ニル・アドミラリの天秤 汀紫鶴攻略感想
※個人の感想ですよ
ニルアド、攻略二人目は売れっ子作家(ジャンルは恋愛小説)の汀紫鶴。
着流しに黒手袋という京極夏彦スタイルで、中身は飄々とした遊び人風。女に優しく、コミュ力が高いが本心は見せないタイプで、共通ルートをやった限りでは「ちょいちょいセクハラ発言をしては去っていく人」というイメージだ。
このゲームは共通ルートの後で一人を選んでルートに入るのだが、紫鶴はヒロインツグミの所属する「フクロウ」の組織員ではないので、「一緒にパトロールしながら彼のことを少しずつ知っていく」という過程が無い。だからルートに入ってもしばらく紫鶴はやっぱり「ちょいちょい現れてはセクハラ(以下略)」のままである。ただ、同じアパート(フクロウが寮に使っている住居)の住人であるからしょっちゅう顔は合わせる。
褒め上手で女あしらいが上手く、冗談混じりに迫る紫鶴にツグミは赤くなったり怒ったりと大忙し。最初はからかわれてむくれていたが、暫く会えないとなると寂しく思ったりするし、紫鶴が他の女の子に声をかけているのを見てモヤモヤしたりする。かなり序盤でツグミの方が先に恋に落ちている気がするが、ツグミは無自覚である。紫鶴の方はツグミにマジ恋なのかどうかよくわからないのだが、クソ真面目で純なツグミをかなり気に入っている様子ではある。
ツグミは毎日地道にパトロールして稀モノ探しをしつつ、なんだかんだで紫鶴と仲良くなっていく。紫鶴は単なる軽薄男ではなく、しっかりした考えを持った大人の男だと次第に気づいていくのだ。
そんな中、帝都では連続事件が起きる。若い女ばかりが狙われ、首を絞められるのだ。幸いまだ死人は出ていないがいつ殺人に発展してもおかしくないし、犯人はなかなか捕まらない。
被害者の口には必ずライラックの花が詰められ、そばには紫鶴の書いた本が置かれている。ちなみにライラックは紫鶴が好きな花で、それはファンの中では有名な話らしい。
紫鶴が犯人なら、わざわざ現場に自分の手がかりを残さないだろとは思うのだが、それが連続して起きているとなればさすがに無関係とは言えない。そう考えた警察に紫鶴は目をつけられしまう。
紫鶴は普段から胡散臭いというか、飄々としていて掴みどころのない男だし、深夜でも早朝でも創作のため、気分転換のためにふらふら出歩いたりする。紫鶴は何もかもが怪しすぎるのだ。
日頃の行いって大事。
しかも、紫鶴には密かに稀モノを隠し持っているという疑惑がある。稀モノは作家の強い感情(主にネガティブな)を写し取り、手に取った人の精神に影響を与える危険な本だ。
ということは、紫鶴が稀モノの影響を受けて無意識に若い女を襲っている可能性もあるのだ。この場合、操られている紫鶴には犯罪を犯している自覚も記憶もないかもしれない。
紫鶴には小説の師匠(山村暮鳥と室生犀星を合わせたみたいな名前で、江戸川乱歩っぽい作風の小説家)がいた。彼は、お上の検閲に抗議するため自殺している。
紫鶴が持っていると思われるのは、その師匠の絶筆草稿である。それを書いた直後に師匠が服毒自殺していることを考えたら、その原稿が稀モノと化している可能性は高い。
しかし、ツグミの調べた限りでは紫鶴の元に稀モノは無くその影響を受けている様子はない。
そんな中で捜査の進展がないまま、次の犠牲者が出てしまう。犠牲者は、紫鶴の同期の女流作家である。
紫鶴と直接繋がりがある女性が被害者になったことで、警察は紫鶴への疑いを強めるが、紫鶴が犯人だという証拠はない。
狙われているのは若い女、そして犯行時間帯は深夜から早朝。現場はウエノ公園界隈。目撃証言から犯人は長身の男。
ここまでわかってるんだから、早く警察がなんとかしろよと思うのだが、この世界の警察は居丈高なわりにポンコツである。
このままでは手柄を焦った警察が紫鶴を犯人に仕立て上げかねない。それを防ぎ紫鶴の疑惑を晴らすには、真犯人を見つけるしかない。そう思ったツグミは、自分が囮になって真犯人を捕まえるのはどうかと提案する。
他のメンバーの協力のもと、その作戦がスタートするという流れだ。
紫鶴ルートは、正直、恋愛の進展具合より事件について(犯人や動機)の方が俄然面白いのだが、事件の合間合間にラブの方も動いてはいるのだ。
紫鶴に子ども扱いされるのが嫌なツグミが背伸びしてコロンを買ってみたり、顔見知りの大学生と並んで歩くツグミを見かけた紫鶴が嫉妬のあまりキスしたり(何故そうなる)と色々展開している。
誤解した挙げ句「大人しそうな顔して実はやることやってるんだね」とツグミに無理やりキスして泣かせた上「夜に男の部屋に来た君だって悪い」と抜かした紫鶴の嫉妬の仕方が大人気ないし、私の好感度爆下がり案件だったのが残念である。女に慣れたキャラなら慣れたキャラらしく、キスした時の反応で「こいつは未経験だ」と即座に判断するくらいの事はしてほしい。
貴様、本当に女に慣れてるんだろうな。
紫鶴は事件解決のあたりまでその嫉妬を引きずっていて、ツグミの方から自分を求めてほしいと言い続ける。自分から「君が好きだ。欲しい」とは言いやがらねえ、あくまで言わせたいのだ。
しかし女の方から意中の男に「好き」と告白するくらいならともかく、紫鶴が「僕を欲しいって言って」という言い方をするので、一気に告白のハードルが上がっている気がする。
みんな、相手に「好き」って言う前に「あなたが欲しい」とか言える?
