参考にならないHow to★作詞家になるには [3]

ガチャっと社長が会社のドアを開けて中に入り、私も中へと通された。
入り口からすぐのところに長方形の大きなテーブルがあり、会社員らしき男性が2名、女性が2名、私から見たら向こう側に横並び一列に座っていた。
社長は、その人達の真ん中にちょこんと座ると私に「どうぞ」と言って、社長の対面に座るよう促した。

長方形の机の向こうに5人の大人。
その向かいに1人の私。
なにこれー。面接みたい。
と思った矢先、社長の右隣に座っていた男の人が
「えっと、じゃぁ…とりあえず履歴書を」
と言った。

パニックである。
遊びに来いと言われて本当にふらりと遊びに来たつもりの私はジーパンにチュニックというとてもラフな格好をしていたし(社長が先ほど私の全身を数秒間見たのはこのせいだろう)、今思えば手土産のひとつも持っていたのかすら定かではない。
ただただ可愛いカップルに会って、スタジオとかを見学して、少しばかり音楽業界というものに触れて帰ろうと思っていた私に突然要求された履歴書。

「え?え、え、も、持ってません…」

「え?!」
私の向かいに座る5人の大人たちが皆一様に唖然とした。

「あの、社長さんに『遊びに来い』と言われたので本当にそのつもりで…」
恐る恐る私が言うと、誰からともなく大人たちは「また社長の早とちりか」とか「じゃぁ…」とか言いながら席を立ち、それぞれのデスクへと戻っていった。

長方形の大きなテーブルにはバツが悪そうに下を向いた社長と、その向かいにまだよく事態を吞み込めないながらも申し訳ない気がしている私の二人が残された。

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