ニル・アドミラリの天秤 鴻上滉

※個人の感想ですよ

ニルアド攻略四人目はヒロインの同僚、鴻上滉。
このゲームの攻略対象は、前回攻略した鵜飼を除けば最初からヒロインに優しいタイプが揃っているのだが、鴻上は元々の性格がそっけないタイプ。といっても、冷たいのではなく単にビジネスライクなのだ。
しかし、他がやたらとフレンドリーなだけにツグミは「この人は私のことが嫌いなのでは…?」と不安になる。鴻上は鵜飼みたいにわざわざ突っかかってくる事もないし、他のメンバーに対しても態度は同じなのだが、ツグミはそのそっけなさが気になり始め、鴻上について知りたいと思うようになる。
あれこれ会話していくうちに、鴻上はどうやら華族が嫌いらしいとわかってくるが、ツグミが本当に華族出身かどうか確認するためにいきなり男性経験の有無を聞いてくるのはどうなんだ。
鴻上の中では華族令嬢=処女、処女にあらずんば華族令嬢にあらずということなのだろうか。
ドスケベな華族令嬢だっているかもしれないじゃないか(フランス書院とかに)。
しかしツグミは嘘が苦手なので、赤くなったり口籠ったりとその態度全てで「我こそは処女なり!」と主張し、鴻上にこいつは本物の処女で華族であると理解させたようだ。

鴻上は無口で愛想が無いので、任務も無言で黙々とこなす。ツグミはそれが気詰りで、彼に色々話しかけるという展開が続く。しかし、二人でフクロウの敵であるカラスの本拠地に乗り込んだ所でストーリーが動く。
カラスの親玉である四木沼主催の舞踏会に出席するという流れは他のルートでも見たが、今回は四木沼本人が登場。ツグミは彼に気に入られ、恋文をもらったり誘拐されかけたりしたので、しばらく一人では行動しないように上司に言われる。四木沼はフクロウと敵対関係にあるため、ただの求愛行為ではないと皆が警戒しているためだ。
この辺りからツグミは、誘拐されかけたところを救ってくれたり、残業に付き合ってくれたりする鴻上のさり気ない優しさに惹かれていく。たしかに、普段表情筋をほとんど動かさない男のここぞという時の微笑みは強い。

身辺には気をつけていたツグミだが、ほんの少し一人になった隙に、薬をかがされ四木沼に拉致されてしまう。
目を覚ますとそこは四木沼のサロン。しかもベッドに転がされて、両手首は拘束されている。
この体勢で四木沼がツグミに言ったことを要約すると「俺の子を産んでくれ。ただし妻を愛しているので妾って事でよろしく」という話だった。
き、貴様ーーー!!
こっちは乙女ゲーのヒロイン様やぞ!
ツグミの前に跪き「お前なしでは生きられない。妻とは離縁し、財産はすべて譲渡する」とすがりつくくらいの誠意を見せよ。
だが、四木沼は大真面目に「妾になるのは君にとって良い話だよ」という態度でそれを提案している。

四木沼がツグミを気に入った理由の一つは血統。四木沼は生粋の血統主義者なので、没落しているとはいえ平民の血を入れていないツグミの家がお眼鏡にかなったのだ。さらに稀モノを見分けられるというツグミの能力。これらを加味して「自分の子を産むにふさわしい」と(一方的に)判断したようだ。
ついでにフクロウをやめてカラスになれとまで言われたツグミは、当然それらをまとめて断る。
そんなツグミに四木沼はいきなりのしかかってくる。
燭台切光忠みたいなツラしてるくせに、いきなりその場で一発やろうとするな。
薬を嗅がせての拉致、手首の拘束、愛人打診というトリプルリーチに加え、さらに四木沼は力ずくで大人しくさせようと、暴れるツグミの首を締める。
役満決定だ、こいつは刺していい。
あわやというところで四木沼の妻薔子が助けてくれてツグミは事なきを得るのだが、四木沼から「フクロウの中に実はカラスのメンバーがいる」と聞かされて、動揺が極まる。