俺は言えない。
ツグミがなかなか言えないのも無理はない。
せめて「僕を好きって言って」くらいにしてほしい。
ところで事件の方だが、紫鶴には犯人の心当たりがあったようで、ツグミがおとり捜査している一方で紫鶴も真犯人をおびき出そうとしていた。
まんまと現れた真犯人は、紫鶴と師匠を同じくする笹乞。笹乞は同門の紫鶴と女流作家の平塚が売れっ子になって、自分だけが落ち目な事を逆恨みし、紫鶴を陥れようと犯行に及んだらしい。平塚が被害者になったことで、紫鶴は笹乞が犯人だと気づき網を張っていた。そこに笹乞は引っかかってきたのだ。
また、服毒自殺したと思われた師匠を殺害したのも実は笹乞で、その際には師匠のネタ帳を盗んでもいる。
自分勝手な理屈を並べる笹乞を紫鶴が怒鳴りつけるのだが、それがすごく良かった。紫鶴みたいなのらりくらりしたタイプが声を張り上げて真っ当なことを言うと2割増にかっこよく見える。
笹乞は現行犯で、しかも紫鶴と組み合った際にナイフで怪我を負わせているのでその場でお縄に。
事件は一件落着、となる。
その2日後に紫鶴は警察の取り調べから解放されてアパートに戻ってくる。フクロウのみんなで、犯人逮捕と紫鶴解放のお祝いをしようぜとなるのだが、解放されたばかりだし今日は休んでパーティは明日ね!と言う紫鶴。
ここでツグミにばっちり目配せをくれる。
何回も言うが紫鶴は世慣れた男だし、花街がどうのという話も出てくる。歴史ファンタジーの良いところは、花街あるいは遊郭というワードを出すだけでなんとなくそいつに「女の扱いに長けた」とか「セックスが上手そう」みたいなイメージを与えられる事だ。「花街」と言うと雅で粋だとすら思えてくるが、これが現代ものだと「花街」「遊郭」「妓楼」あたりに置き換わる言葉が「風俗」となり、一気にキャバクラ通いの男に堕ちてしまう。
舞台設定と言葉選びは大事だという話なのだが、それによって紫鶴はドスケベというより、粋な遊び人の枠に収まっていると言える。。
だから、私は「さて、君はいつどこで何回やるのかな」と好奇心でワクワクしながら眺めていた。わりと早く手を出すだろうと予想していたのだが、何と最後の方までやらない。
翡翠の方がよっぽど早かった。あ、別に翡翠が早漏って言いたいわけじゃないよ!(わかってるよ)
これは予想外だった。
手が早そうなタイプなのに、やるのは事件が全て解決してからね、という姿勢は非常によかったと思う。ルートに殺人と犯人探しが絡んでくるだけに、そこにセックスまで絡んできたら何がなんだかわからないとっ散らかったシナリオになってしまっただろう。
紫鶴ルートのエロは、警察の取り調べから解放されて、久しぶりにアパートに戻ってきたその日に心置きなく致しました、という流れである。
まあね、紫鶴が「警察では風呂にも入れなかったから、ちゃんと風呂に入ってさっぱりしたい」みたいな事を言ったあたりで、「そろそろやな」と思った自分の勘を褒めてあげたいですね。
ただ、紫鶴はセックスへの持っていき方がやたらとマニアックである。ツグミに自分のしていた黒手袋で目隠しさせて、お菓子(リキュールボンボン)を一粒ずつ食わせ、酒に弱いツグミが頬を火照らせたあたりで「欲しいと言って」と来る。
何を?(酒を?)
と思ったら、「僕を」とのこと。
なるほどー、そっち?(そりゃそうだ!)
