見出し画像

【コラム】星のこと①-今、ここにしかない星空-イワシロアヤカさん

2023年9月3日(日)に開催したアキラボ星の観察会の講師・イワシロアヤカさんの星についてのコラムを3話に渡ってご紹介。第1話は、今、この瞬間しかみられない星のこと。


時代も場所も超えて、変わらぬ姿の星座たち

私たち人類は、はるか昔から星空を見上げてきました。星座の最も古い記録はメソポタミア地域で見つかった粘土板「ムル・アピン」に刻まれています。今からおよそ5000年も前の、紀元前3000年頃には、人は空を見上げ、星を結んでいたのです。
そこには、しし座、さそり座、おうし座など…現代の私たちにもなじみのある星座も登場します。時代も場所も超えて、星座は同じ姿のままで私たちを楽しませてくれています。
 
それ自体はとてもロマンのあるお話なのですが…もしかしたら、こんな考えが浮かんでくるかもしれません。
「星なんて、いつ、どこで見たって同じじゃないか…?」
 
私はかれこれ約13年の間、全国各地で星空案内をしてきました。確かに、どの場所でいつ見てみても(季節や緯度で見える範囲こそ変わりますが)、星座は変わらぬ形を保っています。

こんな質問を受けることもあります。
「いつ見てもどこで見ても同じなのに、見る意味あるんですか?」
鋭い質問に「そ、そうきたか」と思いながらも、私はこうお答えするようにしています。
 
「いつ、どこで見ても、同じ星空は2度とありませんよ」と。

変化の絶えない宇宙

「いつ見ても同じではない」というのには理由があります。実際のところ、私たちの見ている星空は少しずつ変化しているのです。
 
いちばんわかりやすく変化しているのは「月」でしょうか。毎日のように形を変えているだけでなく、昇る時刻も日々変わっています。月があると空全体が明るくなり、暗い星は見えにくくなります。月が無ければ、暗い場所では天が星で満たされるでしょう。
 
太陽系の他の惑星もそうです。パッと見ただけでは動かないように見えますが、それぞれのペースで星座の中を行き来しています。木星を例に見てみましょう。2023年はおひつじ座にある木星ですが、来年にはおうし座、再来年にはふたご座といった具合に、見える場所が少しずつ移動しているのです。
 
星座をつくる星たちも、実は固有運動と呼ばれる動きをしています。これによって、地球から見える星座の形は実は少しずつ変わっています。現在の星座の形も、1万年単位で見ればかなり変わります。

(上2023年9月3日20時の高知の空、下、32023年8月3日23時の高知の空)
 
図の現在と3万年後の空を見比べてみてください。将来さそり座がジグザクに、へび座の頭の▽の部分が扁平になることがわかります。地球の自転軸の傾きも変わり、南半球の星座も見えやすくなっています(くじゃく座、さいだん座など)。
死ぬ星、生まれる星もたくさんあります。星の死にかんして言えば、過去には100-200年に一度のペースで超新星爆発(星の死)が肉眼で捉えられてきました。次はオリオン座のベテルギウスの番だ、と言われています。超新星爆発を起こせば半月ほどの明るさで見え、数カ月間の間は昼でも確認できると予想されています。星たちは静かに、しかし激しく変化しているのです。
今まさに、私たちが星を眺めているこの瞬間も星空は変わり続けています。それはすぐに気づけるようなものではないかもしれません。しかし確実に言えるのは、今この瞬間の空は二度とない、ということです。

ここにしかない星空

では、「どこで見ても同じではない」の理由とは何なのでしょうか?
ここで、私が実際に目にした「安芸の星空」がどんなものだったか、ちょっと思い出してみたいと思います。
 
9月はじめの、昼間の暑さが残る、それでいてすこし涼しい気温。 安芸海岸の砂浜に出ると、海辺特有の湿り気のある空気で包まれたような肌の感覚がします。 海に向かって星を見ると、地平線のあたりは黒く(暗く)ぼんやりとしたもやがかかり、星を隠しています。もやの層から上に、さそり座、いて座などの星座たち。頭上には、夏の大三角を形作る、はくちょう座、こと座、わし座の星ぼし。 そして、夏の天の川。星は優しい光で輝き、ちらちらとまたたいて夜空に光をともしています。

(イベント当日の様子 写真:小松八月)
 
どうでしょう?私がどんな星空を見たか、なんとなく想像していただけたでしょうか?
 
ここで伝えたいのは、その日の気温、湿度、空気の流れ、雲の出方、場所の条件などによって、物理的に星の「見え方」は変わる、ということ。海なのか山なのか、風があるのかないのか、場所の高度はどのくらいか、空の広さや暗さはどうか。実に様々な条件が、その場所固有の星空を作り出しています。
 
もう一歩、「見える」ということに踏み込んでみましょう。
私たちは「眼」でモノを見ていますが、実際に「見える」のは、光の信号が脳に届いたときなのです。「脳」でモノを見ているといった方が良いかもしれません。脳には様々な情報が集まります。五感(見る、聞く、嗅ぐ、味わう、触る)プラス、心で感じることも処理しているのです。
 
同じ星空であっても、見る人の心境、一緒にいる人との関係性、状況(旅行に来た、ベランダから見た等)などで、情報処理の結果はまるで違ってきます。ある人にとっては、なつかしいと感じる。またある人にとっては、寂しさを感じる。好きな人と見る星なら、一層美しい星空に見えることもあるでしょう。
 
私は「アキラボ(安芸の自然観察会)」イベント参加者の皆さんと一緒に安芸の星空を見たのですが、皆さんここの星空はどんな特徴があるか、ということに注目していました。さらに、私(イワシロアヤカ)によるガイド付きですから、ただ眺めるのとは違う「見え方」をしてくるものです。鋭く観察できたり注目すべきポイントがわかったりして、それぞれに「安芸海岸ならではの星空」を見ていました。

安芸の星空が語り掛けるもの

9月の安芸海岸で見る星は、その「優しい輝き」と「またたき」が本当に印象的でした。まるでこちらにやさしく語り掛けるようで、波の音に合わせて踊っているようでもありました。
 
私たちの時間スケールでは、永久不変のもののように思える宇宙。
しかし実際は、穏やかに見えてダイナミックに変わる宇宙。
 
星が瞬間のきらめきを見せてくれることは、その変化に気付かないで通り過ぎてしまいそうなわたしたちに、問いかけているのではないでしょうか?
 
この場所で、この時を生きることの奇跡を
安芸の星空が、優しく教えてくれたような気がしました。

イワシロアヤカさんプロフィール

sorasio/星の案内人
子どもの頃から星や宇宙が好きで、天体望遠鏡メーカーのピクセンに入社。その後、高知に移住し、星や宇宙の魅力を伝えようとsorashiroを設立し、星空体験プロデューサーとして活動。愛媛県出身。

note/https://note.com/sora46design
Instagram/https://www.instagram.com/sora46design/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?