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「あなたへ」

はじめに、このnoteはファンレターである。散々雑貨屋でうろついた結果選び抜いたカービィの便箋につづるにはあまりに長ったらしいけれど、捨ててしまうにはもったいない。あわよくばいつかインターネットの波に乗ってあなたに届くようなことがあれば、という傲慢な思いの結晶でもある。そういう大した考察力や力音楽的知識もない知らないどこぞのファンのファンレターを覗き見る程度の感覚で読んでいただきたい。

「あなたへ」は私のいわゆる「推し」である神山くんが作った曲だ。私は彼に対して多大なる好意と羨望と愛情と、そしてコンプレックスを抱えている。

私という人間はとにかく弱い人間である。中学の時なんかは毎朝ストレス性の嘔吐を繰り返しては慢性的な微熱と腹痛を抱えていたし、高校に上がると体調は落ち着いたもののどうしても学校に行けず通学路で蹲って泣いていたことも一度や二度ではなかった。特にいじめられていたわけでも家庭環境が劣悪だったわけでもなく、どうやらただただ毎日を生きることがへたくそんな子供だった。そしてそれは残念ながら今もあまり治っていない。

そんな人間にとって神山智洋というひとは最高にかっこよくて眩しくて、ちょっとだけ怖い。一度決めたら絶対にどんなに大変でも時間がかかっても、やり通して必ず自分のものにしてしまう、私と正反対のとてもつよい人だから。ただまっすぐまっすぐ努力して習得した結果あふれかえった彼のスキルだけをみて、器用だとか才能だとかで済ませてしまうのは彼に対しての侮辱のようにも思えてしまうから、私は彼を器用と形容することをあまり好まない。

余談だが神ちゃんにはトランペットがよく似合う。リードを震わせて音を出す木管楽器よりも息がそのまま音になる金管楽器の方が真っ直ぐで誠実な彼に似合うし、あの高くて華やかな音色が彼の歌声にとてもよく似ていると思う。彼の吹くトランペットの音を生で一度聞いてみたい。

話を戻そう。がむしゃらにギターをかき鳴らし自己肯定の歌をうたい、スポットライトの下でおれを見ろと言わんばかりのダンスを踊り人生を謳歌する強いひとを。私みたいな人間が彼を好きだと名乗っていいのだろうかと、彼の努力の結晶にただのりしているような気がして、時々悩む。なんでも努力で勝ち取ってきた神ちゃんは、生きるだけでめいっぱいで何も頑張らない怠惰な私みたいな人間は好きではないだろうなとか被害妄想も甚だしいことを思ったりもする。とにかく私は神ちゃんに対してそういう羨望とコンプレックスを向けていて、でも絶対に分かり合えない真っすぐで眩しい太陽みたいな神ちゃんを遠くから眺めて眩しさに目を細めているのが好きだった。「あなたへ」を聞くまでは。

「あなたへ」はシンプルなつくりをしている。冒頭Aメロからサビ前までは自分の感情を表すのに最適な言葉を見つけ出そうともがく歌詞を書くしげとは対称的に、はっきりと真っ直ぐに誤解無く伝わる言葉をぶつける彼らしい歌詞が続く。神ちゃんが「あなたへ」というタイトルの曲を書いたと聞いたときにこういうことを書くだろうなと想像していた通りの言葉たちだったし、曲を聞く前に歌詞カードを開いた私はああ神ちゃんの言葉だなと納得していたが、驚いたのはこの先だった。

【あなたへ
一人じゃない 一人にしない
隣で笑う僕たちがいる
七転び八起きなんて言うけどさ
疲れたんなら転がったままでいいんじゃない?】

サビの歌詞。彼はずっとがむしゃらに走っている人だと思っていた。転がっている時間なんてもったいないと、一刻も早く起き上がって走り出そうとしている人だと思っていた。だからこの曲でだって立ち上がれ、負けるなと鼓舞されると、怠惰な私は叱咤激励されるのだと思って覚悟を決めていた。でも神ちゃんは「疲れたんなら転がったままでいいんじゃない?」と言ってくれた、それを私たちに「あなたへ」と題して送ってくれた。それが嬉しくて嬉しくて気が付くとまだ曲を聞いてもいないのに泣いていた。

神ちゃんにだってきっと疲れて転がりたいときがあって、「幾重にもバリアを張って」自分を守りたい日も「1のプラスが10のプラスを越え」る日も「どん底に落ちた夜」もあって、悲しくて泣きじゃくりたいときがあった。この曲を歌ってほしい日があった。ただ私たちの前ではいつでも笑ってくれていただけだった。考えてみれば当たり前なのに、私はそのとき初めて気が付いた。

このときの感情を表すなら嬉しかった、が一番正しいと思う。この言葉をチョイスするのは変かもしれないけれど、誰よりも好きな人とこの辛さを共有出来ていたこと、それを肯定してくれたことがとんでもなく嬉しかった。ずっとずっと嫌いだった弱い自分をよりによって大好きで、でも絶対にこの弱さを知らないと思い込んでいた人に認めてもらえた。同じ人間だった。かみさまじゃなかった。いや「生きとし生ける あなたへ愛を」向けられる神ちゃんはやっぱりすごい。眩しい太陽だ。でも、確かに地続きの場所にいる人間だった。それが知れてすごくすごく嬉しかった。起き上がれなくても泣きじゃくっててもいいんだ、とずっと嫌いだった自分をその大きな手のひらで掬い上げてもらえた気がした。

他の好きな曲を聴く回数が増えても、またいつかやってくる夜の底で縋るのは「あなたへ」だ。熱があるときに飲む解熱剤のように、頭痛がするときに飲む鎮痛剤のように、辛いときは私は「あなたへ」を聞く。薬箱に常備してある薬みたいに私のスマホにはいつでも「あなたへ」がある。そう思うだけでとりあえず一歩踏み出してみようかな、起き上がってみようかなの勇気が出る。だから神ちゃんはこの曲を薬と呼んだのだと思う。

あなたへ。あなたに出会ってから私は初めて髪を染めました、新幹線に乗って一人でライブに行きました、どうしても学校に行けない日アクスタを握りしめて登校しました、パルクロのジャケットを着て電車に乗りました。あなたの与えてくれる全てが私を強くしてくれて、あなたに胸を張れる人間であろうという思いが前を向かせてくれます。きっと少しのタイミングの違いで違う人を好きになっている世界線もあって、運命だとか大層なことを言うつもりはさっぱりありません。でも私はあなたに出会えるこの世界線に生まれてこれて本当によかった、あなたに出会えてよかった。

あなたの人生によいことしか起こりませんように、あなたの努力があなたの願う形で全て実を結びますように。微力ながらずっと願っています。

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