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20年の時を経て、私と梅干しの再会

私はとても渋い子どもだった。
おじいちゃん子だったこともあって、日曜日は一緒に笑点を見たし、小学生にして「渡る世間は鬼ばかり」にハマっていた。
スルメや珍味などのいわゆる酒の肴が好きだった。

そして特に好きなのが梅干だった。
好きな食べ物を聞かれたら梅干しと答えていたくらいに、小さい頃から梅干しが好きだ。

中学生の時初めて自分の携帯を持った。
迷いに迷って決めた初めてのメールアドレスは「umeboshi@…」だった。なぜ迷った挙句に中学生女子のメルアドが「umeboshi@…」になってしまったのか。決めかねていた私は姉に相談し、「そんなの自分の好きなものにしたらいいよ〜」と言われたのでじゃあ簡単だ!と、umeboshiにした。
同級生の女の子たちはペットの名前やスイーツなど、なんだかかわいいアドレスにしているなか、今思えばなんとも渋い。こんなメールアドレスでよく好きな男の子とアドレス交換なんてできたものだなと、我が道をいく幼き日の自分に拍手を送りたい。

私をこんなに梅干し好きにしたのは、おばあちゃんの梅干し。

全然酸っぱくもなく、でも甘いわけでもなく、子どもでも食べやすいちょうどいい塩梅。子どもの頃から慣れ親しんだその味が私は大好きで、おばあちゃんの家に遊びに行くたびに瓶でもらってくるその梅干しが本当に楽しみだった。

おばあちゃんは私が小学生の時に亡くなって、おじいちゃんはそれからずっと一人暮らしをしていたのだけれど、数年前についに家を出ることになった。
少しずつ片付けが進んでいる中、お母さんのもとに「梅干しが見つかった」との知らせがあった。

そして私たちは20年ぶりにおばあちゃんの梅干しに再会した。
そこには、大きな樽いっぱいの梅干しがぎっしりと詰められていた。

おばあちゃんのことを思い出す回数ももちろん減っていたし、あんなに好きだったのにおばあちゃんの梅干しのことを思い出すことは今までなかった。

それでも一粒食べると、全部覚えている。

この味のこと。20年以上も経つけれど何も変わらない、いい塩梅。
これをつけた優しいおばあちゃんのこと。この梅干しが、眠っていた思い出を呼び起こしてくれた。
食べ物の味で思い出が蘇るって、こういう感覚は初めてのことで、なんだかしんみりとしながら、もう一粒。
その日はおばあちゃんの命日だったから、きっと思い出して欲しかったのかな。

保存食である梅干しだからこそ、おばあちゃんが生きていたあの時のまま、あの時の味に出会えた。
20年ぶりの再会に私はなんだか感動してしまって、将来梅干しをつけてみようとひそかに思っている。この梅干しのレシピはないけれど、おばあちゃんの味に近づけられるように、何十年も残る思い出の味を作ってみたい。

私も少しおすそ分けをしてもらって、おばあちゃんの梅干しは私と一緒に東京にやってきた。
今日も思い出とともに、大事に梅干しを、また一粒。

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