分断されるアメリカAI界の頂上決戦
トランプが大統領選を制し、MAGA陣営の強力なサポーターであったイーロン・マスクの入閣入りが確定しました。トランプ氏は、政府の無駄な支出を検証・削減する新たな組織「政府効率化委員会」のトップにマスク氏を据える事を明言しています。新体制でのAI業界の動きをエピソードを追いながら考察していきます。
次期トランプ政権下でのマスク氏入閣の経緯
マスク氏は前回のトランプ政権の時代にテスラ倒産の危機に見舞われ、補助金がなければ彼は無価値であり、自分がいかにトランプの大ファンで共和党員であるかを訴えたそうです。トランプとの蜜月はその時から続いています。トランプ氏は「私は『ひざまずいて懇願しなさい』と言うこともできたし、彼はそうしただろう。」と語っていたと、イーロン・マスク自身が下記のポッドキャストで回想しています。
民主党政権下で凍結されていたトランプ氏のTwitterアカウントはマスク氏のTwitter買収と共に解かれ、水を得た魚のようにトランプ氏はXに内包しているGrokというAI機能を使いこの選挙戦中マスク氏と共に、ディープフェイク画像をたれ流して選挙活動をしました。エグいMAGA陣営によるフェイク画像は下記にまとめていますので合わせてご覧ください。
トランプ氏が暗殺未遂にあったペニシルバニア州でのマスク氏の応援演説、襲撃された写真を貼り付けたサイバートラックでMAGAのキャラバンの先頭に立つなどマスク氏は多大なるトランプのサポートを務めました。
嘗て民主党支持者でオバマ氏バイデン氏に投票したマスク氏
下記の記事にもわかるように全方向に喧嘩を売るマスク氏は嘗てトランプ氏とも犬猿の仲でした。
トランプ政権に向けたビッグテックの動き
カリフォルニア州に集中しているテック業界は全て民主党支持とされていますが、軒並みトランプ次期大統領に祝辞を述べています。
ただ、下記のようにOpenAIのCEOと社長がトランプ次期大統領に対する祝辞を述べることに対して強く反対するポストも見られました。
早速選挙中の操作にGoogleを起訴したマスク氏
2024年11月、イーロン・マスク氏がGoogleを告発し、同社の検索エンジンが特定の候補者に有利な情報を提供していると主張しました。具体的には、ユーザーが「トランプに投票できる場所」を尋ねた際、投票所の情報が表示されない一方で、「ハリスに投票したい」と検索すると最寄りの投票所が表示されると指摘しています。
Googleはこの問題を認識し、バグとして修正を行ったと報じられています。
ついにマスク氏、打倒宿敵サム・アルトマンに動くか!?
サム・アルトマンは常にマスク氏をリスペクトしているにもかかわらず、かれはマスク氏から2度も訴訟をおこされ、周囲からは「歴史的なライバル関係」と見られているのが興味深いです。訴訟の内容は下記のNoteで詳しく解説していますので合わせてご覧ください。
イーロン・マスクの訴訟は、「創立当初非営利団体として始まったOpenAIをMicrosoftと組んで営利団体にしてしまった罪」というほとんど難癖に近い訴訟を起こしたため、一度は訴訟を引っ込め、数ヶ月後に新たな訴訟をおこしています。
サムは終わりだ、「私が政府だ」by イーロン
下記のようなポストが投稿されました。Beff – e/accは、「@sama is cooked(サムは終わりだ)」の言うポストにリポストで下記のようにコメントしています。
この「The 'Open' AI Dilemma」の画像は、まさにサム・アルトマンとイーロン・マスクの対立を象徴しています。イーロン派がこれを「IT'S HAPPENING」とコメントすることで、まるでサムがイーロン・マスクに追い詰められているような印象を与えようとしていますね。
サンスランシスコ新市長、サム・アルトマンに市政参入打診
公共の安全などに対する不満の波に乗ったサンフランシスコの新市長Daniel Lurie氏は、大きな変化を起こすために長年の住民であるサム・アルトマンにテクノロジーの力を求めている。このポストが添付している、サンフランシスコ新市長の言葉は以下の通り。
カリフォルニア州知事は戦う準備ができている
また、カリフォルニア州知事は、新しいアメリカのキリスト教右派によるポピュリズム政権に対して断固戦う姿勢をXへのポストで表明しました。
さて、元来民主党支持者であったサム・アルトマンをはじめとするAIの巨頭たちは今のところ、トランプ新大統領への祝福を表明して親和的なスタンスではありますが、今後どのような動きをみせるでしょうか?
