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遠回りは人生のスパイスだ?③ 内モンゴル〜北京タクシー旅 後編
続き。
中国・内モンゴル自治区の省都フフホトから、北京までのフライトに乗り遅れた(チケットの日付が前日だった)私たち4人は、タクシーで北京まで戻ることになった。
兄ちゃんの運転は、乱暴だった。そんなに急いでいるつもりはなかったけど、何がどう伝わったのか、猛スピードで高速道路を駆けていく。
私たちは「怖い!」とか「速すぎる!」とか「そんなに慌てなくても!」とか、そんなことをギャーギャー言いながら、カーブのたびに右に寄ったり左に寄ったり、兄ちゃんのハンドルに転がされていた。
やがて、そんな運転にも慣れて、周囲を見渡す余裕が出てきた私たち。窓の外を見ると、日本ではお目にかかったことのないような奇岩がそびえ立っている。
「おおー、見てあれ!凄いな、絶景だな」
「いいもの見れたね。チケット間違っててよかったかもね」
「本当だ、飛行機だったら素通りしていたわ」
そんな話をMちゃんとしていたら、Aちゃんがボソッと言った。
「……一緒なのが、二人でよかったわ」
心の中にあたたかいものが一気に広がった。私も二人が一緒で良かったよ。
壁なしトイレで小休憩
500キロの長旅である。さすがにノンストップというわけにはいかず、途中でトイレに立ち寄った。
そこにあったのはズバリ、かの有名な「お隣さんとの間に、壁がないトイレ」だった。「你好(ニーハオ)トイレ」というらしい。うんうん、ほんと、挨拶できる距離感。日本の公共トイレの壁なしバージョンだ。
「嫁入り前の娘に、ここで用を足せってか」と小刻みに震えたが、「郷に入れば郷に従え」精神をフルで発動したら、なんとかなった。実際のところ、これまでの旅で〝びっくりトイレ〟に関してはかなり免疫がついていたので、それも大きかった。
この北京〜フフホトの旅は、「おもしろトイレの旅」とテーマを絞っても1本書けるくらい、トイレのインパクトが強かったのだ。それはまた今度。
肝を冷やした「逆走」ドライブ
やはり私たちは疲れていたのだろう。暴走タクシー内で眠ってしまっていたと思う。気が付くと、窓の外はすっかり夜だった。事故でも発生したのだろうか、赤や黄色の細かなライトの明滅が目に飛び込んできた。
暴走タクシーはいつの間にか速度を落とし、渋滞に巻き込まれかけている。
「わ、混んできているね」「渋滞かなあ」と3人で話していたら、兄ちゃんがハンドルを切り始めた。必死の形相で、何回も切り返す。「何してるんだろう」と3人で顔を合わせる暇もないほどのスピード感で、車体はいつの間にか180度向きを変えた。そう、逆走し始めたのだった。
!!!!!
中国がいかに無法地帯とはいえ、これが万国共通のルール違反であることは、私でも分かる。3人が中国語と日本語で兄ちゃんを問い詰める。(英語を話すJ氏はとても静かな人だった)
だが、兄ちゃんは動じない。〝暴走タクシー〟は〝逆走暴走タクシー〟と破壊力を上げて、側道をまっすぐ突き進んでいった。いつもは冷静沈着なAちゃんが「ああー、終わった!逮捕される!」と頭を抱えたので、Mちゃんも私もおそらくJ氏も沈黙してしまった。逆走暴走タクシーの中で。
この時のことはあまり覚えていない。だが、兄ちゃんは逆走することで抜け道にたどり着いたらしい。気がついたら道が開けて、元通りの暴走ドライブに落ち着いていた。
警察の追跡らしきものもない。大丈夫だったみたい。ああ、良かった、うまく抜け道を見つけてくれたんだろうね、でも何も逆走しなくても、ああでも本当よかった、と話しているうちに、北京に着いた。
この「遠回り」は、今でも忘れられない出来事だ。
失敗も遠回りも、悪いことばかりじゃない。それを知っているだけで、人間の格が少し高い気がするのは、私の思い込みだろうか。いや、そういうことにしておく。
人生も後半戦だ。これからは遠回りの直径をさらに広げて、面白おかしく過ごしていきたい。