参考にならないHow to★作詞家になるには[5]

様々な衝撃を受けた音楽会社見学から帰宅した私は、帰宅してすぐに社長にお礼のメールを送った。

「本日は貴重な体験をさせていただきありがとうございました!
初めてのことばかりでとても楽しかったです。
是非またお店にも遊びに来てください!」

そしてメールの最後に、当時流行り始めていたブログを私も時々書いていたので、そのURLを添えた。

「くだらないことばかり書いておりますが、もし『あいつ生きてるかな』と思っていただくことがあれば覗いてやってください!」

良い社会科見学をさせていただいたと私はとても満足していた。
そしてその日は思い出になりつつあった。

しかしそれから1か月後くらいだっただろうか。
専門学校を卒業し、日々アルバイトに勤んでいた私に社長から突然
「また会社においで」
というメールが届いた。

私は躊躇しつつ、返事を書いた。
「履歴書、いりますか?」

「いらないよ」
その返事にホッと胸を撫でおろして、日取りを決めた。
なにをエラそうに!専門学校を卒業しているんだからもし雇ってもらえるなら儲けものじゃないかと思われるかも知れないけれど、あのスタジオ小ささはとても景気が良い会社とは思えな…あわわ、音楽業界というのは浮き沈みが激しく安定しないのだろうと思っていたので、就職先として考えたことがなかった。

指定された日時、西麻布の会社へ行き、今度は1人で外階段をカンカンと上がりノックをして2階の扉を開けた。
前回のずらりと並んだ大人達が脳裏に浮かんだけれど今日は皆出払っているのか、社長と事務員の女性の2人がそれぞれのデスクの前にポツン、ポツンと座っているだけだった。

社長に「おう、来たな、こっち来な、その辺の椅子に適当に座んな」と言われて私は一番奥にあった社長のデスクの前まで行って、その辺の椅子に適当に座った。

ズズっと缶コーヒーをすすりながら社長はしばらく黙ってパソコンの画面を見ていたので、お仕事の途中なのかと思い私も黙ってその姿を見ていた。
するとふいに社長がパソコン越しに鋭い目線を私に向けて
「このさ、ブログってのはさ、キミが書いてるわけ?」
と言った。
私は自分のブログのURLをお礼のメールに添えたことを思い出した。
「あ、はい、そうです。友達がページを作ってくれたので、時々日記みたいな感じで」

「ふぅん…」
パソコンには私のブログが映し出されているのか、社長は何度もパソコン画面と私の顔を交互に見て、さらに質問した。
「文章を書くのが好きなの?」

難しい質問だった。
私は中学生の頃に、抱えきれない感情を紙に書き出すと楽になるということに気づいて以来、何かしら、ずっと書きながら生きていた。日記帳みたいにしっかりとしたものではなくて、その時そこにある紙に、パッと書いてはその場ですぐに書いたことさえ忘れてしまうようなもの。だから書く場所がブログになり書いた言葉が残るまで私が何かを書くことを他人に知られるようなことはなかったし、知らせる必要もなかった…が、確かにずっと書いてはいた。
社長の「書くのが好きなの?」という質問は「呼吸が好きなの?」と聞かれたかのようであった。

「えっ、あ、好きかどうかですか…。
そうですね、そう言われてみれば好きかも知れないです。
なんか、紙に書き出すと楽になるなって中学生の時に気づいて…」

「ふぅん…」
社長はまた缶コーヒーをズズっと音を立ててすすって言った。

「キミこれねぇ、日記じゃなくて歌詞だよ。だから歌詞を書きなさい」

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