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バスタフェロウズ スケアクロウ攻略感想

※ネタバレあり
※個人の感想です

 バスタフェ、二周目はスケアクロウ。
 スケアクロウはデジタルの天才だ。独自に作成したAI『アニマ』を駆使し、家から一切出なくとも瞬時にあらゆるネットワークに入り込む、とんでもない能力のハッカーである。これがどれだけすごいことなのかはプレイしてすぐにわかる。
 なぜならバスタフェの舞台は現代だからだ。この現代社会ではデジタルと一切関わっていない部分を探す方が難しい。でかいところでは宇宙に浮かぶ衛星から、国家機関、企業、各家庭のPC、街中に付けられた監視カメラ、さらに我々が常に持ち歩く携帯端末に至るまでコンピュータが管理していないものなんて殆どない。
 スケアクロウはその全てに入り込めるのである。ハッキングによって情報を得るだけでなく、マネーロンダリングや電子マネーの盗難、電力や水道などのインフラを止めることも、なんならそのへんを歩いている一般人の端末にアクセスして監視や盗聴することも、とにかく何でもできる。コンピューターネットワーク上でのスケアクロウは無敵に近い。スケアクロウは『裏社会のボス』を自称しているが、実はそれは誇張でもなんでもないのだ。
 これで、もしスケアクロウがクールドS腹黒系キャラ(銀縁眼鏡かけてそう)だったとしたら、私は「シャレにならん」と思ったことだろう。
 しかしこのスケアクロウ、成人男性でありながら容姿は可愛らしく、性格はお調子者なのだ。いや、お調子者とはまた少し違う気もするが、顔が竈門炭治郎でリアクションは我妻善逸という感じ。なんとなくねるねるねるねを渡したらものすごく喜びそうなイメージがある。
 ヒーローものに憧れ、「裏社会のボス」を得意げに名乗り、恋愛にはウブで照れ屋。猫と本気でケンカしたり、シュウやヘルベチカにおちょくられたりと、かっこよくありたい本人の意に反して場を和ませるムードメーカー的な役割だ。言葉は悪いがガキくささ、わんこっぽさと彼の持つとんでもない能力とのギャップがすごくいい。
 スケアクロウはとにかくリアクションがでかくてかわいいのである。ヒロインのテウタは彼の豪邸に居候するのだが、テウタの水着姿に照れたり、間接キスに慌てたり、リンボの姉ちゃんにビビったりと、常にこちらの期待通りのリアクションを取ってくれる。
 そうかと思えば、父子家庭の末にその父を亡くしていたり、クリスマスにみんなで騒いだ思い出がないなど、ちょっとしんみりするエピソードを小出しにしてくるのだ。これが例えばシュウあたりなら「楽しいクリスマスの記憶がない」とカミングアウトされたところで「でしょうね」と思うし、実際、シュウが孤児だと知ったときも衝撃は無かった。しかし、普段のスケアクロウはいじられ愛されキャラだ。そんな奴がしんみりしたことを言うと、「いかにも」な奴が言うよりも数段沁みるのである。