他のルートではそれほど目立たなかった四木沼だが、このルートでは絵に描いたような悪役である。しかし、なぜ悪役というのはわざわざ「裏切り者がお前のそばにおるで」と教えてくれるのか。
犯されかけるというハプニングはあったが、重大な情報を手にしたツグミ。それを真っ先に相談する相手は、当然鴻上。乙女ゲームのヒロインはとにかく独断専行に走りがちで、周りを巻き込みつつ結果として攻略対象に助けられる場合が多いのだが、ツグミはこのルートに限らず困ったら大体は上司や同僚に相談しているので、そこは私的にかなり好印象である。
しかし、今回は相談した相手が悪かった。
「フクロウに裏切り者がいるらしいの!でもみんなはそんなことしないと思う」みたいな事を言ったツグミに対して、「裏切り者は俺だ」とカミングアウトする鴻上。
裏切りだけならまだ良いが(良くはないけど)、そこから鴻上が取った行動は、3回くらい見返しても意味がわからなかった。
ツグミが襲われかけた話を聞き自分の秘密をカミングアウトするやいなや、「本当はあいつにやられたんだろ?」と鴻上。さらに「あいつにやらせたんなら俺の相手もしろ」と言い出す。
え?それはあの、君は四木沼と穴兄弟になりたいってこと?
わっかんねえ〜〜。鴻上、お前の考えがわかんねえ。
しかし、鴻上は「脚を開け!」の一点張り。
まあ、鴻上は好き好んでカラスにいるわけではなく、従わなければ殺されるという恐れもあって四木沼に縛られているのだ。わかる。それはわかるが、「俺はあいつ(四木沼)にお前を犯せって言われたら犯さなきゃならないんだよ」って襲いかかられても。
そもそも四木沼はそんな命令出してねえ。
「あいつからは逃れられない。自分にはすでにカラスの入れ墨が入っている。あんたもカラスの仲間になるしかない」と鴻上。
「そういうことだよ」
ってどういう事だよ。
何もかもわからないまま、同じ日に二回も犯されかけたツグミ。なんて日だ!
度重なる鴻上の「脚を開け!」(勝鬨橋じゃないんだから、そんなに何回も開け開け言うんじゃありません)にも屈せずにいると、なぜか鴻上は何もせずに立ち去る。
ということは、マジで襲おうとはしていなかったということだろうか(それにしては真に迫っていた)。
多分、鴻上は好きな女が憎い男に犯されて(と思い込んでいる)、しかもカラスに目をつけられた事に大ショックだったのだろう。ショックのあまり混乱していた、もしくは自暴自棄になっての行動だったんだろうとは思う。
思うがしかし、そこでレイプして四木沼と穴兄弟になろうとする発想がよくわからなかった。

ツグミは翌日、四木沼に襲われかけてカラスに勧誘された件も、鴻上が裏切り者であることもきちんと上司に話す。それでも自分が鴻上を信じている事も、四木沼の言うことを聞いたフリでアジトに乗り込み、自分を交渉のネタにするのはどうかという案も全部相談している。
こういう局面で、誰にも告げずに乗り込まないのがツグミの良いところだろう。

今回のルートはカラス(つまりは四木沼)が本腰を入れてフクロウを潰しに来るというストーリーになっている。
危険な稀モノを回収保管するフクロウとは逆に、四木沼は稀モノを集めてオークションにかけ、多額の金を得ている。稀モノを販売するのは法に触れるので、その証拠を握ればカラスを摘発できるのだが、なかなか証拠があがらない、という流れはこれまでと同じ。
だが、今回はカラス内部の摘発者や「オークションで稀モノを買った」という証言者、またその証言を聞いた者など、オークション摘発に繋がりそうな人間が多く登場し、次々に殺されたり襲われたりして消されていく。四木沼のフクロウに対する対決姿勢が明確に表されているといえる。
フクロウそのものへの嫌がらせや工作も続いたため、これ以上犠牲を出したくないツグミは「やはり自分自身を交渉のネタにしたらどうか」と四木沼の所に出向こうとする。
ツグミ一人が行って交渉したところで、四木沼がフクロウ潰しと稀モノの販売をやめるとは思えない。やめとけよとしか言いようがない展開だが、ここでもツグミは誰にも言わずに自己犠牲の精神(と言えば聞こえはいいが、後から周りに与える迷惑を考えない行為)で敵地に乗り込むような真似はしない。
裏切り者と知りながら、鴻上にそれを話している。鴻上はツグミを四木沼に差し出す事はできず、カラスに反旗を翻すことになる。
この後、鴻上は上司とツグミに自分の生い立ちや、なぜカラスにいたのか洗いざらい話す事になり、ここで彼が華族を嫌う理由が明かされる。
実は鴻上の母は四木沼の父親の愛人であり、つまり鴻上は四木沼の異母弟。正妻の子ではない鴻上は、血統主義の異母兄からずっと見下されて生きてきたわけだ。
四木沼の片目が不自由なのは、幼い頃に鴻上と二人で遊んでいた時に起きた事故のせいだが、鴻上は四木沼を守れなかった事を責められ、そのせいで母は自殺している。鴻上が嫌悪しつつも四木沼に従っているのは、「いざという時には正嫡の四木沼の身代わりになれ」という刷り込みのような思考のせいだと思う。
自分が四木沼を守れなかったばかりに起きた母の自殺は、鴻上にとってそれほど大きな出来事だったのだろう。
そこで「滉の事をもっと知りたい」と言うツグミを押し倒す鴻上。
前回のレイプ未遂といい、こいつの唐突なエロ行動は一体何なんだ。
「夜中に男を部屋に上げるからだ」と、ツイッターに上げたら炎上間違い無しの発言にツグミは「あなたは一体何がしたいの?」ともっともな事を尋ねる。
そこでようやく鴻上の望みは「四木沼にツグミを渡したくない」ということだとわかる。
異母兄からの呪縛を自分の意志で解こうとするセリフ、ツグミへの愛の告白ではあるのだが、これは正直押し倒す前に言って欲しかったと思う。
ツグミも鴻上に告白しお互い盛り上がるのだが、ここで「もっとはしたない女になれよ」と名言をドロップする鴻上。
もう!あんまり面白い事言わないで!エロシーンに集中できないでしょ!

