「下天の華」をプレイする男をそばで眺めてその様子について書いたレポ

・「下天の華」のネタバレを含みます。
・キャラをディスる意図はありません。
・個人の感想を含みます。
・何でも許せる人向け。


 盆の帰省で弟に会った。

 戦国ファンタジーな乙女ゲーム「下天の華」がめちゃくちゃ面白かった話は、以前noteにまとめて書いた(https://note.com/akikokko/m/m094ec2a5099a)ので省略するが、面白いゲームは人に紹介したいと思うものだ。

だが、私のリア友に乙女ゲームを勧めてよさそうな人間はほぼいない。

そこで身内だ。

私には妹もいるが、彼女は某ソシャゲの水着イベントで忙しそうだったので弟に白羽の矢を立てた次第である。

 弟もゲームはする。しかし彼がやるのはドラクエ、FF、FE、マリオ。コエテクなら無双と野望あたり。ギャルゲには全く縁の無いタイプだ。

 ギャルゲはやったことがないくせに、彼がアンジェリークをやったことがあるのは、まあ私のせいだ。

 弟はジュリアス様を狙って告白。見事に玉砕し、傷心の所をオスカー様に優しくされて「あいつはチャラく見えて仕事も出来るしいい奴だ」と最終的にはオスカー様の女になっていた、という過去を持つ男だ。
 コエテクの無双も野望も好きな彼は、歴史物が好きだ。ただし、全てゲームと漫画と大河ドラマの知識であり、文献や専門書を読むようなタイプではない。

 私が下天を勧めたら「本能寺の前なのに、なんで信行がいるんだよ」「帰蝶どうすんだよ」などと言う。こういう奴には「(乙女ゲーの)素人は黙っとれ」と城島茂の顔で言ってやればいい。

 そしていよいよプレイ開始だ。

 男性だからなのかはわからないが、弟にとって下天の絵柄はアンジェリークに比べたら格段に入りやすかったようだ。
 ただ、オープニングで「俺はこいつにする」と狙いを定めたキャラは百地だったので「彼は二周目じゃないと落とせない」と伝えた。「じゃあ二周目に狙う」と返ってきたので、「こいつ意外とノリノリだな」とは思った。

 一周目に狙うのは彼の「好きな歴史上の人物」不動の第一位、信長である。
 「対象を一人に絞らないとダメなゲームだぞ。股はかけるな」とアドバイスしたら「俺はジュリアスの時だってジュリアスしか狙ってなかった。狙うとなったら信長にしか会わねえよ」と返答があった。
 彼はかなり愛が重めなヒロインのようだ。
 ほたるが信長に倒れこむあたりで「余…?」と信長の一人称に戸惑う弟。だが次第に「ヒュー…」とか「ヒエッ」とか言い出す。
 しかし慣れてくるなり「そろそろ誘惑しちゃおうかな、俺」には「お、おう」としか応えられなかった。

 普通に気持ち悪い。
 パパに下天をやらせてしまい、義妹や姪っ子たちには申し訳ない(彼は既婚の子持ちだ)。
 しかし夜な夜な一人でこれをやっていた私はきっとこの数倍気持ち悪かったにちがいないと気づき、気が沈んだ。
 そんな私のとなりで彼は順調にゲームを進めていき「出た!光秀!」とか「え?お前が黒幕なの?…だよな、コンプレックスはあるよなー」とか言っている。
 乙女ゲーとして楽しんでいるのかどうかは微妙だが、普通に楽しそうである。特に信長に抱き上げられた時には「イエーイ!」と実に嬉しそう。
 さては権力者に弱いな。
 ラストの祝言には「よかったな、ほたる、こいつなら大丈夫だ」と花嫁の父のような事を言っていた。

 父になったりヒロインになったりと忙しそうではあったが、エンディング後には「普通に面白れえ」と感想を述べた。
 見ていて思ったのだが、彼は「信長!お前にキメた!」と指名した時から、本当に信長としかイベントを起こさず、行動回数が余ったら全部「休む」を選択していた。だから一周がやたらと早いのだ。
 宣言通り一途な野郎なのである。
 このあたりの割り切り方は完全に女性プレイヤーと違うなあと思う。狙いは一人と言いつつ、行動力が余っていてイベントを起こせるとなったら、他の男の所にもお邪魔したくなるのが乙女ゲーマーというものだ。しかし弟の場合、信長のターンが終わったら、他キャラにイベント待機の「❗️」マークが出ていようとも完全無視なのだ。
 そして二周目は百地。
 彼の「本命」である。
 前述したように弟は乙女ゲームをやると愛が重めの一途なタイプと化す。
 百地を落とすと決めたら、マジで修行しかしなかった。「このルート、途中まで修行ばっかで嫌になる」とかそんなことは思ってもみないようで、とにかくストイックである。
 修行に明け暮れ、百地とのイベントや任務がなければ、即休む。
 お前なら私よりよほど立派なくのいちになれる。
 そう思った。
 それに、信長相手の時はそんなこと言わなかったくせに、百地のビジュアルのせいか自分と年が近いせいか「17才と恋愛は無理だな」と突然既婚の男らしい事を言い出す弟。
 そんな彼には「黙れ!小僧!」と美輪明宏ボイスで一喝だ。お前が恋に落ちる相手はほたるじゃねえ、目の前の師匠なんだよ。
いいか?お前が!17才なんだよ!ほたるなんだよ!お前が恋に落ちる側だ!!
 そうキツく言い聞かせたところで再開だ。
 しかし、彼には娘がいるせいか、どうにもこの「子どもの時に世話した娘が成長して恋の相手になる」というシチュエーションに精神的な抵抗があるようだった。
 わかる。
 私が、姉弟が禁断の恋に落ちる話を生理的に無理だと思うのは、自分に実際に弟がいるからだろうと思う。姉と弟よりは兄と妹の禁断の恋の方がマシである。
 そういうことで、彼には百地ルートがあまり響かなかったようなのだが、それもまた既婚男性らしい理由ゆえであったなと思った。

 さて、百地ルートをやっていると絶対的に目にはいるのが信行だ。だが弟は男性なのでキャラとの恋には興味がない。信行と恋に落ちたいと思ってはいないし、そもそも信行は弟の好きになるようなタイプのキャラ(ジュリアスとかベジータとか手塚国光とか)ではない。
 しかし、弟は「信行ルート面白そうだな」と言っていた。信長、百地のルートで、信行が暗殺に失敗する姿を二度も見ているだけに、信行のエンディングがどうなるのか気になるとのことだ。
 「心中して終わるのか?」などと不穏な事まで想像していたが、残念ながら時間がなくて信行ルートまではプレイ出来なかった。

 男性である弟が下天をやるのを見ていると、当たり前だがキャラとの恋愛には興味がなく、キャラの言動にときめくこともない。
 「すげー」「いいこと言う」「いい奴だな」などの男性キャラへの共感が基本的には多いのだが、「そこでもうちょい押せ!」などとヒロインへのエールらしきものも送っているのが興味深い。
 彼が「面白い」と思うポイントも、このキャラがどんな恋愛を見せてくれるのかではない。このキャラとヒロインの運命やいかに?というような「恋愛を抜いたストーリー」を楽しんだようだ。
 だからこそ「え?お前が黒幕?」「ほたる、これからどうすんの?(暗殺)やるのかよ?」みたいなセリフが出るのだし、信行ルートに興味が湧いたのだろう。

 つまり、下天の華は乙女ゲー要素を抜いてもストーリー自体が面白いゲームといえる。

 次に会った時には彼にぜひ罪の華をやらせてみたいと思う。


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