まあここに至るまでに、「ツグミが本当の恋を知らない」とか「紫鶴の恋愛小説に出てくるような激情って一体?」とか、ツグミが自分の中にある恋心に気づかない、あるいは認めたがらないという描写がある。
それを踏まえて、ツグミの中にも相手を求める激情があるんやで、だから自分から求めなはれ、という事だと思う、多分。
単に紫鶴の趣味なのかもしれないけど、多分。
さて、菓子に入った酒と紫鶴のマジックタッチによって、まんまと「欲しい」と言うツグミ。
あれは酒というより違法性のあるおクスリだったのでは、と思うようなヒロイン即落ちにびっくりしてしまった。
翌日、台所で味噌汁を作るツグミに、朝っぱらから欲情する紫鶴。
翡翠といい紫鶴といい、ニルアドの男どもには翌日も必ずやる、というルールでもあるのだろうか。
とにかく、どうやらその後も紫鶴の部屋に移動して致したらしい。
ただ、紫鶴ルートはそれでは終わらない。紫鶴はやはり稀モノを持っていたのだ。しかも天井裏にわざわざ隠していた。ツグミと違って、普通の人は稀モノを見た目では判断できないし、本を開かなければそれほどの影響は出ない。だが、実力ある作家が殺されて、その恨みを含んだ稀モノの威力は凄まじく、時折本から聞こえる「殺してやる」という声は確実に紫鶴を蝕んでいたのだ。
紫鶴は人形を買ってきてそれを刺すという、殺人の代替行為で何とか衝動を抑えていたらしい。この本をなんとかしなければとは判っているが、もう自分からそれを手放せない域まで来てしまっていた。
それを知ったツグミは、原稿を奪って焼却炉にドーーン!!稀モノは無事に燃えて、真の解決編となる。
私生活も創作スタイルにおいてもマイペースを貫いているように見え、作家として成功もしている紫鶴だが、実は稀モノを生み出せた作家に嫉妬をしている。
稀モノという、ある意味作家の魂が刻まれたような作品を自分が生み出していない事を悔しく思っている、というのがいいなと思った。
紫鶴がぐっと人間らしく感じられるからだ。
紫鶴のエロシーンは手袋による目隠しだけでなく、ツグミにストッキングを履かせてあげるところから始まるなどなかなかの面白みというか、オリジナリティがある。しかも推定2回しかやっていない翡翠に比べると、同じ尺なのに紫鶴はおまけ含めて5回はやっている(マリ調べ)。
そういうがっつきぶりは悪くない。
ただ私は紫鶴に限らず、「○○して欲しいと言ってごらん」と女に恥ずかしいことを言わせて悦に入り、「良く出来たね、ご褒美だよ」みたいなタイプのエロシーンが好きではない。
そういう男ほど、自分が「言ってごらん」と促したにも関わらず、いざ女が「では私の希望を言わせてもらいますが、右斜め45度を舐めてくれませんか?」みたいにハキハキ要望を告げたら萎えるに決まっているのだ。
また、翌日には性に目覚めて紫鶴の言いなり状態になっているツグミの姿が私はあんまり好きではない。乙女ゲームのヒロイン様たるもの、心も身体も紫鶴無しではいられないなどとならずに、むしろ、逆に紫鶴を「ぜひ僕に目隠しでリキュールボンボンを食べさせてください」とグズグズにしてやるくらいの方がいい。
翡翠ルートの場合は、彼の偏った恋愛観をぶち壊すためにもエロはあって構わなかったが、紫鶴のエロはマジで無くてもいい。ツグミが本気の恋をして自分からそれを表明するという以外に、ストーリーには直接関係ないからだ。
むしろそういうシーンがある事でせっかくかっこよかったストーリー部分の紫鶴が霞んでしまう。
ストーリーは間違いなく面白かったのだが、私の性癖と紫鶴の性癖(言わせたがり)がミスマッチだった。
当然そういうのが好きな人もいるだろうから、これは完全に私と紫鶴の性癖の不一致による不幸だ。
また、世慣れた遊び人風の作家なのだから、紫鶴の年齢設定はもうちょっと年上でもいいと思う。24ではヒロインが背伸びして彼に追いつきたいと思う部分がいまいち納得できないので、28くらいにしといてほしかった。
あと、ツグミが紫鶴を好きになったのはなんとなく分かるのだが、紫鶴がツグミを好きになった理由もいつ本気になったのかもよくわからないのが残念である。
ストーリーがかなり良かっただけに、翡翠ルート以上に「このシナリオにエロシーンはいらんな」と思ってしまった紫鶴ルートだった。
誰か「エロシーンがあって良かった!」と思えるシナリオの奴はいないのか。
とりあえず次は、今のところ「ムカつく」以外に感想が出てこない鵜飼にいく。