ノックのマナー
路面店巡りの途中、コンビニのトイレを借りた。
腰を下ろすと、程よい足腰の疲労に気付いた。
間もなく外から足音が近づいてきて
扉の向こうで止まった直後、ノックされた。
返事をしなくても、鍵がかかっているから
まさか入ってくることはない。
それに、赤くなっているから分かるだろうと思った。
すると、またノックされた。
どうしてわざわざ確かめる必要があるのだろうと
少々疑問に思ったが、さすがに無視するほど余裕がなかった訳ではないので、
ソフトな拳をつくり手を伸ばした。
コンコンコン、、
わたしは丁寧に扉を三回鳴らした。
その瞬間、あることに気づいた。
今までは、外の人がノックをする理由について
「入ってますか〜?」もしくは「生きてますか〜?」
という意味だけだと思っていた。
しかし今回のパターンのように
「今から待ち始めますよ〜!
急いでください〜!はい!よ〜いスタート!」と、
まるでストップウォッチを押すかのような
相手にプレッシャーを与える手法でもあるということに!
わたしはこの意味を知り、急に出るのが怖くなった。
彼女はどんな形相で待っているのか?
解錠した途端、ものすごいスピードで扉を開け、
「どいてどいてー!」と押し込むように入り、
最終的にうまく出られなかったわたしは、
同じ空間でひとときを過ごす、なんて事になったら、、
などと余計な妄想をした。
そんなことにならないようにテキパキと支度をする。
もともと長居するつもりはなかったものの、
一呼吸くらいはつきたいと思っていたので
なんだか不完全燃焼である。
いろんな気持ちが入り乱れたが、準備は整った。
いよいよ鍵に手をかける。
果たして外の世界には何が待ち受けているのか。
ガチャ。
鍵を開け、ゆっくりと扉を引く。
幸い、妄想したようなことにはならなかったが、
目の前には壁に寄り掛かり腕組みをした人がいた。
何か言われるのではないかとビクビクしたが何も言われなかった。
でも一応「すいません」と言って足早にその場を去った。
この話を知り合いにしたところ、
“ノック意味”については既に知っていたので驚いた。
こんなこと学校では習わなかったし、
今まで生きてきて、誰も教えてくれなかった。
みんなわたしより人生経験が豊富だ。
『ノックにもマナーはある』と勉強になった。
個室と言えど、お尻丸出しのプライベート空間だ。
そんなときにノックをされるだけで
“外側”を意識しなくてはいけなくなる。
せめて数分待ってそれでも出てこないような場合に、
相手を気遣う優しいサインとして使える大人の余裕はもっていたい。
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