 スケアクロウの個別ルートは、『コンスタンティン』なる大企業が裏では兵器売買を行っているという情報を得た所から始まる。その取引を記録したデータを手に入れるため、スケアクロウはデータのアクセスキーを獲得しようとする。
 この取引データがあれば『コンスタンティン』の弱みを握ったり、そこから取引先の名簿などをゲットしたりでき、早い話が金になるのである。大企業の悪事を暴くことにもなり、それをスクープできるかもしれないので言い出しっぺのスケアクロウにテウタとモズが協力し、あとからリンボたちも合流することに。
 順調に進んだかと思いきや、忍び込んだ大学の理事長室(そこのパソコンにアクセスキーがある)で、『コンスタンティン』に雇われたプロの傭兵に妨害を受ける。
 こ、この傭兵見たことある!
 クローザーさん!? あなたクローザーさんやないですか!? 
 とシュウルートを先にやった私は思ったし、彼の末路もすでに知っているのだが、スケアクロウルートでは初対面であり、このルートのシュウも彼とは当然初対面だ。
 彼に突き飛ばされたスケアクロウは流血するのだが、そこからこのルートは一気に不穏になる。
 自分の血を見たスケアクロウは形相も言動も別人のようになり、ブチ切れバーサーカー状態となったのだ。普段が温和で明るいだけにこの変化には驚く。しかもこの状態のスケアクロウ本人にはその時の記憶がない。
 ともあれ無事にアクセスキーは手に入り、やはり『コンスタンティン』が裏で武器のやり取りをしていたこと、近々大きな取引があることが判明する。と同時にスケアクロウの知人ハッカーがコンタクトを取ってくるのだが、少し会話を聞いただけでその相手が、スケアクロウと同等あるいはそれ以上のハッカーだとわかるし、スケアクロウがなぜか彼に懐いていることがわかる。
 その怪しさに真っ先に気づいたのがシュウだ。
 みんなの前でシュウに問い詰められたスケアクロウは、自分の過去を語りだす。スケアクロウは飛び級して13歳で大学に入学している天才、いわゆる『ギフト』である。
 そのまま研究者や開発者になれば世のため人のためになったのだろうが、能力の高さゆえに「大学で勉強する時間が惜しい」と14歳で大学中退。その後はネット上で犯罪を犯す『クラッカー』になる。そこで『コンスタンティン』にスカウトされたのだ。
 スケアクロウはハッキングシステムの開発に関わり、その過程で大規模停電と通信障害を起こしてしまう。まだ14歳だったスケアクロウはゲーム感覚で事を起こしたが、それによって街や人がどうなるのかまでは考えていなかったのだ。街は大混乱になり事故も起き、死者も出た。
 怖くなったスケアクロウはクラッカーから足を洗い、『コンスタンティン』も辞めることにしたのだが、当然そんな事は許されない。でかい企業が、その裏側を知った少年をおとなしく解放してくれるわけがないのだ。スケアクロウのような優秀なクラッカーを飼い殺しにしたいという思惑もあったのだろう。
 『コンスタンティン』はスケアクロウを拷問し従わせようとする。思い出すと過呼吸になるほどひどい目にあわせられたスケアクロウだが、それでもクラッカーには戻りたくないと抵抗。すると唯一の肉親である父親が殺され、「言うことを聞かないとお前もこうなる」と脅されることに。
 抗う気力も失い絶望したスケアクロウを救ったのが、この日コンタクトを取ってきたハッカー仲間だ。彼はスケアクロウの死を偽装することで『コンスタンティン』から逃がしてくれたのだった。
 こういう経緯のせいで、スケアクロウは『コンスタンティン』に並々ならぬ恨みを抱き、逆に助けてくれたハッカーには恩を感じているというわけだ。
 今までこういう過去(経緯はどうあれ犯罪者で偽名使い)をスケアクロウは仲間にも黙っていたわけだが、それを聞いた他のメンバーの反応はというと「俺たちもまあ汚いことは経験してきたし気にすんなよ」というもので、スケアクロウをあっさり受け入れる。
 シュウルートをやったあとだけに、私も「そうだそうだ。シュウもアレだったしお前も気にすんな」という気持ちになった。まだヘルベチカルートをやっていない私だが、やる前から既に「こいつは相当闇が深い」と感じているし、ヘルベチカに比べたらスケアクロウの過去のやらかしくらいは『誤差』という気がする。
 自分の過去を知ってもなお自分から離れていかない仲間に出会えて、スケアクロウは本当に嬉しかっただろうなと思う。飛び級で大学に入り、その後は大企業の裏でクラッカーをやっていた天才は、同年代の対等な仲間に囲まれたことなどそれまで一度もなかったのだろうから。
 この後スケアクロウはテウタに「実は当時の記憶が曖昧だ」と伝えるのだが、それを伝えるのだってすごく勇気がいったと思う。拷問された時の記憶が無いことはともかく、テロ行為の片棒を担ぎかけた部分の記憶もあやふやだからだ。責任逃れしていると捉えられかねないし、それはスケアクロウ自身が一番感じていることなのだ。
 しかしテウタは「つらい記憶を忘れることの重要性」について自分の経験をもとにちゃんと受け止めてくれる。テウタも兄を亡くしているからだ。

