5年前の私に伝えたい、働き方についての5つのメッセージ
先日、at Will Workさんの働き方を考えるカンファレンス2021「働くのこれから 」のセッションを視聴させてもらい、日経COMEMOさんからこんなお題募集があることを知った。
#この5年で変化した働き方 というお題は興味深い。思えば私が日系の大手企業からスタートアップに転職したのは、5年前の2016年だった。大企業の画一的な働き方や、一直線しかないキャリアのレールにうまく乗れずモヤモヤしていた私は、悩んだ挙句、35歳で会社を辞めてスタートアップに転職する。そこで自分のやりたいことを仕事で広げる術を身につけ、居場所を広げて行った。その後2回の転職を経て、現在は外資系のスタートアップで働いている。今まで所属した会社の中で、今が最高だと思っている。
一方で、2年ほど前からSNSやnoteでの発信を始め、いくつかのコミュニティに出入りするようになり、自分でも仲間と一緒にコミュニティを立ち上げた。発信したことがきっかけで、イベントの登壇機会をいただいたり、インタビューを受けたり、メディアに記事を書かせてもらったこともある。これらの活動は、会社員としての業務とは別の活動だが、かといって副業という訳でもなく、完全なプライベートかというとちょっと違う。今の私にとっては、仕事とプライベートをきっちり分けない領域で発信をしたり、誰かとコラボレーションをすることがすごく楽しい。
この5年間で、私の働き方は大きく変化した。5年という節目は、詳細を記憶にとどめておくには長く、一つの時代が変わるほどには長くない時間だ(実際には元号が変わったばかりか、コロナにより別の時代が幕を開けた感じがあるが)。5年前の私は、5年後の私が今のような働き方、生き方をしているとは、当然だが想像していなかった。かつて、狭い世界でモヤモヤしていた私がまだすぐ後ろにいるのがすぐそこに見える。私でない別の誰かもまた、当時の自分と同じように悩んでいるかもしれない。今の私なら、5年前の私に向けて、どんな言葉をかけてあげたいだろうか。そんなことを考えて、noteをしたためてみます。
居場所は一つではない
5年前に比べて一番大きく変化したのは、この点だと思う。以前の私は、表に出す部分の自分は、常に会社員としての自分でなければいけないし、完全なプライベートの時間以外は、業務でバリューを出すことに繋がることをしなければいけないと思っていた節があった。だが、会社員だからといって、自分の時間やマインドシェアを全て会社に捧ぐ必要は、当然ながらない。
2年ほど前から、自分がスタートアップでやってきたことをnoteやSNSで発信することを始めた。その結果、会社ではない別の場所に所属することがすっかり楽しくなって、いくつかのコミュニティに出入りするようになった。さらには自分のコミュニティを作って、所属や年齢に関係なく気の合う仲間とのつながりを持てるようになった。
会社以外の場所で、社外の人とのつながりを作っていくと、自分がやっていることの価値や意味が、社外からどう見えるのかがよく分かるようになる。「井の中の蛙」にならなくて済むし、自信を持てるきっかけになったり、逆に「これはまずい」と奮起するきっかけにもなる。
そして、業務以外の面で自分を認めてもらえる場所があると、何よりも気持ちが安定する。仕事で、あるいはプライベートで何か問題があっても、もう一つの場所があったことで救われたケースが私自身何度もあった。
今でも教師や医者などの「聖職」と見なされるような職業は、どんなときもその職業としての振る舞いが求められるところがあるように思う。それはそれで尊いことではあるけれど、外の世界を知って、立場は違えど同じ志を持つ仲間を見つけられれば、別の居場所が生まれて、本来の業務自体がもっと充実したものになるのではないかと思う。
自分の働きたい働き方ができるところを選び取る
5年前の私が一番モヤモヤしていたのは自分のキャリアの面だったが、日々の仕事で一番ストレスを感じていたのが、働き方だった。当時、海外と頻繁にやり取りをする仕事をしていたので、週に1回程度は在宅でテレワークをしたり、深夜や早朝に海外との電話会議をすることが頻繁にあった。しかし当時の会社は出社を前提とする働き方だったので、業務時間の管理が厳しく、かなりマイクロな報告のために時間を使うことを余儀なくされていた。「働きたいのに働けない」「意味のない時間管理をさせられている」と感じることは私にとってはストレスが大きく、もっと個人の裁量で働く時間や場所を決められる環境に行きたいと思っていた。
