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動物医療の進化で見捨てられつつあるフィラリア強陽性の小型犬

はじめに

全文無料で読める設定にしています。少しでもこの情報が何かの足しになりましたら、有料購入いただければ我が家の保護犬たちの美味しいおやつ代になります。(有料購入しても情報量は増えません)
この記事を執筆しているのは、動物医療関係者ではなく、一般飼い主です。飼い主が経験した内容について、飼い主が理解した範囲で書いています。正確な医療情報は、しかるべき専門家や専門書などでご確認をお願いいたします。動物病院に迷惑がかかるといけませんので、病院名は出しません。当方埼玉県蕨市在住です。そこから通院可能な範囲で探したと思ってください。
どうしても、ご自身の犬の治療先でお困りの場合には、個別にご連絡ください。

レスキューしたパピヨンがフィラリア強陽性だった

私は動物保護団体で、預かりボランティアをしています。
ある日、繁殖業者の一つが廃業をすることになり、大規模なレスキューが入りました。
保護団体の代表から、可愛いパピヨンの写真が私に送られてきました。

この時点で私が取りうる選択肢は3つります。

  1. 自分が預かる

  2. 我が家の犬として迎える

  3. 何もしない

このとき、私は「2.我が家の犬として迎える」前提として、「1.自分が預かる」という選択をしました。
代表からは「避妊手術が終るまで、のんびり様子を見て決めたらよい」
とのことでした。

健康診断でフィラリア感染が発覚

健康診断で、一通りの血液検査、外見チェック、心雑音のチェックをします。
その際に、フィラリア陽性、それも強陽性で、まぁまぁな数が心臓と肺動脈に寄生している状態であることが分かりました。

そもそもフィラリアとは?

フィラリアというのは、寄生虫で、犬の場合は心臓に寄生する。それは蚊を媒介して感染していく。
近年では、予防医療が発達しており、月に一度の投薬での予防が一般的にされている。蚊を媒介して犬の体内に入ってしまった幼虫の段階で駆除することで、成虫が肺動脈や心臓に寄生することを防ぐのです。

さぁ、どうしようか

以前にもフィラリア陽性のチワワを預かったことがあった。3kg弱のチワワで、フィラリア弱陽性だった。
保護団体でも過去に何頭か陽性の犬がいて、選択したことがある治療は3つ。

  1. フィラリア予防薬の通年投与(幼虫を駆除し続け、成虫の寿命をおだやかに待つ)

  2. ボルバキア除去(ボルバキアというフィラリアと共生する菌を抗生剤で殺菌し、フィラリアの寿命を積極的に縮める。一度に虫が死んだ場合に、超小型犬の場合は、血管につまるリスクが1よりも高い。)

  3. フィラリア吊り出し手術(心臓からフィラリアの虫を物理的に取り出す。一般的には首の太い血管から心臓にカテーテルを入て取り出す。開胸して、より心臓に近い血管にアプローチする場合もある。)

1.2.の内科治療は安価だが、時間がかかる。その間に心臓がダメージを受けていく。更に、体重が2kgしかない犬にとっては、死んだフィラリアが血管に詰まるリスクも高いと言われる。過去に3kg弱のチワワを預かったときは、1.のフィラリア予防薬の通年投与を選択した。体が一回り大きく、弱陽性であり、心肥大にもなっていない。そのため、充分に適用できたのだ。結果、10年前にレスキューした犬が1年で陰転し、今はおよそ15歳くらいになっている。
3.の外科治療は、保護犬を診て頂いている協力病院ではできない。道具がないのだ。
この時点で、早い段階で高度な治療が必要だし、専門家の意見を聞きたいと判断し、保護犬を卒業して我が家の犬になってもらうことにしました。

一番信頼している獣医さんへ

我が家で一番信頼している町の獣医さんがいる。その先生なら何か知っているかもしれない…と思い、とりあえず診察してもらいに行きました。
そこでDr. が
「うちでは手術は出来ないんだよなー、ブラシしかないんだよなー、アリゲータがない。アリゲータ持ってる病院あるのかな。今、どこも作ってないんだよなー。取り急ぎ、循環器の専門外来で、内科治療がよいか外科がよいか検討してみましょう。」と。

!?!?!?!?!?!?!?

