参考にならないHow to★作詞家になるには[15]
社長が「うちと契約して作詞家になれ」と言い、私が「作詞家になりたい」と言ってから2年が過ぎた。
明日香との友情は続いていたけれど、明日香が成長して自分で歌詞を書けるようにもなり私が歌詞を書くことはほとんどなくなって来ていた。
「社長、暇なんですけど」
「社長、どうしたら作詞家になれるんですか」
給料が出るわけではないので土日のアルバイトに復帰していた私が時々社長に連絡を入れると、社長もなんとも言えずに口ごもってしまう。
居酒屋でもらった名刺にあった通り社長はそもそもCM音楽制作会社の社長であり、明日香のためにアーティストマネジメント業務を導入したものの、新人の作詞家に仕事を取って来る術はなかった。
自分でなんとかしなければ。
作詞家になるにはどうすればいいんだろう。
悶々とした日々を送っていたある日、ラジオ局に就職していたアナウンス学校時代の同級生、青ちゃんからメールが届いた。
「仕事でもらった野球のチケットが余ってるから、野球でも見ながらビール飲みに来い。おごってやる」
暇を持て余していた私は喜び勇んで神宮球場へと向かった。
指定された座席に着くと私の隣の席にはもう青ちゃんが座っていた。
「おー!来た来た!こいつオレの専門学校の時の同級生」
青ちゃんは私と反対側の席に座っていた女性に私を紹介して、青ちゃんの向こうに座っていた女性2人がペコッとお辞儀をした。
「オレの隣が会社の同僚。で、その向こうが同僚のお友達。オレも今日初対面。とにかく仕事でもらったチケットだから空席にするわけにもいかなくてさ、来てくれて助かったよ」
青ちゃんはもう私の分のビールを買っていてくれたので、挨拶が終わるや否や私も席についてビールを飲んだ。
野球を見ながら4人であれやこれやと話しているとそれぞれの仕事の話になり、青ちゃんの同僚のお友達の女性が
「私は作家マネジメントの会社でマネージャーをしてるの」
と言った。
私は私のかつての職業、マネージャーという言葉に敏感になっていたので喰いついた。
「えー!作家マネジメントって、小説家さんとかですか?」
すると彼女が言った。
「ううん、うちは作曲家さんと作詞家さん」
作曲家や作詞家を一括りに「作家」と言うこともそこで初めて知ったし、音楽制作をする会社とは別に作曲家や作詞家を取りまとめる会社が存在することを初めて知った私は、それを知った2秒後に
「入れてください!」
と言いながら野球場で右手をピンと挙手していた。
それが、私がその後16年間お世話になる
「スマイルカンパニー」という事務所との出会いであった。
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