金色のコルダオクターヴプレイ記 金澤ルート感想

オクターヴはプレイする前から、というか島に行ったら若返るという設定が発表された時点で「金やんルートしんどそう」とプレイヤーの大多数が思っただろう。もちろん私もそう思い、「魔法の島行ってまでキツいのは見たくねえなぁ」とぬるま湯を選択していった結果、気づけば金澤含めて残り二人になっていた次第である。
出来ればしんみり気分でフェスタを卒業したくないと思った私は衛藤をトリに選び、金澤ルートから着手することにした。
金澤はコルダの攻略キャラ最年長。それが魔法で一気に若返り、高校生の姿になる。身体はDK頭脳はアラサーであり、ハルモニアで再会した彼は、身体が軽い!肌つやがいい!と大はしゃぎである。
リアル20代前半、さらには10代という方には、彼のはしゃぎぶりがピンと来ないかもしれない。そういう方々は、あと10年後くらいにオクターヴを起動させたら新たな気づきが得られると思う。
しかし私同様、この時点で「せやな、わかる」と頷きながら金澤と肩を組みたい古参は沢山いるだろう。現実に戻った後のことを考える前に、何はなくとも若さを満喫したい気持ちは30越えてからようやくわかるのだ。
理事長だって、揚げ物が腹にもたれないっておかわりしたり、鐘楼の上まで元気に登ったりしていたではないか。

さて、金澤ルート。
前シリーズ履修済みのユーザーすべてが、喉を壊す前の金澤の姿を、眩しいというより「しんどい」と思って眺めているにも関わらず、当の本人は日野との学生デートや先輩後輩的なやりとりを楽しんでいる。つまり意外とイキイキしており、それがまた見ている方のしんどさに拍車をかける。
このまま楽しいだけの学園生活で終わるはずがない。(キツいイベントが)来るぞ来るぞ…と、ジェットコースターを昇っていくあの感覚で見守っていた我々だが、その予想は的中し、例の悪夢イベントが起きる。金澤が見た、喉が開かず歌えない夢は、しかし現実に起きたことである。
つまり、金澤にとっては現実こそが悪夢なのだが、それは喉を痛めたこと、将来を失ったことだけではない。彼の真のつらさは、それら全てが自分がやらかした過ちのせいであること、他人のせいには出来ず精神的な逃げ場がないことである。
金澤は、猛烈な自己嫌悪と後悔を心に抱えてこれまで生きてきたんだと思う。
彼にとって「若さ」とは肉体的なことだけでなく、まだ大事なものを失っていない自分そのものを指す。それなのに一度失ったものを魔法で手にし、現実に戻ればそれをまた手放さなくてはならないのだ。残酷すぎてリリの所業に震え上がる。
そしてハルモニアの試練は予想通り、そこをピンポイントで突いてくる。
しかし私の予想と大きく違ったのは、アラサー男性が自らを人魚姫になぞらえたというか、人魚姫の気持ちになっていたことである。
まさかの金やんマーメイドであり、この場に加地がいたら「マーメイドだけは駄目ですよ!」と鬼の形相でストップをかけたかもしれないが、幸いそこに彼はいなかった。
金澤が話してくれたのは、恋を手放して声を取り戻した人魚姫のアナザーストーリーである。
しかしここで金澤は「自分なら恋を差し出して声をとり戻したい」とも「大事な恋は差し出せないから声はそのまま」ともはっきりは言わなかった。
「もしも」を思ってしまうこと自体が枷だと金澤はちゃんと気づいていて、失恋も自棄も後悔も全部抱えて先に進もうと決めたのだと思う。
彼にそう思わせたのは、理不尽の権化リリと渡り合ってきた日野の前向きな姿だというのにも納得できた。
迷いから抜けた金澤はさっぱりしたいい顔をしている。しかもなんとなーく「声を取り戻すぞー」みたいな話ではなく、「医者行って喉の治療を受ける」という現実的な話をしていたのが本当によかった。
ラストのフェスタでは、日野に一度「ハグはだめ!」と教師としてのわきまえを見せてからの、「堪えきれない」ハグである。
10人中20人がここで「いいね!」と思っただろう。
そして、「(ハグのことは)忘れろ」と言う金澤だが、教師命令だとしてもそれだけは聞けねえ、むしろそれだけは脳髄に刻むぜと私は思った。
普段、コルダの教師陣は異常に立場をわきまえていて、「現実なら事案、ばれたら懲戒免職」という行動を取らない。
それが魅力なのだが、今回の舞台は魔法島の一夜の夢である。少しくらい踏み外そうぜ!と願った通りの金澤ルートだったと思う。
予想していたキツさはやはりあったが、それ以上に前向きな金澤が見られて満足である。それに金澤本人に余裕があるだけに、悪い意味でのしんどさは意外なほど感じず、体が若返った生き生きアラサーと実に楽しく過ごしたルートだった。

爽やかイケメンの金やんも魅力的だが、エンディングでの不精ひげがやたらと懐かしく感じたのは、見事にルビパの狙い通りだっただろう。
ただ、不精ひげはともかく、やっぱり髪の毛(後ろ)は切った方が好きだと思った。

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