「アリーゲータ持ってる病院あるのかな。今どこも作ってないんだよなー。」ですと?

ここで事態の深刻さに気が付きました。
フィラリア症は今や予防できる病気であり、感染してしまうことは稀です。
なので、吊り上げ手術が必要なケースは、きわめて減っているるのです。だから手術に必要とされるフレキシブルアリゲータ鉗子を作っているメーカーが、2023年現在では、すでに存在していないのです。過去にこの道具を持っていた病院でも、道具が劣化してしまって、「今は手術不可」となっているのです。

これ、2週間先の循環器外来の診断を待って「やはり外科治療が」となっても、そこから病院探すのでは間に合わないのではないか?と感じて、行動を開始しました。

医療は進化している。だからこそ、昔は治療ができたのに、今はできない。

ここでタイトルの「見捨てられつつある」につながります。
一般的な飼い主は、ほとんど、蚊が飛んでいるシーズンは、予防薬を飲ませている。そのため、フィラリアに感染する犬は10年前や20年前と比較して、激減しているのです。
逆に、予防薬を飲ませないほどに犬に無関心な飼い主は、数十万円かけてフィラリア吊り出し手術をするかというと、ほぼ選択しないのかと予想されます。(私が払った総額で50万円代。事前の検査とか入れると、60万くらいになっただろうか…)
この手術に必要なフレキシブルアリゲータ鉗子は、こうして作られなくなり、昔は治療ができたのに治療ができなくなりつつあるのです。
予防をしなかった飼い主→治療をしたい飼い主に犬が譲渡されるなど、レアケースでしか、必要とされない治療になりつつあるのです。
また、ボルバキアに抗生剤でアプローチする治療が浸透してきて、一定以上の体格であれば、それが適用できることも影響があるかもしれません。
問い合わせの過程でも、「昔はやっていたけれど今はできない」と何件も言われました。
また、道具の問題だけではなく、吊り出し手術を行う技術を持った獣医さんも減っています。患犬がいないわけですから、そうなりますよねぇ。

手術可能な病院を探す

ブログなどで治療について発信してくださっている方がおり、その写真やおおまかな地域から病院を特定します。特定厨とはこのことか…みたいな。
それから病院に問い合わせをして、手術可能か診ていただけないか、どんな選択肢があるか、意見をいただけないか、を聞いていきました。
その中で「今でもフィラリアの吊り出し手術やっています」という病院が、現実的に通院可能な範囲で3か所見つかりました。
そのうち、以下のC病院で手術をしていただくことにしました。我が家で一番信頼している町の獣医さんの系列病院でもあり、今後の通院や他の治療が必要になった場合の連携の観点でも理想的だと考えました。

  • A病院(フィラリア治療に詳しい病院)

    • フィラリア感染した犬を何千頭と診察してきた

    • 現在もフィラリア吊り出し手術を実施している

    • フレキシブルアリゲータ鉗子を持っている

    • 小型犬で使える特殊なブラシもあるがラス1

    • この犬は小さすぎて手術適用不可

    • 三尖弁のあたりに虫がいることがあり、心肥大も始まっている

    • 余命2年も持てばよい方

    • ボルバキアで急に虫が死んだときのリスク大

    • べナケバになれば、取り出せる位置に虫が移動している可能性あるので、そのときに手術した方がよい

  • B病院(町の病院だが、心臓の手術、例えば僧帽弁の再建などもできる病院)

    • 現在もフィラリア吊り出し手術をやっている

    • 吊り上げ適用できるのは、一番小さい犬で5kgくらいかな

    • 虫が詰まったとしても、おそらく抹消側に流れる

    • ボルバキアかフィラリア予防薬の通年投与くらいしかできることはないかな。ただ、完治まで心臓が持つか、虫が死んだときのアナフィラキシーとかリスクある

    • 吊り上げはできないけれど、直接心臓を開いて出せると思う

  • C病院(心臓専門)