 こうして改めてチーム一丸となって『コンスタンティン』の裏を暴き、社会的制裁を受けさせ、ついでに大金をせしめようという計画が始まる。スケアクロウはテウタとシュウをお供に、自分を助けてくれたハッカーを端末の位置情報から探り当て、秘密基地みたいな場所にたどり着く。
 そこにいたのは例の傭兵とスケアクロウの父親カイル。実は、殺されたはずの父親は生きており、『コンスタンティン』に利用されていたことがわかる。つまり、スケアクロウを組織から離脱させてくれた姿の見えない恩人は、父親だったのだ。
 その衝撃も冷めやらぬうち、基地から脱出する過程で死にかけたスケアクロウは、テウタに触れられた途端に彼女の首を絞め殺しかけることに。
 以前血を見た時に豹変したことといい、彼はどうやら命の危険にさらされると自己を守るために攻撃的になるらしい。そのへんはモズとヘルベチカ、医者が2人もいるので丁寧に説明してもらえる。
 自身を守るために、自分の意志とは関係なく防御反応として人格豹変が起きるわけだが、問題はスケアクロウ自身にその時の記憶が無いことだ。厳密には『記憶がない』のではなく、その時の視点が自分ではなく第三者のものに置き換わる。つまり、後から思い出すと「自分が拷問された」「自分がテウタの首を絞めた」ではなく、「誰かが拷問されていた」「誰かがテウタの首を絞めた」と変換されるのだ。そうなると、スケアクロウが受けた苦しみもスケアクロウが与えた痛みも、全て他人事になってしまう。
 これは「新しいな」と思った。乙女ゲーム以外でも漫画や小説を読んでいれば、つらいことやトラウマから逃れるために主人格を守る別人格を作り出してしまうという話はいくらでもある。しかし、スケアクロウの場合は別人格を作るのではなく、記憶が曖昧になった上、第三者視点に切り替わって自分の身に起きた出来事を「他人事」と捉えてしまう、というものだ。
 スケアクロウは、自分の知らないところで誰かを傷つけているかもしれないという恐怖に加えて、無意識とはいえつらいことがあるたびに自分を自分で蚊帳の外に置く心の弱さにも向き合わなくてはならなくなっていく。
 しかし、テウタを始めとしたメンバーが入れ代わり立ち代わりスケアクロウに声を掛ける。言葉選びは違うが「そういうことは自分にもある」「記憶がなくてもお前はお前だ」「それくらいで嫌いになったりしない」というようなことを仲間に言われて、スケアクロウは彼らのことを心底大事だと思ったんだろう。彼は過去の過ちやつらい記憶を忘れるのではなく、ちゃんと覚えていたいと思うようになる。つらいことから逃げるのではなく向き合いたいし、過ちは忘れずにいて償いたいと。

 しかし、「これから俺は変われるかな、変わりたいな」とスケアクロウが一歩前に進みだしかけたタイミングで、例の傭兵から電話がかかってくる。
 カイルとスケアクロウの父子関係がバレて「生きた父親と会いたかったらアクセスキーとアニマをよこせ」と脅されることに。
 仲間に助けを求めれば父親は殺される。スケアクロウはアクセスキーとアニマを取り引き材料に、1人で父親を助けに行くのだが取り引きは失敗し、父親と一緒に廃線を走る電車に閉じ込められてしまう。その電車の行く先は行き止まり、つまりそのまま乗っていたら追突して電車の爆発とともに死ぬ。ネットワークにさえ繋がれば無敵のスケアクロウだが、電波は途切れ途切れで通話すら難しい。だがほんの一瞬だけ電波が通じる時を逃さず、スケアクロウは打ち込んだメールをテウタに送る。
 それは自分の居場所を伝える短い暗号が書かれたメールなのだが、暗号の意味をテウタは理解できない。そこでテウタは時間を遡り、事が起きる前のスケアクロウに会う。
 ここで出てくる選択肢は二つ、『スケアクロウを止める』『暗号の意味を聞く』。
 父の元に行かせないようにすればスケアクロウの身は助かるのだが、こちらを選ぶと父親は殺され、ショックのあまりスケアクロウが自死するBADになる。
 暗号の意味を聞く方を選択すると、アニマに電車を止めさせ2人を助けることができる。その後、『コンスタンティン』の悪事を暴きニュースにすることでスケアクロウたちは完全に解放される。2人が命を狙われたのは『コンスタンティン』の秘密を知っていたからであり、全世界にその秘密が知られたからには、もうその理由で命を狙われる意味も必要もなくなるからだ。

