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下天の華 織田信行攻略感想

※個人の感想ですよ
※ネタバレあり

 攻略6人目は織田信行。
 この名前を聞いただけで、私は光秀攻略時と並んでワクついた。
「下天をやりながら史実がどうとか、正室側室がどうとか1ミリでも考えたらいかん」
 これは、私が下天を始めるにあたってツイッター上の賢人たち(下天の先輩フォロワーさんたち)から受けた助言だ。これを脳髄に刻んでプレイしている私だが、やはりどうしたって歴史上で謀反を起こす信行(と光秀)のルートは気になる。
 下天のいいところは、どれだけ歴史に疎い人間でも知っているだろう本能寺の変をラストに持ってきていることだ。
 だからこそ、キャラが好きとか苦手とかを置いておいて、そこに至るシナリオが楽しみなのだ。
 私の信行攻略は6人目だったので、それまでのルートで散々謀反をやらかす信行を見てきた。だから、彼と恋愛したいというよりは「彼がどうやってヒロインに落ちるか」が楽しみでしょうがなかった。

 ゲーム開始時点の信行は物腰柔らかで優しく、姫姿のヒロインにもリップサービスするソツの無さを見せる。そして破天荒な兄貴に対してはコンプレックスをちらりと覗かせる。
 普通ならこれだけで乙女ゲームのキャラとしては充分成立するところだ。
 しかし、彼は織田信行である。ここに「謀反」をちょい足しすることで、更なる魅力を獲得しているのだ。加えて彼は裏表のある豹変キャラでもある。
 正直、最初は信行に全然興味がなかった私だが、兄様との密談でいきなり「馬鹿でもわかるだろうが!」とブチキレられたあたりから俄然興味が出てくる。
 何なの君、そんなに腹から声が出せたの?
それ早く言ってよ~! あのワルそうな顔、いいねえ! となった。
 私はコンプレックスをひた隠しにしているつもりで隠しきれていない、みたいなキャラが好きなので、この信行には前のめりになった。

 信行は一言で言えば面倒くさい男である。しかし「そこがいい」とプレイヤーに思わせる稀有な男でもある。もちろん私も例に漏れず「そこがいい、好きだ」と思った。
 素直に彼の事を心配するヒロインを馬鹿扱いするわ、兄貴を誉めたらバッドエンドだわで、豹変後はとにかくこちらが何をやっても信行の深淵を覗き込む羽目になる。
 構わないで放置していると「兄上に比べて僕なんか構う価値がない。わかっている」と心を痛めそうだし、それならばと構ったら構ったで「僕はそんなに頼りないか」みたいになりそうだ。
 これが面倒くさくないなら、もう面倒の概念から考え直さなくてはならない。
 じゃあなんで、私はこんな面倒くさい信行が好きなんだろうかと考えるに、多分彼が乙女ゲームキャラとしては破格に人間くさいからだと思う。
 弱くて、優しくて、敵わないと分かっているのに兄と自分を比べることをどうしてもやめられない。兄に敵わないと素直に吐き出すにはプライドが高すぎて、それを笑い話にもできない。さらに言えば、信行は兄が嫌いではないのだ。完全に憎めたら楽なものを、兄に憧れて彼を好きな気持ちがずっと残っている。しかもそれを自覚してるのが伝わってくるから、見ているこっちはなんとかして信長暗殺をやめさせたいのだ。
 もしも本当に彼に憎しみしかないのだとしたら、どうせこれは歴史のifである。信行のために信長をうまいこと暗殺してハッピー!というシナリオになってしまう。
 信行は血すじと性格故に家督争いに担がれて、裏切られた。流した涙を優しい微笑でなんとか隠そうとするその姿が痛々しいから「なんて面倒くさい野郎だ」と思うのに、どうしても見捨てられない。
 途中からほたるは信行専属のメンタリストみたいになってくるが、この時点で私は、ヒロインというより百地の顔になっている。師匠はほたるに「信行の心に寄り添ってやれ」というようなことを言うが、呑気に寄り添ってるだけだと、信行はギアをバックに入れたままアクセル全開で崖に落ちそうなタイプだ。ほたるは縄抜けをして本能寺に飛ぶ。
 「信行に信長を殺させてはならん。それをやったら、もし成功してもこいつの心がぶっ壊れて、死ぬよりひどいことになる」。その事をプレイヤーがありありと想像できるようなシナリオだから、ほたるが彼を見捨てられないという気持ちに説得力があった。
 ほたるのみならず、百地や仲間の忍び、さらには暗殺対象の信長でさえそう思っている。信行はああ見えて、放っておけない愛されキャラなのだ。
 信行は「兄と比べられてばかり」だと妬んで苦しんでいるが、おそらく信長だって幼い頃から「品行方正な弟と比べられてばかり」だったのではないだろうか。
 どう考えても親の葬式で抹香を投げて帰る兄貴より、無難に葬儀のあれこれを済ませる弟の方が安心である。周囲にもあれこれ散々言われただろう。
 それでも自分は自分だから変わる必要がないと思ってるのが信長で、比べられた対象に近づきたいと思ってしまったのが信行だと思う。
 本能寺では矢が当たった信行を見て、正直「これはもしやバッドエンドでは?」とさえ思ったのだが、最後は織田とは無関係に生きていくこととなった信行の吹っ切れた顔を見られてほっとした。
 ほたるの献身にゆっくり心を開いていく信行に心から「良かったねえ!」と思った。
これから彼に吹き付ける風は、向かい風であってもきっと優しいことだろう。

 余談だが、信行ルートをやってみて、この性格といい有能な渋いお目付け役の存在といい、ものすごいデジャヴを感じた。
 少し考えてわかった。信行に少し似た感じのキャラが遙か2に登場するのだ。
 和仁親王である。遙2は院政期に似た異世界が舞台なのだが、異母弟から東宮位を奪いたいと思って謀略するキャラだ。
 といっても、遙2未プレイの信行クラスタさんは「信行様と似ているですって!?」などと軽率にwikiったりしてはいけない。
 おそらく人物紹介にはろくなことが書かれていないからだ。なぜなら和仁は攻略対象ではなく、ヒロインに敵対する悪役なのだ。
 信行との共通点は、コンプレックス、周りに唆されている(いた)こと、手酷く裏切られる(れた)ことである。
 ただ、和仁の場合は自分こそ表舞台に出るべき逸材だと信じているが、信行はそうではない。心底自分には向いていないと思いながら担がれることになった。
 それに悪役として出てきたためか、和仁は信行と比べてもかなり面倒くさい上に尊大で傲慢、ヒロインとの恋愛エンディングで救われることもない。しかし、やはり彼のような存在を幸せにしたいと考える人は多く、二次創作界隈では和仁×花梨(ヒロイン)を見かけることがある。
 信行も和仁のように悪役としてのみ存在してもおかしくないキャラ設定だ。しかし、信行を第二の和仁にしなかったことが私はとても嬉しいと思ったのだった。

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