OpenAIのビジネス化が引き起こす内部分裂と未来:事実と解説
「OpenAIを本物のビジネスに変えることはそれを破壊することだ」という衝撃的なワシントンポストの記事が投稿されましたので、それではこのワシントンポストの記事の要約に続き、内容の解説と事実を検証をしていきたいと思います。
まずは要約から。
OpenAIを本物のビジネスに変える事はそれを破壊することだ
OpenAIの成長とその内部分裂
わずか2年の間に、OpenAIは非営利の研究機関から世界的なビジネスへと急成長し、CEOサム・アルトマンはAI革命の象徴的な存在となった。しかし、この急速な変化がOpenAIの内部分裂を引き起こしている。
著名な幹部の退職と内部の混乱
最近、CTOミラ・ムラティが退職を発表したが、これは一連の退職の一環であり、今年に入ってから20人以上の研究者や幹部が辞職している。特に、利益追求型のビジネスへのシフトと、創業当初のAI研究を通じた公共の利益への貢献というミッションとの間に対立があるとされる。
サム・アルトマンの役割とOpenAIの変貌
アルトマンはグローバルに飛び回り、資金調達やAIの未来に向けたチップやデータセンターの計画を進めているが、一部の社員は、日常業務から彼が距離を置いていると感じている。これに対し、会社側はその主張を否定している。
商業化と研究のバランス
OpenAIは、利益を追求するビジネスへとシフトし、770人の従業員から現在1,700人にまで増加。初のCFOやCPOを任命し、軍事や企業の経験を持つメンバーが取締役会に加わった。これにより、製品開発が研究よりも優先されるようになったとの声が上がっている。
収益化へのシフトがもたらす影響
AI開発には莫大なコストがかかるため、企業としての成長は不可欠だとする声もある一方で、AI研究者たちは、利益を追求する文化がOpenAIの本来の目的を損なっていると懸念している。研究とビジネスの両立は難しく、成長の痛みを感じている段階だというのが共通の認識だ。
アルトマンの見解と資金調達の進展
イタリアのTech Weekでの対談で、CEOのサム・アルトマンは、社員の退職が会社の再編計画に関連していることを否定し、オープンAIの未来について楽観的な見方を示した。また、同社のCFOから投資家に宛てた書簡では、来週までに資金調達が完了する見込みであることが伝えられ、プロダクトや研究チームのリーダーとの面会が予定されている。
売上の成長と競争の激化
OpenAIはChatGPTや他の製品の改善に焦点を当てており、その結果として年間収益が40億ドルに達し、昨年の同時期と比べて3倍に増加している。しかし、依然として数十億ドルの赤字を抱えている状況だ。技術的優位性を維持することが成長の鍵となっており、次の基盤モデルであるGPT-5の開発は遅れが出ている。一方で、AnthropicやElon MuskのxAIなどのライバル企業がOpenAIに匹敵するモデルを展開しており、競争が激化している。
競争による研究者のフラストレーション
かつてOpenAIがAI分野のリーダーとして認識されていたため、そこで働くことに魅力を感じていた研究者たちが、競争の激化に不満を感じている。OpenAIの広報担当者は、会社の成長と適応の必要性を認めつつも、アルトマンが会社戦略や採用、製品開発に積極的に関与していることを強調した。
一瞬の騒動とその余波
昨年11月、サム・アルトマンが一時的に解雇された「ブリップ(小さな騒動)」は、数日で解決したものの、その影響は今も残っている。その兆候の一つとして、OpenAIの共同創設者であり、尊敬されていた研究者のイリヤ・サツケヴァーの不在が挙げられる。サツケヴァーはアルトマンの解雇を告げた後に謝罪したが、オフィスには戻らず、5月に退職した。
サツケヴァーの復帰を求める試み
サツケヴァーの退職後、安全チームの共同リーダーであったヤン・ライケも退職し、さらに多くの退職が続くことをOpenAIは懸念した。ミラ・ムラティやグレッグ・ブロックマンは、会社が混乱し、彼の不在が大きな影響を与えると考え、サツケヴァーに復帰を求めて彼の家を訪問し、社員からの手紙やカードを渡した。
アルトマンとサツケヴァーの再会
アルトマンもサツケヴァーを訪れ、他のOpenAIメンバーが解決策を見つけられなかったことを後悔していると伝えた。サツケヴァーは一時復帰を検討していたが、後にグレッグ・ブロックマンから復帰オファーが取り下げられたと連絡を受けた。内部ではサツケヴァーの新しい役割や、彼の後任の主任研究者との協働方法が定まらず、混乱していたという。
サツケヴァーの新会社「Safe Superintelligence」
サツケヴァーはその後、製品のリリースに気を取られることなく最先端のAI開発に専念する新会社「Safe Superintelligence」を立ち上げ、10億ドルの資金を調達した。彼は退職について公にコメントしていないが、安全文化が軽視されたことが大きな問題だったと指摘する元同僚もいる。
GPT-4oの急速な展開と安全テストの問題