 スケアクロウは電車に閉じ込められた時に、そしてテウタは助け出されたスケアクロウに再会した時に、初めてお互いへの気持ちをはっきり口に出している。
 スケアクロウに至ってはテウタ本人に告白する前に父親にそれを話しているのだが、極限状態の電車内でテウタへの気持ちを吐露する場面は「この気持ちを本人に言うまでは死にたくない!」というスケアクロウの気持ちがひしひしと伝わってきてすごく良かった。
 しかしこんなにテウタのことが好きで、「この気持ちを本人に伝えなくては!」と思って暴走列車の恐怖を乗り切ったのに、いざテウタに告白されると思い切り動揺するところがスケアクロウらしくてとても可愛い。

 この後、スケアクロウが移動遊園地にテウタを呼び出して改めて告白する流れになる。「今はかっこ悪いけど、これからもっと強い自分になりたい。もっとかっこよくなりたい、テウタに好きになってもらいたい」と決意を示すのだが、テウタが「かっこ悪いクロちゃんも好きだよ」と答えるのがいい。だってそれは「私はもう今のあなたのことが好きだよ」と言っているのと同じことなのだ。
 ここでスケアクロウがテウタをハグしているスチルが出る。テウタが小柄なせいでもあるが、童顔のスケアクロウが意外とデカくてテウタを腕の中にすっぽり包みこんでいることに萌えた。ものすごく動揺して、真っ赤になって、言葉もスマートじゃないのに、スケアクロウの体格はテウタをがっしり掴まえられるくらいの『成人男性』なんだなというギャップがいいのだ。

 この遊園地でのエンディング後は『後日談』のような話になるのだが、スケアクロウの場合はニューイヤーズ・イブに父親カイルと会うストーリーだ。
 なにしろ6年ぶりだし何を話していいかわからん、テウタも一緒に来て〜!となる。クリスマス同様、スケアクロウは大晦日を毎年一人きりで過ごしていたという話をするのだが、彼は普段やたらと騒がしいので、元気がないと他のキャラの比じゃないくらい「大丈夫か!?」と思ってしまう。だからこそ彼が父親や恋人とともに幸せに過ごす様子は、それまでスケアクロウの孤独を見てきただけにほっとする。
 カイルと一緒に食事をして、テウタと一緒に新年のカウントダウンに参加するスケアクロウは本当に幸せそうだ。
 その後、「キス!します!」(「アムロ行きます!」みたいな言い方)と言ってきたスケアクロウとニューイヤーの花火の下でキスするのだが、歯をぶつけて笑い合うのも可愛かった。
 本編では間接キスごときで騒いでいたスケアクロウも、この後日談では互いのアイスを交換しても動揺していないので着実に恋人っぽくなってはいる。
 とはいえ、このカップリングの萌えポイントはやはりスケアクロウの恋愛値の低さだ。大人の男でありながら、スケアクロウは全身全霊で「我こそは童貞なり!」と名乗りを上げてくる。乙女ゲームにおいて、あからさまに性的経験の無い大人というのはキャラによっては興醒めものだったりするのだが、スケアクロウの場合、その生い立ちが丁寧に説明されているだけに「そりゃ仕方ねえ」と思える。彼のウブさ、頑張ってる感、分かりやすい動揺の仕方がすごくいいのである。

 ラストはスケアクロウが危なっかしく運転する車でピクニックデートに出かけて、こちらもまた危なっかしい味のテウタのサンドイッチを食うというもの。雨に降られてドロだらけで帰宅し、2人揃ってモズに叱られるというシーンで締められる。
 「お前らどこでセックスしてんの?」みたいな質問から入るシュウのストーリーに比べたら恋愛の甘さは控えめでコメディ寄りだが、スケアクロウにとって仲間は大事な『家族』だ。テウタとはまた別に大切な存在なのである。だからテウタとだけいちゃついて終わるラストにならなかったのも納得だった。

 それにしても、ヒロインテウタが童顔で可愛いタイプ、そしてスケアクロウもまた童顔で可愛いタイプなので、この二人がいちゃいちゃしていると小動物同士のじゃれ合いのような癒しを味わえる。このカップリングはたぶん胎教とかに良い。
 引きこもりがちであまりリアルな対人関係を築けていないスケアクロウに対して、テウタはコミュ力の鬼。そんなテウタならスケアクロウを、彼が知らないいろんな場所に連れて行ってくれそうだし、スケアクロウはきっとテウタと一緒にそれを楽しんでくれるだろう。テウタはテウタで、スケアクロウが好きなものを全力で楽しみそうだ。
 始めに「スケアクロウはねるねるねるねが好きそう」という話をしたが、なんだかんだテウタも好きそうだし、これからは2人でたくさんねるねるすればいいと思う。

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