参考にならないHow to★作詞家になるには[14]
その日三浦徳子さんは、「劇場版ポケットモンスター アドバンス 七夜の願い星 ジラーチ」の主題歌となる「小さきもの」の作詞の打ち合わせをしに会社を訪れたのであった。
三浦さんが社長と打ち合わせ中は同席しなかったけれど、お帰りになる時は一緒にお見送りをした。
三浦さんの姿が見えなくなってから私は慌てて社長に駆け寄った。
「今の方、作詞家って言ってましたよね…?!」
社長はまたコイツ訳の分からないことを言い出したというような顔で
「聖子ちゃんの『青い珊瑚礁』とか郷さんの『お嫁サンバ』くらいはお前も知ってるだろ。他にもいっぱいあるけどよ、あの歌詞書いた人だよ。昔っからの大作詞家先生だよ。お前の大大大先輩だな」
「作詞家」
その言葉が造語だと思っていた私にとって、ドラゴンやユニコーンや麒麟が目の前に現れたようなものだった。
特定の歌い手さんの専属じゃなくて、いろいろな歌い手さんに歌詞だけを提供する職業がある…?
自分では歌わずに…?
演奏もせずに…?
歌詞だけを…?
そんな職業がこの世に存在するなら、なりたい…!
すごくなりたい…!
「社長!私作詞家になりたいんですけど!」
社長は呆れかえった口調で
「…最初からなれって言ってるんだけど…
てかお前もうお前の歌詞CDになってんだろ…」
社長はいつも通り背中を丸めて会社へ続く外階段をカンカンと上って行ったが、その背中はいつもよりもかっこよく見えた。
夢は、景色を変えるのだと知った。