今なら、働く環境は自分で選び取れることができるものなのだと、確信を持って言える。自分が快適だと思う働き方を認めている企業を見つけ、それに見合うだけの実力を身につければ、手に入れられるものだと。
幸いにも、多くの企業でリモートワークが進み、働き方の選択肢は格段に増えている。私自身は2021年2月現在はほぼリモートワークで働く状態だが、オフィスに行って同僚と雑談をしたり、一緒にランチする時間はかけがえのないものとして、とても大切に思っている。リモートワークが常に正解だとは思わないし、対面でなければいけないとも思わない。大事なのは、今日はどういう働き方をするのか、を自分自身が選択できるという環境に身を置くことだ。その選択肢のない企業は、私にとって魅力的ではないし、同じように思う人も増えてきているのではないかと思う。
仕事は奉仕ではなく、自分を満たすもの
先日のat Will Workさんの働き方を考えるカンファレンス2021「働くのこれから 」で私が視聴させもらったセッション「これからの5年間の働き方はどう変化していくのか」の中で、奥田 浩美さん(株式会社ウィズグループ 代表取締役)がこんなことをおっしゃっていたことが、とても印象深く心に残った。(発言の細部は違ってるかも)
「私にとってはまず、自分が満たされるのが最初なんですよ。自分がどういう状態なら満たされるのかを理解して、満たされた上で、差し出す。そして差し出したものを、自分のお金にして溜め込むんじゃなくて、世の中に循環させるのが大事なんです」
5年前の私にとって、仕事は間違いなく「自分を差し出すもの(奉仕)」だった。数年前まで、ちょっとそう思っていた。自分が必要とされる場所や役割があって、それを提供できるのであれば、喜んで提供します、誰かのお役に立てるなら。そう思って、時には自分の心の声を無視して差し出してきたけれど、だんだんそう思わなくなった。
今の私は自分がやりたいこと、好きなことに繋がるもの以外に出来るだけリソースを割かなくて済むようにしている。コミュニティ・マネージャーとしての仕事は、もちろん会社の業務ではあるが、前提として、自分が自社のプロダクトを大好きで、他のユーザーと好きな気持ちを分かち合いたい、というところが根幹にある。そして、同じ思いを持っている他の人を支援して、助けることが、さらに自分を満たしてくれると思っている。自分を満たして、それを他の人にもおすそ分けして、一緒に満たされよう。そんな風に思って仕事をしているし、同じように思っている人と一緒に仕事をしていけたらいいなと思っている。そして、自分が満たされて他の人に渡せる部分を、躊躇なく差し出せるようになりたいと思う。
「コミュニティ」的な働き方
前述のカンファレンスのセッション「これからの5年間の働き方はどう変化していくのか」のもう一人のスピーカー、尾原 和啓さん(執筆業 IT批評家)がこんなことを言われていた。(これもまた、細部は違う表現だった気がする)
これからの時代の働き方は、「アンスケジュールド(unscheduled)」。あらかじめ決められたスケジュールできっちりと予定を組んでやっていくのではなく、ジャズのセッションのように、プロジェクトや仕事の都度、集えるメンバーでパッと集まって、協同して作っていく。
「アンスケジュールド(unscheduled)」という概念が、日々の仕事を進める中で100%機能するかどうかはなんとも言えないところだが、ジャズのセッションのような仕事の仕方、というのはとても面白いと思う。
私自身、社外の色々な人と、色々なプロジェクトをその都度組んで協同していくという動き方をすることが多くなった。例えば自社のコミュニティのイベントを企画したり、個人で主催しているコミュニティで特定のテーマを切り口に議論をする時など、目的は都度違うし、必ずしもビジネス上の目的でない場合も多い。あの人とこの人に声をかけて、こういうの企画してみよう。そんな感じでいろんな物事が並行して、どんどん進んでいく。それが終わったら、一旦解散する。