    • 現在もフィラリア吊り出し手術をやっている

    • 2kgくらいの犬の吊り出しも経験ある。肺動脈までアプローチできた例もある。
      全部取れなくても意味のある減虫は十分可能。

    • 万が一、吊り出しが無理だったら、心臓を開く手術を検討すればよい。
      心臓を開くよりも、吊り出しの方が安全だし、不整脈もほとんど出ない。

    • 心肥大が始まっているし、逆流もそこそこある。減虫することで、リスクを逓減できる。

    • 吊り出しの際に、虫が裂けてしまうことがあり、その場合は肺炎のリスクがある。その修羅場を担当のDr.は経験している。

手術の予約はしたものの

本当に手術するのがベストなのか、それともフィラリア予防薬の通年投与、少しずつ心臓にダメージを受けたとしても、長生きできなくても、生きている間は「悪いなりにも静かに」過ごすことができるのではないか…
ずっと悩み続けていました。
ですが、そんな悩みを吹き飛ばす出来事が、入院前日(手術の2日前)の深夜に起こりました。急に立ち上がれなくなり、呼吸が早くなったのです。救急病院に駆け込みです。

これはべナケバですね、おれ、沖縄で働いていたから、ちょっとフィラリアに詳しいんだ

深夜に連れて行った救急病院で言われた言葉です。(ちょっと面白く書きましたが)
素人ながらに「血尿にもなっていないのに?!心臓、そこまで大きくないって言ってるのに?」と疑問は色々ありましたが、この時点で4件の救急病院に断られていました。つまり後がありません。ここしかありません。
べナケバとは、大静脈症候群の呼び方のようで、つまり心臓が「もう危ない」状態。一刻も早く手術をする必要がありますが、全身状態が悪すぎて手術も不可とのこと。(行った病院ではそもそも手術をする技術も道具もない)
ただ、連れて帰ったとして、翌朝、つまりもともとの手術予定の病院への入院予定の朝まで持つかどうか分かりません。
出来ることが少ない中で、入院させれば持続的な補液とステロイド投与が可能だということが分かりました。
少しでもできることがあれば、それをやってみて、できるだけ早い時間帯に、手術予定の病院に搬送させてもらうために、通常は退院できない早朝に退院させてもらえるように交渉をしました。
写真1:入院同意書抜粋

写真2:写真1の入院の同意書に「亡くなるリスク大」と書かれている部分を拡大。大は〇で囲まれている。

べナケバじゃないですねぇ、手術できますよ

詳しいことは省きますが、補液が功を奏したのか、朝には元気になっていました。
状態が回復し、手術予定の病院に連れていったところ、べナケバではない、と。問題なく手術できる、と。
考えられる状態としては

  • 死んだ虫がどこかに詰まったショック

  • 一過性のてんかん様の症状

  • 虫の居所が悪くて、一時的に血流に問題が出た

などのどちらにしろ一過性の問題が何か起こっていたようでした。前日の検査数値や、朝の心臓の状態からも「死にそうではないし、べナケバじゃぜんぜん無い」とのことでした。
これをきっかけに、虫のつまりどころによっては、いつ何があってもおかしくないのだ、ということを再認識することになり、もう手術するのが最善の選択肢だろう、と決断するに至りました。
救急病院での診断は微妙だったかもしれませんが、できることが少ない中でも、補液してもらえたことが、血流の改善につながり、全身状態が回復したようでした。

術後の管理

術後は3日で退院することができました。
また、経静脈からの手術だったため、術後は、首のあたりに傷がありました。それを保護する必要がありました。
病院ではスヌードなどを勧められましたが、たまたま傷の場所が微妙で、スヌードのゴムがあたったり、動くと傷が露出するようでした。
そのため、手持ちの洋服や術後服にTシャツを縫い付けて利用しました。

ちょうど首が隠れて良い感じです。Tシャツは切ってもほつれません。心配な場合は、この写真のように、片方を裾などの縫い上げている部分にしてもよいかと思います。

そんなこんなで、抜糸まで無事に過ごし、今では術前よりも元気に走り回っています。
やはり、虫が居たときは、微妙に具合が悪かったのでしょう。
手術して良かったな、と思います。

獣医療は発達し、治療可能な病気が増えてきたように思います。ですが、中にはこのように、獣医療の発達により、助けることが難しくなってくる病気もあるのだ、ということを、なんとなく、どこかに書いておきたいなと思ってここに綴った次第です。
100頭以上の犬を抱えて廃業するブリーダーに、恨みつらみを言うつもりもないです。毎月予防薬を飲ませながら商売をするのが難しい場合があるのでしょう。知らんけど。

繰り返しになりますが、この先有料設定しますが、何も情報はありません。
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