90年代の「ローライズ」を振り返る。/平成デニム回顧録【01】
最近の90年代リバイバルのせいか、「メンズのジーンズをそのまま着ちゃいました」みたいな、ゆるいハイウエストのデニムが最近流行中です。
それを見てるとつい思い出すのが「股上がめちゃくちゃ浅いローライズデニムの流行」のこと。
ブームのピークは1998~2000年頃。HIROMIXや蜷川実花の撮る「女子写真」やソフィア・コッポラの映画が注目され「ガールズカルチャー/ガーリーカルチャー」ムーブメントが勃発。
原宿の街は、ソフィアが立ち上げた『MILKFED.』のチビTシャツに『X-GIRL』のスキニーパンツを穿いた女の子であふれかえるように。
引用元:写真新世紀(1995グランプリ ©HIROMIX)https://global.canon/ja/newcosmos/gallery/grandprix/1995-hiromix/index.html
そもそも「女子写真」なんて言葉が出たのも(今では信じられないけど)当時は写真を撮るのは男の人、っていうイメージが一般的に定着していたからで、そういう「女子だってカッコいい」みたいな空気が、可愛いのにどこかクールなファッションになって表面化したのかも。
で、ローライズの話なんですが。そういう「どこかクールな」部分の象徴のひとつが、少年のような浅い股上のパンツだったわけで、いろんなブランドが「限界に挑戦!」とばかり、めちゃくちゃ股上の浅いパンツを作ってました。
まあだいたい、ジャストウエストで履くジーンズの股上は27cm前後が一般的。ローライズブーム以前は、私が働いてたジーンズブランドも「少し股上を浅めにしたいので24cmくらいかな?」ってな感覚だったんですけど、当時主流になったのは18cm。もうおへそ全開、デリケートゾーンが隠れるギリギリの長さです。
私がいた会社は自社工場を持っていたんですが、ローライズジーンズ用に入荷するフロントジッパー、そもそもそんなに短いサイズは存在すらなし。縫製のおばちゃんたちが「面倒くさい!」とブツブツ言いながら、大量のジッパーを短くカットして(後にローライズ用の短いジッパーが誕生)。
そもそも固いデニム生地をしっかり止めるためにジッパーがあるわけで、それが短くなる=強度が足りなくなる。にも関わらず、骨盤パツパツで穿くローライズは負荷がすごくかかるものだから、「履いてたらジッパーがはじけ飛んだ!」みたいな事件も(よそのメーカーのデニムですが)あった記憶。
腰で穿くパンツだけに「私、骨盤が張ってるんだよね」みたいな(今思うと大分ピンポイントな)悩みがもっとメジャーでした。
余談ですが、表参道の道沿いにある低い手すりみたいなのにみんな腰掛けてると思うんですが、ローライズ流行時は「座っている女の子のお尻の割れ目が見える!」と男子が騒然。用もないのにウロウロとお尻を鑑賞する輩まで現れる始末。
ワンクリックであらゆるエグイ画像が見られる今と違い、その頃はスマホすら普及しておらず(ちなみにiPhone誕生は2007年です)。エロいものは紙の雑誌で見るのがまだまだ当たり前のなか、道ばたで女の子のお尻が見られるのはものすごいことだったはず(今ではすっかり割れ目くらいでは動じなくなっちゃいましたが……)。
下着メーカーもあわててローライズ用の股上が浅いショーツを発売しますが、それまでは今の「冷え取りブーム」なんて何のその、みんなへそやら、パンツやら、ハミ肉やら出しながら、堂々と街を闊歩。SNSもないから、腹筋なんてなくても気にしない。
ガーリーカルチャーは「ガーリー」とか「カワイイ」っていうより、女子を強くしたのかも。