あったりめえのこと
2023/11/02(木)
私は教養がないので、パレスチナとイスラエルのあいだで大きな争いが起こるたびに「5分でわかるパレスチナ問題の概要」みたいなまとめ記事を読み返す(わけのわからない人が書いたブログとかじゃなく、NHKのサイトなどに載っている文責が確かなものなので安心してください)
国家、民族、宗教の問題が複雑にからみあっていて、どれかを外して考えることができないのはわかる。簡単にどちらかが愚かだとか、両方が愚かだとか言えないよ。
一方で、軍師ぶって高いところから賢しげに状況を分析していないで、とにかく戦争はよくない、と言わなきゃいけないとも思う。
心がふたつある。
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藤田和日郎『三日月よ、怪物と踊れ』の5巻と最終6巻を一気に読んだ。
連載作品で、極めて自覚的に「女の話」を描いたのは初めてじゃないかと思う。藤田先生は「300%説明してやっと読者に100%伝わる」という姿勢のお方なので、メッセージはかなり直截的に篭められている。
熱血マンガ家、少年マンガ家、いわゆる「男のマンガ家」の代表のようなお方が、社会に隠された女、男に虐げられた女をどう描いたか……。私はすごい傑作が生まれたと思う。ぜひ読んでみてください。
5巻の「『フランケンシュタイン』なんか書くんじゃなかった」と絶望しているメアリーと、それを読んで泣くエルシィが、お互いの胸の裡を語り合う場面は、もう本当に素晴らしい……。『からくりサーカス』の勝と鳴海の関係に似ているかもしれない。勇気だけあって力がない人と、力だけあって心を失くしてしまった人が、お互いの中に星を見つけ、協力して戦っていくお話。
あと「全6巻」というボリュームがとてもいいと思う。「今度の連載は短めにする」などとおっしゃりつつ、描きたいことがあふれすぎていてすぐ30巻とかの長篇になってしまうのが藤田先生ですけど、短期連載を強く意識なさったことで、この巻数に、濃い物語がみっちみちに収まった。人にお薦めしやすい。
この作品は、作中の時代考証、戦闘シーンの振り付け(円舞して踊るように戦う暗殺者の物語なので)、登場する衣装のデザインのために、それぞれ学者、ダンサー、デザイナーを雇っていて巻末にクレジットされている。
監修協力の専門家の方々にきちんとスポットが当たることは本当に素晴らしい。その一方で、ここまでやらないと現代の読者が満足する密度の作品を作れないというのが明白にされるのも怖いな、と思った。
最高峰のマンガ家にそれをされたら、お金も知名度もない新人マンガ家はどうしたらいいのか。私はどうしたらいいのか。困る。