デザイン思考のプロセスに沿って、リサーチやエクストリームユーザーへのインタビューなどのあと、サービスのアイデア展開、プロトタイピング、詳細化からサービスエコシステムの検討、ビジネスモデルや事業プランの立案と進み、8月中旬には、クライアント企業に向けて2チームで計4件の「健康経営に関わる新規サービス」を提案することができました。(結局、受講生のみなさんとはリアルで一度も顔を合わさないまま前期の授業が終わりました。)
初めて取り組むデザイン思考のプロセスやサービスデザインの手法に戸惑いながら、意見がぶつかったりアイデアが行ったり来たりしつつも、提案のゴールまでたどり着けたのは社会人を含むチームのコミュニケーション・スキルの高さゆえでしょう。
図:授業スケジュール(同上)
プロジェクトの後半、サービスデザインにおいて重要な「経験価値」を検討するため「カスタマージャーニーマップ」を描きながらUXを検討しました。ストーリー作りの意味を理解するまでやや時間がかかりましたが、勘所がわかると素材集のイラストや写真を上手に使って視覚的な表現を伴った想定する顧客のジャーニーが描き出されて、サービスを利用することによる経験価値について詳細な議論がなされました。
サービスデザインに関して参考となる文献も多くあり、ジャーニーマップも参照しやすくなっているため、様々なリソースを上手に利用すれば白紙にゼロから絵を描く必要はありません。ビジネススクールでもリソースの利用と適切なアドバイスをすれば、UXを考えながら、パワポなどで作図し、試行錯誤しつつ視覚的で理解や共感を得やすい「カスタマージャーニーマップ」が描けることがわかりました。
さらに、ステークホルダーを列挙しながらビジネスの広がりを探るために「ステークホルダーマップ」の作成を行いました。関係性を視覚化することで、ビジネスとして持続可能かどうかがわかってきます。自社にないリソースを手に入れるためにすべてお金で解決したり、ステークホルダーからリソースを一方的に搾取するようなモデルでは無理があります。自社の利益だけを追求するのではなく、ステークホルダーを巻き込んだ「エコシステム」を作ることが重要だと気づいてからは提案するサービスのビジネスモデルの検討までかなりスムーズに進みました。
クライアント企業との守秘義務契約のため(MBAならではですね)提案内容の詳細は公開できませんが、農業やメンタルヘルスとの連携、プラットフォーム構築による共創プランなど、フィットネスジムの枠組みを越えた視点からのサービス展開が「健康経営」の事業として企画・提案されました。どれもがビジネスのリアルな数字を伴って企画・提案されています。数字を追って企画をまとめる段階になると、ビジネスプランが検討され、あっという間にエクセル上に数字が積み上がっていき、初期投資額や黒字化の時期が示されていく、その検討の手際の良さとスピード感は圧巻でした。さすがビジネススクールです。
授業は途中でクライアント企業からのフィードバックを受けながら進み、最終回では2チーム計4案のサービス提案をまとめてプレゼンテーションを行いました。クライアント企業からは経営戦略やライバル企業との競争などの観点から厳しい指摘もありつつ、新しい視点やアイデアへのプラスの評価など手応えもありつつ、15週間の授業を終えました。(最後に、例年ならあった懇親会ができなかったのは仕方ないとはいえ残念でしたけれども。)
受講生のみなさんは成績評価のために、授業終了からあまり時間を置かずにレポート提出があり慌ただしい学期末となりました。レポートはすべて読ませていただきましたが、自分の研究や仕事と関連づけたふりかえりや定着がしっかりと記されていて、これが短期間でできるというところにABSのみなさんの実力を見た気がします。
後日、2020年度に受講されたフレックスコースの方の体験談が、以下のABSのサイトに掲載されました。
2020年度マーケティング・プランニング・プロジェクト体験談
● 2021年度は、新しいクライアント企業をお迎えして、新しい受講生の皆さんと一緒に「サービスデザイン」の学びがスタートします。エントリー人数が前年から倍増して、いよいよビジネススクールでも「サービスデザイン」の時代か、と期待が高まります。(いまのところ対面での授業ができそうです)
2.香川大学の 「デザイン・マネジメント」