アンソロピックとパランティアが国防省に採用
方や、ChatGPTの対抗馬Claude3.5を持つ、アンソロピック社はAWSの国防省への起用に伴い、パランティア(注01)と共に国防省の基盤のAIとして採用されています。
アンソロピックの国防省入りについては、民主党寄りのテック業界ではすでに激しい反発があります。
※注01:パランティア(Palantir Technologies)は、アメリカに本社を置くソフトウェア企業で、主にビッグデータ解析と情報管理に特化した製品を提供しているよ。創業は2003年で、CIAや政府機関、軍事組織、警察、そして民間企業にもデータ分析サービスを提供している。元々はピーター・ティールなどが共同で設立した企業で、名前はピーター・ティールが愛してやまない『ロード・オブ・ザ・リング』の魔法の水晶玉「パランティーア」に由来しています。
パランティアの主要な製品:
Palantir Gotham(ゴッサム)
主に政府機関や軍事向けのデータ分析プラットフォームで、複雑なデータセットを一つにまとめ、犯罪捜査やテロ対策に利用される。例えば、複数のデータソースから得られた情報を関連付け、パターンを見つけ出すことで、テロや犯罪の予測、捜査を支援する。Palantir Foundry(ファウンドリー)
民間企業向けのデータ管理・分析プラットフォーム。企業内の膨大なデータを統合し、データ分析やビジネスインテリジェンス(BI)を支援する。製造業や医療、金融など幅広い業界で、効率化や最適化のために利用されている。Palantir Apollo(アポロ)
クラウドやオンプレミスのインフラで、GothamやFoundryを自動的に更新・管理するためのソフトウェア。これにより、各地で導入されているパランティアの製品が最新の状態で稼働し続ける。
パランティアの特徴と議論: パランティアは、特にセキュリティや監視分野に強い影響力を持つ一方で、プライバシーや個人情報保護に関する議論も多い企業だ。政府や軍事機関との契約が多く、ビッグデータ解析を通じて大量の情報を可視化・分析するため、監視社会への懸念が常に付きまとっている。
マスク氏はピーター・ティールのペイパルマフィアの一員
パランティアの創業者、ピーター・ティールはこの大統領選でマスク氏と共にトランプ氏を支持しました。彼は、PeyPaLを創業して巨大な富を築き、テック界に多大な影響を持つ存在です。
ピーター・ティールは、「政府の過剰な規制を排除してビジネスや技術革新を促進する」という考え方を持っており、トランプが再選で、パランティアのような企業は政府契約の増加や、監視・セキュリティ分野での需要の増加を期待できます。ティールのようなビジネスリーダーが政治に影響力を持つことで、テクノロジー業界の方向性がガラリと変わる可能性があります。すでにアンソロピックが寝返った形ですね。
※注02:「ペイパルマフィア(PayPal Mafia)」とは、オンライン決済サービスのPayPalの創業者や初期の従業員たちが、後にシリコンバレーで数多くの成功企業を立ち上げたことから生まれた呼称です。彼らはPayPalでの経験と人脈を活かし、テクノロジー業界に多大な影響を与えました。
主なメンバーとその業績:
ピーター・ティール(Peter Thiel):PayPalの共同創業者であり、Facebookの初期投資家としても知られています。その後、データ解析企業のPalantir Technologiesを設立しました。
イーロン・マスク(Elon Musk):X.com(現Twitterではありません。)を設立し、後にPayPalと合併しました。その後、電気自動車メーカーのTeslaや宇宙開発企業のSpaceXを創業し、技術革新を牽引しています。
リード・ホフマン(Reid Hoffman):PayPalの元COOであり、ビジネス特化型SNSのLinkedInを設立しました。また、ベンチャーキャピタルのGreylock Partnersのパートナーとしても活躍しています。
チャド・ハーリー(Chad Hurley):PayPalの元デザイナーであり、動画共有サイトYouTubeの共同創業者としても知られています。
ジェレミー・ストップルマン(Jeremy Stoppelman):PayPalの元副社長であり、口コミサイトYelpを設立しました。
これらのメンバーは、PayPalで培った技術力やビジネスノウハウ、人脈を活かし、各分野で革新的な企業を次々と立ち上げました。そのため、「ペイパルマフィア」はシリコンバレーの成功モデルとして語られることが多いです。
彼らの成功の背景には、優秀な人材の採用や大きなビジョンの追求、柔軟な企業文化の育成など、PayPal時代の企業文化が大きく影響しています。
このように、ペイパルマフィアのメンバーたちは、テクノロジー業界において多大な影響を与え続けています。
サム・アルトマンとピーター・ティールの思想の違い
ピーター・ティールは、保守的かつ自由主義的な考え方を強く持っていて、政府の規制を嫌い、国家主導の強い立場を取るタイプ。さらに、彼はエリート主義的な思想を持ち、競争の中で勝者が独占的な地位を築くことを良しとするところがあります。一方で、アルトマンは社会への影響や倫理を重視し、AI開発においても「慎重なアプローチ」や「社会への配慮」を求めています。
例えば、アルトマンがOpenAIの設立当初から「AIの公益性」や「公平なアクセス」を強調してきたのに対し、ティールの投資スタイルは、独占的な競争優位性や収益性を重視する傾向があります。アルトマンがAIを「人類全体のためのツール」として推進するのに対して、ティールは特定の利益集団や戦略的優位性を考慮した立場を取るため、二人の考え方には明確な違いがあります。
トランプ政権誕生でイーロン・マスクとペイパルマフィアがますます巨大な力となる中、サム・アルトマンとOpenAIはどのように民主的な独自性を保ち続けていけるかがこれからの4年の焦点となるでしょう。カリフォルニア州はトランプ政権と戦う用意ができており、サンフランシスコ市長はサム・アルトマンに市政への参画を打診しているなか、友好的にとは言えない状況になってくると思います。
今後の動きに目が離せないので、随時シリコンバレーのAI地政学を追って行こうと思っています。