翌日、フクロウのメンバーと情報を共有し、腹をくくった鴻上はカラスの本拠地で四木沼と対決することになる。
ここで、四木沼の血統主義が筋金入りであることが明らかになるのだが、これがすごい。
偽物を作ってまで稀モノを販売するのは金のためではなかった。他のルートでは金のため、あるいはコネのため、または稀モノを政界有力者に持たせて自殺させ政界を乗っ取るため、というあたりまでしか描かれなかった。
しかし、このルートでは四木沼が「なぜ」政治家を消して軍人に政権を乗っ取らせたいのかが明かされる。
ニルアドは大正時代がモチーフになったファンタジーだが、つまり「大正デモクラシー」の時代。男女平等、部落差別解放、そして普通選挙を求め言論などの自由が叫ばれた頃だ。そしてその平民との「平等」は四木沼が嫌う言葉なのだ。
そんな民主主義政策を推し進める政府なんていらん、そんな日本なんて大嫌い、というのが四木沼の主張である。
そのために彼は今の政府、日本をぶっこわしたいと考えている。今の政府要人を稀モノで錯乱ないし自殺させ軍事政権を樹立させる。そうしたら日本は戦争に舵を切り、滅びに近づくという寸法だ。
日本をぶっ壊した暁には、じゃあ四木沼自らが華族中心新生日本の舵取りをしたいの?と思ったら「日本を壊した後、私はヨーロッパに行く」とのこと。
えーーー!!
お前はマジで何がしたいんだ。
結局海外行くんなら余計なことをするな。
レゴブロックじゃないんだから、壊したあとのことまで考えろ。
まさか、壊すだけ壊した後はノープランだなんて思ってなかったので、つっこみどころが多すぎる。
まあとにかく、四木沼のアホみたいな主張に頷いてはいられないし、前述のように義兄からの束縛を断ち切った鴻上が奮戦し撃ち合いの末、四木沼は現行犯逮捕となる。
それでもラストでは脱獄して海外に逃れたような描写があったのだが、日本を壊しても海外に行くつもりだったんだし、マジでこいつがどうなりたいのかわかんねえ。
この時代に海外なんて行ったら、向こうでいくら華族だなんだといっても黄色い猿扱いされるだけじゃないんだろうか。今度はヨーロッパを壊したくなるかもしれんな…と思った。

ラストは四木沼に撃たれた鴻上が病院から戻ってきて、ツグミと2回目のセックスに及んで終わり。
今回は合意の上、しかもちゃんと睦言らしきことを言ってから事に及んでいる。ツグミに「まさか病院で何か変な薬を飲んだせいじゃ…」と疑われるほど、憑き物が落ちたようにスイートなことを言う鴻上。
四木沼に撃たれたせいで、そこに彫られていたカラスの入墨も消えそうだし、フクロウの仲間たちとの関係も良好。鴻上が自分の居場所を確たるものにし、新たな一歩を踏み出すようなエンディングになっている。

不幸な生い立ちのせいで心を殺しているようなキャラが、自分でもよくわからないうちにヒロインに惹かれていき、人間らしい感情を獲得するストーリーは鉄板だが萌える。
ただ、鴻上ルートの場合、敵役の四木沼のキャラが強すぎてそっちに意識を持っていかれたのが残念。
正直、鴻上とツグミの恋愛よりも、あんなに救いようのない四木沼と妻の薔子の馴れ初めの方が気になってしまった。
あと、鴻上のレイプ未遂ははっきり言って良くなかった。
普段は感情線がぶった切れてる無表情タイプの鴻上が、始めて声を荒らげ感情を露わにするイベントなのだが、やはりレイプは良くない。
その後の甘々なセックスシーンも、このイベントのせいで「でもこいつ、前に無理矢理やろうとしたしな」などと思ってしまう。ツグミはどうだか知らないが、実際にそんな事があったら恐怖が先に来て、恋人関係に発展したとしてもしばらくセックスなんて出来ないんじゃないだろうか。
それに兄貴のことをあんなに嫌ってるのに、レイプ未遂を起こした兄貴と鴻上は結果として同じことをツグミにしようとしたのだ。
お前らやっぱり兄弟じゃねえかと思ってしまう。
あのイベントは、兄貴に襲われかけた女をまた襲う展開ではなく、気遣う展開にしてほしかったと思う。

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