国際パピローマウイルス学会・日本産科婦人科学会合同メディアカンファレンスを聴講した感想
こちらの講演会を聴講しました。
プログラムに沿って、講演会の大まかな内容と所感をメモしておきます。
記憶を頼りに書いている部分も多いので、正確性・網羅性は高くないです。
I ビデオメッセージ
松田 陽子 様(キャンサーサバイバー、女優)
ご自身のがん治療の体験談を話していた。
現在はワクチンがあること、検診の重要性を訴えていた。
当事者からの言葉は説得力がある。年間約1万人もの子宮頸がん罹患する人がいることを踏まえると、日本で年間1万ずつ似たようなことがあるのかと考えさせられる。
Suzanne Garland 教授(国際パピローマウイルス学会 会長)
日本で9価ワクチンを定期接種化するという話を聞いて、興奮している(exciting)と話をしていた。
先進国の諸外国と比べて、日本のワクチン政策が遅れている分、いかに早く取り戻すか課題は残されていると思う。
II 座長挨拶
木村 正 教授(日本産科婦人科学会理事長)
2013年の定期接種開始から積極的勧奨が中止になったとき、一体なにが起きているのかわからなかったという趣旨の話をしていた。
産科婦人科学会から声明を出したが、取り上げられずに8年以上も積極的勧奨の中止が続いたことを残念そうに話していた。
積極的勧奨中止の期間はさすがに長過ぎたと思う。
メディア・行政はもとより、政治側の責任もあろうかと。
笹川 寿之 教授(国際パピローマウイルス学会学術集会 2023 日本側会長)
HPVワクチンの有効性と安全性はしっかり確立している旨の話だった。
接種後に多様な症状が出ていることは事実であるが、ほとんどが紛れ込みであるとの話をしていた。
科学的な根拠を科学的に妥当な解釈をすることによって、「安心」したいと改めて感じた。
III 講演
1. 井本 成昭 先生 (厚生労働省健康局 予防接種担当参事官室)
2009年のHPVワクチン導入から現在までの行政の取り組みについて述べていた。
2013年の積極的勧奨差し控えについて、「(接種後に多様な症状の報告が相次いだことから)不安が生じたため」と説明していた。
科学的に妥当でない解釈をもとに「不安」だとして、ワクチンの利益を受けられないのは、とても残念。
2. 岩永 直子 様 (BuzzFeed Japan Medical Editor)
読売新聞時代の話から、読売新聞を辞めてBuzzFeedに移った話、それから、論理も大切だが感情も大切であるという話をしていた。
読売新聞時代では、子宮頸がんやHPVワクチンの記事を書こうとすると上司から止められ、医療部門から外されるということがあった、BuzzFeedに移ってからは会社側からそういった圧力はないとのこと。
積極的勧奨の中止で接種率が激減しており、現在もそれほど接種率が向上していないことへの危機感を訴えていた。
キャッチアップ接種が始まっているが、期限が3年(あと2年)と区切られているため、ここを逃すと積極的勧奨中止世代の救えるはずの命を救えなくなる。そのためには、関係各所が連携した大々的なキャンペーンが必要ではないかとの話があった。
メディア関係のことはあんま詳しくないけど、特に朝日新聞の悪評を見聞きするし、報道機関の責任は重そうだ。
キャッチアップ接種は、この世代にとってはラストチャンスなので、今の接種率の上がり方では足りないと思うのも頷けるし、そうだと思う。
3. 池端 玲佳 様 (NHK報道局科学文化部 記者)
NHKで報道していたことや、自身が取材した内容などを話していた。
子宮全摘術をした女性の話などを交えて、当事者目線での話が多かった。
最近のNHKは、子宮頸がん予防について積極的に記事を出している印象があるので、頑張ってほしいところ。2013年当時の反省も踏まえて。
4. 春山 怜 先生 (国立国際医療研究センター 国際医療協力局)
子宮頸がん撲滅に際して5つのハードルがあると解説。
高所得国・低所得国に関わらず公的な接種プログラムでの接種率は各国まちまちであるとのデータを提示。
男子に対しての接種が進んでいる国があることを紹介していた。
世界では、2回接種から1回接種へと推奨が切り替わりつつあるとのこと。
諸外国に比べて日本のワクチン政策が遅れていることを改めて感じた。
政治・行政がやるべき課題は多くある。
IV 総合討論
指定発言:大阪大学大学院医学系研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教授 猪原秀典 先生(ビデオメッセージ)
HPVと中咽頭がんの関連についての話があり、飲酒とたばこが原因になることや、約半数がHPVと関連することなどを解説していた。
ジェンダーに関わらず、男性にとってもHPVワクチンは大事であるとのこと。
完全同意。「男性は子宮頸がんワクチンの当事者でない」という誤解を救いたい。
春山さん
疾患の負荷の大きさで言えば、中咽頭がんや陰茎がんに比べて、子宮頸がんのほうが大きいため、WHOの推奨は女子を優先となっているとの返答。
完全同意。ワクチンの供給制約などがある現在は仕方ないことだと思う。
V 質疑応答
司会(宮城さん)
HPVワクチンの費用対効果はどうなのか?
井本さん
感染症研究所が作成したファクトシートをもとに審議会で議論し、費用対効果に優れるとされ定期接種を導入している経緯があるとの解説。
ワクチンを導入せずに治療した場合のコストよりも、ワクチンを導入してがんを予防したほうがコストがかからないという話だと思う。
ファクトシートを読んだこともあるけど、難しくて正直よくわからんかった。
司会(宮城さん)
HPVワクチン全例登録が終了するが、終了後も正確に接種率を出すことができるのか?
井本さん
全例登録終了後も、市町村からの報告で接種数を把握できるので、それをもとに接種率を出すことができる。
感想まとめ
政治・行政側に残された課題を再認識するとともに、ワクチンを忌避したい気持ちを考えて「不安」に寄り添う姿勢が大事であることも意識するようにしたいと思った。
とはいえ、ベースになるのは科学的根拠を妥当に解釈することという考えは捨てられないので、そことの折り合いをつける難しさをなんとかしなきゃいけないのだろうと思っている。
守れる命は守りたいものです。