春に、OpenAI内部でGPT-4oという新しいAIモデルの開発を巡る緊張が高まった。研究者たちは本来予定されていたよりも包括的な安全テストを求められたが、その時間はわずか9日しか与えられなかった。Googleの開発者会議に先んじてモデルを発表したいという経営陣の意向があった。
安全スタッフは連日20時間働き、作業をダブルチェックする余裕がなかった。初期の結果ではモデルは「十分安全」とされたが、その後の分析で、GPT-4oはユーザーの信念を変えたり、危険な行動を促したりする能力が予想以上に高いことが判明した。
安全テストの問題と社内の不満
一部の社員は、もっと時間をかけて安全テストを行えばこの問題を事前に回避できたのではないかと不満を抱いていた。広報担当者はこのリスクの指標は誤って高く表示されたものであり、GPT-4oは会社の基準に基づいて安全に展開されたと述べた。しかし、製品のリリースを急ぐパターンは他の技術リーダーにも影響を与え、CTOのミラ・ムラティも製品のローンチを何度も遅らせることになった。
ジョン・シュルマンの退職と失望
共同創設者であるジョン・シュルマンは、OpenAI内部の対立に対するフラストレーション、サツケバーの復帰に失敗したことへの失望、そして当初の使命が薄れつつあることへの懸念を抱いていた。彼は8月にAnthropicへ移籍した。
グレッグ・ブロックマンの休職と管理スタイル
共同創設者であり長年OpenAIに貢献してきたグレッグ・ブロックマンは、今年に入りサバティカル(長期休暇)を取ることになった。
ブロックマンはオープンな環境で自由にプロジェクトに関与するスタイルを好み、特定の部下を持たず、興味のあるプロジェクトに自由に参加することが多かった。しかし、彼のこのアプローチは、他の社員にとっては計画やプロセスが急に変更される原因となり、特に重要なプロジェクトで最後の瞬間に方針転換を求められることがあった。このため、しばしば緊張が生じ、CTOのミラ・ムラティを含む他の幹部が調整に奔走する事態が続いていた。
こうした状況を受けて、社員からは彼の行動がチームの士気を低下させているとの指摘があり、アルトマンとの協議の末、ブロックマンは休職することに合意した。
幹部の大量退職と会社の未来
ブロックマンの休職に加え、CTOのミラ・ムラティ、主任研究員、研究部門の副社長も同日に辞職したことで、会社のリーダーシップ層が大幅に削られた。アルトマンは、数十億ドル規模の資金調達を完了させ、非営利から営利企業への転換を進める必要がある。投資家たちは、この転換が2年以内に完了しなければ資金を引き上げる権利を持っている。
士気低下と会社の課題
OpenAIは幾つもの公然たる危機や課題に直面しており、社員の士気を維持することが課題となっている。技術チームの一部の社員は、「今日は、OpenAIに残るという難しい決断をした」と皮肉混じりにXで投稿している。
ワシントンポストの記事を受けた社員の反応
上記の記事に対して補足説明的な解説を2回ポストしたのはOpenAI o1の開発者の一人、ノアム・ブラウンです。まず、三人が離職した26日に投稿したポストがこちらです。
彼は、新しいリーダー、マーク・チェンが三人の離職にたいしてのコメントを引用して上記の感想を述べました。本日になり念を押すように再度コメントしています。
OpenAI共同創設者ヴォイチェフ・ザレンバの見解
また、OpenAI設立メンバーでもあるヴォイチェフ・ザレンバはこの三人の離職について独特の言い回しをしています。
「彼らの死は、8 人の子供のうち 6 人が早死にするという中世の両親の苦難を思い起こさせました。両親は大きな喪失感にもかかわらず、それを受け入れ、生き残った 2 人に深い喜びと満足感を見出さなければなりませんでした。」これについては、後ほど解説します。
8 人の子供のうち 6 人が早死にするという中世の両親の苦難
※注01:Wojciech Zarembaのコメントは、ポーランドの文化的背景や言語的な表現に影響を受けています。ポーランドのユーモアは、しばしば「ポストアイロニー」と呼ばれるような皮肉や風刺を含むことが多いんのです。特に、過去の苦しい歴史や宗教的背景が強く影響しており、逆境や困難を淡々と受け入れるようなスピリチュアルなトーンを持って語られることがよくあります。
Zarembaの発言は、子供の死という重いテーマに対して、現代人が失ったかもしれない耐える力や「残されたものを大切にする」という精神を表現しているように見えます。それを「6人の子供が亡くなったが、残った2人に深い喜びを見つける」という具体的なイメージで語るのは、ポーランド的なスピリチュアルなモノトーンとも言えるし、同時にポストアイロニーのような表現にもでもあります。
ChatGPT によって人生が変わった GPU
※注02:ヴォイチェフ・ザレンバは、ChatGPT によって人生が変わった物について真っ先に GPUを上げていますが、その部分に突っ込まれたリポストにベイエリアでしかできないウィットにとんだ会話が続いています。
なを、ミラ・ムラティがOpenAIを離れる事になった経緯は下記のNoteに詳しく解説していますので合わせてご覧ください。