ずるいぜ、博多弁
この秋から始まった朝ドラ「おむすび」は福岡県の糸島市が舞台だ。
10年くらい前に3年間ほど福岡市西区に住んでいたので、お隣の糸島市にはよくドライブに出かけた。主人公・橋本環奈ちゃんが登場する場面は海か山か一面の田んぼかの牧歌的な風景が多いが、実はおしゃれなカフェが海沿いにたくさんある。海岸から離れて田んぼ道を進むと、新鮮な農作物を売るお店などもあって、私たち家族は糸島が大好きだった。10年経って、今はもっと磨きがかかった街になっているかもしれない。そろそろ再上陸を果たしたい。
ドラマでやはり印象に残るのは、久々に耳にしたギャル語も笑えるが、やっぱり地元言葉の博多弁。「〜〜〜すると?」とか「〜〜〜しようと?」とか、可愛くって仕方がない。京言葉はモテる方言の筆頭だと思うが、甘え上手な感じは博多弁。「ずるいぜ、博多女子」とよく思っていた。
博多弁がいかに可愛いか。
橋本環奈ちゃんがしゃべっているから可愛いのだ。うん、それも一理ある。
だが、博多弁というのは、あらゆるものを「可愛く」コーティングしてしまうのだ。私は、その真実を知っている。その現場を目撃したことがあるのだ。
10年前のいつか。博多といえば、「博多祇園山笠」という祭りが有名だが、その最終到着地である櫛田神社に家族で出かけたことがあった。
何を目的に出向いたのか覚えていないが、その時は夜だった。
正門に近づくにつれ、音楽のようなものが響いてきて、境内からはカラフルな淡い光が滲み出ている。「うん?何かイベントでもしているのかな」と近づくと、何やらイルミネーションのようなイベントが開催されていた。恐る恐る入ろうとしたら、なんと有料。今日はイベントを開催しているから、参拝できないと言われてしまった。
「え〜、こんなんあり?」と不満タラタラで神社を後にしようとしたその時、なかなかの怒声が背後から響いてきた。
「うんうん、わかるよ、怒りたくもなるよね」と同情したが、尋常ならぬ怒りっぷりというか、○クザを彷彿させる激しいものだったのでしばらく耳をそばだててしまった。
男は大声でこう叫んでいた。
「遠くからわざわざお礼参りに来とーとよ!なんで入れんとー!?」
おっさんがめちゃくちゃ怒っている。せっかくお礼参りに来たのに、お礼どころか参拝もできないと怒り狂っている。大阪や広島のおっちゃんがあの剣幕で暴れたら、蜘蛛の子を散らす勢いで周囲100メートルから人が消えそうだが、福岡のおっちゃんの場合、博多弁の場合、どんだけ乱暴な言葉でも、ちょっと、、、可愛い? 逃げるどころか、耳を傾けたくなる不思議。
すっかり聞き入ってしまい、「ははは、めちゃくちゃ怒っているのに、なんか可愛い」と夫と小笑いしたのだった。
博多弁の「可愛い」力の凄まじさが伝わっただろうか。おっさんの咆哮さえも、甘くコーティングしてしまう方言というのは、他にあるまい。
ずるい方言だなあ、博多弁をマスターすれば、人間関係とか全部うまくいきそうだ。
ドラマは少しずつ面白い展開になってきたかな?食をテーマにした朝ドラ、楽しみです。