大作家に会う



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大作家、何とまだ生きてた! 現役!

実は面識あります。20年近く前。薫がまだ生きていた頃。講演会で名古屋にいらっしゃったときに、10分ほど面会。YWCAの講堂。在日文学研究者の磯貝治良の紹介。磯貝さんとは「読む会」で知り合った。勉強会に2回出て、2度と行くまいかと思った。誰とも喧嘩はしてなくて、時間の無駄だと思っただけ。何人かユニークな在日に知り合えたけどね。最初が勉強会ではなく、(当時)レインボーホール近くの焼肉屋の忘年会。皆、新入りのぼくに自身の苦労話を人によっては泣きながら語る。みんな、「さあ食べて食べて」「食べながらでいいから」と言いながら、ぼくは三時間ほとんど聞き役。我慢して聞いていたわけではなく、「いつか、自分に力がついたら、全部、一切合財、書く!」と、皆の無念を書いて、それがすべての人に繋がるように、と、東海道線を跨ぐ橋を歩きながら、ぼくは自分に言い聞かせ、ぼくの帰りを待つ薫にもそう話した記憶があります。薫は「あきちゃんのそういうところが好き」と…‥

当時、翻訳書が出たばかりで、一冊差し上げたのですが金石範先生は読んでくれたのだろうか? あの泣く子も黙る金石範、手渡す際にちょっと震えましたよ。

磯貝さんは律儀にハガキをくれて「静かな感動を覚えます」って、さすが文学者(作家としてはともかく編者としてはとても良い仕事をされていると思う。きっと中日新聞名古屋版に訃報は載るお方です)。

話の流れで、どんな作家が好きかと訊かれ、中上健次、ガルシア・マルケス、ル・クレジオなどを挙げると、「良いご趣味ですね……同胞の作家は?」と。李良枝、金鶴泳……このあとが続かなかった。李恢成は好きではないし、金石範と不仲なのを知っていた。「金石範先生が好きです」と言えなかったのは、刊行分の「火山島」は持っていたけど(当時はまだ未完)、最後まで読めてなかったから。

信じられないほど、長い小説。長すぎると自信を持って言いきれないのは読み終えてないからでもあるけど、やっぱり同胞という意識があるからなのか……自分でもよくわからないです。

現在の「在日」作家なら、李龍徳! ダントツで、文句なく李さん。もっと売れるべき人。数年前に「ジニのパズル」で群像新人賞を獲った、モデルのように美人な在日がいたけど、強く推した島田雅彦が還暦すぎてもどスケベなだけ。さすが中上健次に「ふんころがし」という呼称&勲章を貰っただけあるザ・文壇人(最近「パンとサーカス」という、おそらく彼の代表作となる長い小説を出したけどね)。

「ジニのパズル」が賞穫るほど「在日文学」は、だめなのか? だめです。”在日”は、日本に在る、という意味。少なくとも日本にいる皆が一人残らず幸せになる方法を考え、皆の日々の生活をまるごと改善できなくて、何が在日か。

たまたま何代か前が朝鮮半島から来て、程度は個人差があるけど理不尽な想いをしただけで、日本に住む皆が幸せを感じるお話はそう簡単には書けない……という結論とため息。

ぼくがデビューしたら在日扱いなのか? それだけはゴメン。いや、在日でも帰化人でもチョンコーでも、何でもOK。

薫を呼び戻し、一緒に死ぬことができれば、それでぼくはOKです。それで蹴りはつく。

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