カレーを審査する
カレーの審査員をつとめさせていただくことも少なからずあるのですが、毎回思うのはその順位は、場所や時期や審査員が変われば、確実にまた違うものになってくるということです。
例えば先月行われたo/sioのカレーイベント。
ミシュランで星獲得の名店sioの鳥羽シェフを初め、系列店のシェフ3名がカレーを作り、誰がどのカレーを作ったのか明らかにせずに食べ比べたお客さんに投票してもらうというシステム。
これがそのカレーです。
全て美味しかったのですが、僕が選んだのは黒カレー。
ちなみに順位は最下位でした。
続いて先日行われたカレー新世界というイベント。
全国から集まった6名のカレーシェフが、やはり誰がどのカレーを作ったのか明らかにしないままカレーを出し、食べ比べたお客さんが投票するというもの。
これがそのカレーです。
やはりこれも全て美味しかったのですが、僕が選んだのはテトカレーのカレーでした(結果発表後に自分が選んだのがテトカレーだったと知りました)。
ちなみに順位は1位でした。
1位当てクイズではありませんから、僕が審査してもこのように最下位のカレーも選べば1位のカレーも選びうるのです。
例えばo/sioの黒カレーを選んだ理由は、「カレーイベントにおいて洋食的黒カレーを持ってくるというその度胸と、3つの中で最も手間暇かかっているだろうカレーであり、その手間に対する賛美を込めて。」というものです。
例えばカレー新世界でテトカレーを選んだ理由は、「他に個性を感じる好みのカレーもあったものの、このカレーが6つの中で一番バランスが良かった。」というものです。
審査基準もその日の気分で変わるわけです。
違う日にそれぞれのカレーを審査したとしたら、きっと違うカレーを選んだことでしょう。
例えば大会だとして、予選レベルだったら力の差もあるでしょうから、100のうち10を選べと言われればそれほど結果にブレは無いと思います。
しかし、その10のうち1を選べとなると、ブレブレのブレです。ブレまくります。
ですから、カレーイベントに出場したシェフの皆さんは、この結果に対して落ち込むことはまったくありませんし、逆に言えば喜びすぎてはいけないと思うのです。
そもそもカレーを審査するってどうなのよ?という意見もあるでしょう。
お前そんな審査できるほど偉いの?って思う方もいるでしょう。
まったく偉くありません。僕より美味しいカレーを作れる方はごまんといるでしょうし、皆さんに対してリスペクトを持っています。
しかしそれでも審査するということに対しては特に違和感を持っていません。
何故なら僕もアーティストとして、過去に様々なオーディションを受け、評論家やアーティストやプロデューサーや素人に審査されてきたからです。
世の中、そういうものだと思っていますし、玄人が選んだ結果と素人が選んだ結果は当然差が出てくるとは思いますが、どちらが上でどちらが下ということはなく、いずれにしてもひとつの指標でしかないと思っているからです。
僕は普段から食べログをレビュワーとして利用していますし、その際には点数での評価もしています。
しかし、その評価ですら、その時の気分によるものが少なからず反映しています。
気分で評価されてしまってはお店の方にとってはたまったものではないと思います。
しかし、良い気分になったカレー、悪い気分になったカレーにはれっきとした差があり、当然悪い気分になったカレーをまた食べたいと思うことは無いのです。
悪い気分にさせない為には、美味しいカレーを作るというのはもちろん、それ以外の要素も気を付けなくてはいけません。
接客の良し悪しという部分もありますが、必ずしも接客が良くなくても高得点をつけているお店も少なからずあります。
そのお店は何故高得点なのかというと、接客が良くないということをちゃんと最初からわかるようにしてあり、それを差引しても十分満足できる味の良さがあるからです。
サービス料を取っているのに接客が悪いとなれば話は別ですが、カレーを作ることは得意でも接客が苦手というシェフも少なからずいますし、それはそれで個性ですから。
というわけで、どちらのカレーも、優勝したシェフ、おめでとうございます。
順位の低かったシェフ、気を落とさないでください。
競える舞台に上れたということを誇って良いと思います。
また僕は今も違うカレー関係の審査を続けている所です。
できるだけ偏らないように審査するつもりではいますが、最終的には気分も入りますし、それは運だと思います。
最後に言いたいことがあります。
僕もアーティストとして様々なオーディションを受け、一万組の中からグランプリを受賞したこともあれば、審査員特別賞にとどまったこともあれば、当然予選落ちしたこともあります。
グランプリを取ったからと言って必ずしも売れるわけではありません。
同じオーディションからデビューして、僕よりも売れたアーティストも少なからずいます。
審査というのはそういうものだということを付け加え、筆をおきます。