かつて「オープン・イノベーション」という言葉が流行った頃、大企業で夢想する「オープン・イノベーション」は絵に描いた餅でしかなかった。今そこかしこで起きているいろんなコラボレーションが「オープン・イノベーション」と言えるほど立派なものであるかどうかは分からないけれど、組織の枠に囚われず、色々な人とその都度コラボレーションをしながら、一緒に物事を作り上げていく、という働き方が当たり前にできるようになっている。そして、同じ思いを持った人同士で集まって一つのことを成し遂げるのは、とてもワクワクすることだ。これってとても「コミュニティ」的な働き方なんじゃないかと思う。同じ思いや志向を持った人同士が、一つの共通項を軸に集まり、場を形成していくように、プロジェクトや特定の業務を、「やりたい」「必要だ」と思う人がさっと手を挙げて集まって、完成するまで協働する。こんな「コミュニティ・ドリブンな働き方」、実は最先端の働き方なんじゃないだろうか。
働く場所や時間が違っても、仲間になることができる
私が現在働いている外資系企業に入社して、一番に感じたのがこの点だ。私は現在、立場としては日本法人に所属しているが、実際にはグローバルのコミュニティチームのメンバーとして、アメリカやイギリス、アイルランドにいるメンバーと一緒に仕事をしている。もちろんお客様は日本のお客様だし、日本の他の社員との連携も多く発生するが、所属意識は「グローバルのコミュニティチーム」にある。
コロナ下での転職だったため、採用面接は全てオンライン。入社後の研修や、日々の打ち合わせ、社内キックオフイベントその他、全てがオンライン。なので私はまだ自分の上司にもグローバルのチームメンバーにも一度も直接会ったことがないし、本社にも行ったことがない。
さらに、英語圏の人たちなので、会話は当然全て英語。ネイティブでも帰国子女でもなく、海外在住経験のない純ドメな私にとっては、普通であればめちゃめちゃコミュニケーションが難しい状況。にも関わらず、今までのどんなチームにも負けないくらい、同じチームにいることを感じ、温かい繋がりを感じられている。
私はこれまで10数年の間、さまざまな企業・組織を見てきたが、組織の階層構造の中で、さまざまな偏りやねじれが発生するのは、もはや避けられないことなのだと思っていた。アメリカ本社と日本、ヨーロッパなど、物理的に遠く離れ、言語も文化も違う環境にいる人同士であっても、そして一度も直接会ったことがなくても、対等なチームメンバーとしてつながりを感じ、仲間になれるんだということを私は今回の会社に入って初めて実感できた。理由は、会社の組織とカルチャーが素晴らしいことに尽きる。カルチャーを保ために、一人一人が努力と強い意思を持って物事に当たっているということも痛感している。グローバルにフラットな組織だと自信を持って言える会社に出会えたのはとても幸運なことだと思うし、今後もずっとこうであってほしいと思う。
5年後の働き方
それでは、これからの5年間で働き方はどんな風に変わっていくのか。5年間で元号がかわり、コロナウイルスという誰もが想定していなかった原因によって、世界の形がすっかり変わったこの5年を思うと、5年後の未来はとんでもなく遠いかもしれない。
なんとなく感じるのは、世界の分断は残念ながらどんどん加速していて、どの世界に属しているかで見える世界が完全に変わってしまっているということだ。どの世界を選ぶかは自分にかかっている。選ばなかった世界は、視野に入ってくることが少なくなるので、努力して自分から見に行かないと、目に入ってこない。自分が考えたものが良くも悪くも現実になり、自分が望んだものが(むしろ、それだけが)手に入るようになっているということだ。だから、予測ではなく、自分が選び取りたい働き方を、5年後の働き方として想定すればいいと思う。
今の私が未来に期待するのは、今の「コミュニティ的な働き方」がより加速して、正社員として所属している会社が一社でなくなったら面白いな、ということだ。所属している組織の枠がこれまで以上に緩やかになっていき、正社員としての価値が今ほど高くなくなっていくのではないかと思う。必ずしもフリーランスとか、独立起業という道を選ばなくても、自然と複数の会社に所属したり、複数の居場所(コミュニティ)を行き来しつつ、その都度志を同じくする世界中の仲間とコラボレーションしながら、何かを一緒に作り上げていく。そんな世界が5年後に来ると考えると、とてもワクワクする。
さて、5年後の私は、今の私に向けてどんな言葉をかけるのだろう?とても楽しみだ。そして、もし今モヤモヤを抱えて行き先を失っているあなたがそこにいるとしたら、私の言葉が少しだけ届いたら、とても嬉しい。