正解がなく、どの選択をしても非難されるとき
COVID対処で消費が減って、経済の回復の見通しがなかなかつかず、郡の消費税が収入源の大部分になっているロサンゼルスメトロは大打撃。この先どうやって大規模な公共事業を進めていくか、とか悩んでいる矢先に、先週から人種差別や、警察の対応に対する抗議のデモがアメリカ各地で広まっていった。ロサンゼルスももちろん例にもれず、デモが行われ、そして次第に状況が変わり、暴動になっていった。先週の土曜日の夜から緊急事態発生に伴って、外出禁止令まで出た。自粛ではなく、今回は禁止。
ダウンタウンではかなり大きな暴動があり、お店のガラスが割られて、中の物が盗まれたり、放火もあったとか。そんななか、メトロのバスも暴動の真っただ中に取り残された状態で、スプレーペイントで落書きされたり、前の窓ガラスが割られたりという被害に遭った。土曜日はお昼ごろから、デモの起こっている地域を回っていたバスの運転手たちから、このままシフトを続けるのは身に危険を感じる、という内容のリポートが次々とメトロ本社に入っていたらしい。
暴動がエスカレートするのを目の当たりにして、メトロのCEOはバス・電車の運行を停止することを決定。土曜日の夜8時から翌日日曜日の朝5時半まで。サービスを一時停止することにあたって、利用する人への弊害を小さくするために、サービスが停止された後も、メトロの職員が車でバスストップをまわり、バスを待っている人がいれば、緊急事態でサービスが停止されたことを伝え、他の交通手段をとるように促すとか、サービス停止中ではあっても、特別にバスを出して、乗客のピックアップを行った。
このサービスを停止する、というCEOの判断は、彼一人の独断ではなく、ロサンゼルス市長とイングルウッド市長(両方ともメトロの役員)、それからロサンゼルス警察とも相談しての上の判断だった。
ただ、運が悪かった、というか、タイミングが悪かったのは、サービスを停止したのと同じようなタイミングで、暴動で取り押さえられた人たちを輸送するのに、メトロのバスを使わせてくれ、という要請がロサンゼルス市警から来たことか。それでバスサービスは行わないけど、暴動で捕まったのプロテスターは輸送する、という見た目には非常に偽善者行為になってしまった。(これは今日知ったけど、緊急事態にはお互いに助け合う、という州の協定のようなものにのっとった決断だったとか)
月曜日のロサンゼルスタイムス紙にはこのことが記事になっていて、
サービスを停止して、バスや電車を頼りにしている利用者が家に帰れなくなって立ち往生なんて、道徳的に考えられない。とか
こんな目に合わせられて、バス利用者はメトロに見捨てられたことを忘れないよ。メトロの利用者はガクンと減るんじゃないか。
というコメントが寄せられていた。
もちろん、素早くサービスを停止する決断を下したおかげで、メトロのバスや電車が暴動参加者の交通手段にならなくて済んだのはよかった。1992年にあった暴動の時にはこの決断が遅れたため、公共交通機関が暴動に参加した人たちに交通手段として使われたという事実もある、という人も。
私がバスの運転手だったら、さっさとサービス停止してくれてありがとう、と思う。身に危険を感じて仕事なんかやってられっか、と思うから。そういう意味で、サービスを停止する決断を下したCEOは度胸があると思うし、たぶん、本当にバス運転手や電車の運転手の安全を真っ先に考慮しているんだと思う。
今回メトロに見捨てられてバス停で立ち往生した人が、この先メトロのサービスを使わなくなる可能性は大だ。けれど、運転手の安全を第一に考えずにサービスを続行していたら、そして負傷を追う運転手やバスへの損傷が大きくなっていたら、この先、メトロのバス運転手になりたいと思う人が減るんじゃないか。そしたら運転手なしにはバスは動かないのだ。サービスを提供できなくなったら元も子もないよ。
個人的にはCEOの決断は正しかったと思う。けど、彼はかなり非難されていた。別に私が言ってどうなるってわけでもないけど、非難なんてものともせずにこの全くChaosになってしまった2020年を復興に向かって引っ張っていてくださいよ、と心から思う。