昨年、記事を書いたときには予定になかったのですが、香川大学創造工学部の大場晴夫教授にお声掛けいただいて、今年の1月に香川大学ビジネススクール 香川大学大学院地域マネジメント研究科で「デザイン・マネジメント」という講義を担当しました。私が担当したのは集中講義3日間のうちの1日、内容は「サービスデザイン」についての概論と演習です。
当初は香川に伺って対面授業の予定でしたが、年末に現地での感染が拡大したため、急遽オンラインでの授業になりました。講義を聞くだけでなく何か手を動かしながらサービスデザインについて理解を深めて欲しいと思い、当初から演習を組み込むことを予定していましたが、東京と香川の遠隔で、はじめましての受講生(20名ほど)のみなさんとグループワークをどのように行うか、オンラインでの実施が決まってから準備期間が少なく焦りました。集中講義なので延べおよそ5時間の授業枠です。オンラインで全て一方的な講義にしたら話す方も聞く方もつらすぎます。各種オンラインツールの利用も検討しましたが条件が整わず、無理せずにzoomのブレークアウトルームと受講するみなさんが使い慣れているパワポや紙とペンなどを使うことにして、ツールに依存しない演習を設計しました。
図:授業概要(講義資料のスライドより)
当日はオンラインで繋ぎ、自己紹介とアイスブレイク、「サービスデザイン」の考え方の概論と事例紹介の講義のあと「ステークホルダーマップ」の演習を行いました。まず各自で好きなツールで「自社サービス(ビジネス)」のステークホルダーマップを作成してもらいます。うまく描けるかどうかという心配は杞憂に終わり、みなさんパワポや手書き(紙とペン)でステークホルダーを書き出してマップが次々に作成されました。
図:演習の進め方とステークホルダーマップの説明(講義資料のスライドより)
次にグループごとにそれらをシェアして議論し、発展の可能性がありそうな一つを選びます。そのマップをもとにして、新しいステークホルダーを想像しマップに追加しながら、新規顧客を見つけたり新しいビジネスのヒントやアイデアについてディスカションし、最後に議論の結果を発表してクラス全体でシェアしました。
もともと正解を求めるものではなくしかも短時間の演習なので、いきなりすごいビジネスアイデアが創出できるわけではありません。自社の見慣れたビジネスやサービスを可視化して見ることや、異なる業種で働くグループの他のメンバーから新しい発想を得ることなどを通じて、サービス全体を俯瞰してみる視点や柔軟にアイデア発想することの価値を感じ取ってもらおうというのがこの演習の意図です。
視覚化のために使った「ステークホルダーマップ」は、たくさんあるツール/手法の一つに過ぎません。はじめてサービスデザインに触れるみなさんに、限られた授業時間の中でサービスデザインを体験していただくには良いと思い、今回の演習に採用しました。
授業終了の数日後にみなさんからのレポートが提出されました。ご自身のふだんの仕事と関連づけた考察や、業務としてサービス開発に関わっている方の論考など、興味深く読ませていただきました。
この「デザイン・マネジメント」という授業はいままで隔年開講だったそうですが、後日連絡があり、授業の好評を受けてか毎年の開講に変更になったとのことで、来年度も引き続いてのオファーをいただきました。次は香川で、うどんが食べられるよう感染の収束を祈りつつ。
ビジネススクールとサービスデザイン
ビジネススクールで「サービス」を扱うことは特に珍しいことではなく、私が通っていた多摩大学大学院にも当時からサービスマーケティングの講義がありました。また、デザイン思考もいまや多くのビジネススクールで授業として扱うようになってきています。この流れで、マーケティングなどの理論とデザイン思考のような創造的な実践とがさらに一体化していき「サービスデザイン」がさらに注目されていくといいなと思います。リアルなビジネスの現場にいる方々が取り組むサービスデザインは解像度が高いです。
そしてそのもう少し先に、ビジネススクールから「高度デザイン人材」として活躍する人が出てくれたら最高です。期待してます。
最後に、ビジネススクールでの授業の機会をいただいたこと、そして熱心に取り組んでいただいた受講生のみなさまに感謝いたします。
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