金色のコルダAS函館天音 トーノ攻略感想

※個人の感想です

ニアルートを見るにはコルダ3ultimateと連携しなければいけないらしく、PS2版しか持たない私はAS函館天音攻略はトーノでラストだ。
私はオクターヴを先にクリアしているので、トーノが妖精であることを知った上でプレイした。これを読んでいるのはASから先にプレイしている方がほとんどだと思うので、私のように事前に最大のネタバレを踏んでからルートに突入した人間がどのような気持ちでエンディングを迎えたのかを感じてほしい。

トーノは須永を簡略化したような髪型にタレ目つり眉の優しそうな男だ。性格は温厚だがクソ真面目というわけではなく、常識を備えた対応をしてくるが、かと言ってカタブツでもない。キザな事をさらっと言ってくるが、大地や土岐ほどの手練(手練?)ではない。全てが丁度いい塩梅に収まっている。
私はトーノが人間じゃないと知っていたが、生活感といい感情といい表情といい、彼はあまりにも人間らしい。知らないでプレイしていたら、序盤で彼が妖精だとはまず気づかなかったと思う。(ただ、「なんでこの人だけ名字が出てこないんだろ?」とは思ったのではないか)
おかしいと思い始めるのは、トーノが魔法を使ったところからだ。トーノは魔法を使えることを全然隠す素振りがない。それはいいが、受けて立つ小日向がほとんど驚いていないのはなぜなんだ。
ま、魔法やぞ!
もっと驚くとか、「魔法を使えるトーノって何者なの?」みたいな疑問はわかないのか。
私など「魔法だ〜〜!すげ〜!」と普通にはしゃいでしまったし、ce la puoi fareの意味まで調べてしまった。
英語で言うと「you can do it!」(君ならできるよ!)だ。トーノは後半、それを繰り返し唱えるのだが、その呪文の意味が「できるよ!」なのが泣かせるではないか。
それはそうと、ここで小日向は「魔法を使える貴様の正体はなんだ!?」と胸ぐらを掴んで問い詰める事なく、スルーした(マジで何故なんだ)。だが、もし問いただしていたら、トーノはわりとあっさり正体を明かしたような気がする。積極的に隠したいなら目の前で魔法は使わないだろうし、正体を明かすことは禁忌ではなさそうだからだ。

魔法には特につっこまなかった小日向だが、トーノとは少しずつ親しくなっていく。そして、2回目の魔法あたりから(まさかトーノは…)みたいな選択肢が出始め、トーノもまた小日向と同じく記憶を失っている事が明らかになる。
トーノは昔聞いたヴァイオリンの弾き手を探し続けているが、その人の年齢も性別も覚えていない、覚えているのは音色だけだという。トーノはこの感情を「片想い」だとはっきり言っている。
これは…!トーノが思いを寄せる昔の女の面影を、我らが小日向のマエストロフィールドで粉砕してやる流れか!と俄然身を乗り出したのだが、全然違った。
終盤、トーノが探していた相手が実は幼少期の小日向であることがわかるからだ。しかもトーノは小日向の演奏から生まれた妖精であることも明かされる。
小日向のヴァイオリンの音色を聞いて幸せに過ごしていた妖精トーノだが、その小日向の演奏は冥加と出会ったコンクール以降、急速に光を失う。それはプレイヤーが何度も聞いたストーリーだが、まさかそれを側でつぶさに見ていた存在がいたとは。
トーノが妖精なのは知っていたが、小日向の演奏をママとして生まれた生き物だとは知らなかった。しかもアルジェント・リリに比べたら階級はずっと下。悲しむ小日向を慰めたくても、彼は自分の姿を認識してもらうことさえ出来ない。
トーノは小日向を慰めたい一心で、苦労の末にファータの中で評判の函館天音にたどり着き、そこの天球儀に願う。人間の姿を得たい、小日向に会いたい、触れたい、また音楽が聞きたいと。(トーノ、わりと遠慮なく沢山願っている)
見事願いは叶えられ人間の姿を得たトーノだが、彼の強い願いはその代償として大事なものを要求した。それが小日向に関する記憶である。その人を慰めたくて人間にしてもらったのに、その人について忘れてしまったのだ。性別も年齢も容姿も。
トーノは焦っただろう。変わっていく魔法はいつか消える。自分が人間であるうちにヴァイオリンの主を探さなくてはならないからだ。
と、実はここでトーノが天球儀に祈った別の願いも同時に叶えられていたことがわかる。「あの人に会いたい、触れたい、また音楽が聞きたい」という部分だ。
このトーノの願いこそが、小日向が記憶を失って函館天音にやってきた原因だったことが、トーノの「君の運命を捻じ曲げたのは許されることではなかった」というセリフからわかる。
小日向が函館天音に迷い込んだのが本当にトーノの願いのせいなのかどうか、真実はわからないが、トーノ自身がそう思っていて責任を感じていることは確かだ。
函館天音にやってきた小日向(ここではトーノの願いによって呼ばれたと仮定する)だが、記憶を失っているため、その演奏はトーノが記憶していた過去のものとは違っている。
こんなにそばにいるのに、トーノは気づけないのだ。

ここまで時系列で並べると、
幼少期小日向の演奏からトーノが生まれる→小日向がコンクールで冥加やアレクセイと出会う→小日向がスランプに陥る→小日向を慰めたいトーノが函館天音を探しに行く→小日向は高校2年になり、長野を出て転入を決める。それと同じ頃、函館天音にたどり着いたトーノは天球儀に願い事をする→代償にトーノは記憶を失うが、トーノの願いにより小日向は函館天音にやってくる(記憶は無くしている)。
と、こうなる。
つまり知らないうちに、トーノの願いはすべて叶えられていたわけだが、記憶を無くしたトーノは、同じく記憶を無くした小日向の演奏を「あの人のヴァイオリン」だとは認識できなかった。
しかし、トーノが「ヴァイオリンを弾くあの人」ではなくて目の前の小日向に初めて惹かれるシーンがある。小日向が悲しい夢を見た時だ。トーノは無意識に彼女の頭をなでて慰めようとする。そして、そんな行動をとった自分に驚く。
悲しい顔をした「あの人」を慰めたかったというのがトーノが人間になりたい最大の理由である。だから、彼は同じように悲しい顔をした小日向に、記憶の中の「あの人」の面影を見たのかもしれない。
しかし小日向が記憶を取り戻して、トーノが彼女を「あの人」だと確信した時には、もう魔法のリミットが迫っていた。

トーノルートは、人間に恋した妖精の物語であるだけでなく、切ないすれ違いの物語でもある。
これはおそらくハッピーなエンドにはならないだろうという事は、海辺の足跡がトーノの分だけ残らないという演出から匂わされる。
このルートの切なさはトーノも小日向もエンディングに行く前に、すでに覚悟を決めていると伺えるところだ。残される小日向は泣きわめいて引き止めたりしないし、トーノも小日向に縋りつかない。
これだけ「死別」に近い別れ方なのに、別れを受け入れるように静かなエンディングなのだ。
だが、スチルに出なかっただけできっと小日向は悲しい顔をしただろうし涙を流しただろう。トーノは彼女の涙を拭って、抱きしめて、慰めたはずだ。それは、人の姿になる前の彼が決してできなかった事だ。
トーノは、あの日幼い「あの人」にしてあげられなかった事を、最後の最後に成したのだ。

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