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AGIは来ては消える、それでも社会は変わらない:サム・アルトマンの洞察

動画「Sam Altman: What Startups Will be Steamrolled by OpenAI & Where is Opportunity | E1223」は、ここで語られた内容は、2024年10月1日にサンフランシスコで開催された『OpenAI SF Dev Day』でのセッションをまとめたものです。進行は20VC(注01)のハリー・ステビングズです。サム・アルトマン氏へのインタヴューでAGI(汎用人工知能)の進展と社会への影響について語っていますので深掘りしていきます。

※注01:20VC(The Twenty Minute VC)は、ハリー・ステビングズ(Harry Stebbings)がホストを務める人気のポッドキャストシリーズで、ベンチャーキャピタリストやスタートアップの創業者をゲストに迎えて、投資や起業に関する話を20分で掘り下げるものです。

ハリー・ステビングズは、スタートアップやテック業界で有名な人物で、投資家や起業家に短いインタビューをすることで、視聴者がベンチャーキャピタルの世界を簡単に理解できるようにしています。

なお、2024年10月1日にサンフランシスコで開催された「OpenAI Dev Day」については下記のNoteに詳しい内容を解説していますので合わせてご覧ください。


OpenAI Dev Day in サンフランシスコ・イントロ

僕たちは全力で頑張って、モデルをどんどん改善し続けると信じている。もし君たちが、今のモデルにある小さな欠点を埋めるビジネスを作っているなら、僕たちがうまくやれば将来的にはその欠点が重要でなくなると思う。僕たちのモデルの改善ペースはかなり急速だから、今ある課題も次世代のモデルで解決されるはずだ。だから、そうした進化に合わせられるよう準備してほしい。

ハリー:みなさん、こんにちは!OpenAI Dev Dayへようこそ。20VCのハリー・ステビングズです。今日はサム・アルトマンにインタビューする機会をいただいて、本当にワクワクしています。サム、今日はお話しできてうれしいです。ありがとうございます。

サム:こちらこそ、呼んでくれてありがとう。

ハリー:さて、視聴者からたくさんの質問が来ているので、最初に1つ取り上げたいと思います。OpenAIの未来を考えると、これからのモデルはA1のような小規模なものが主流になるのか、それともこれまでのように大規模なモデルを期待すべきなのか、どう考えればいいでしょう?

サム:OpenAIとしては、全体的なモデルの性能向上を目指しているけれど、特に重視しているのは“推論モデル”だと思っている。推論能力が解決を待っていた多くの課題を一気に解放してくれると期待しているんだ。たとえば、新しい科学の発見をサポートしたり、複雑なコードを書く助けになったりする。これが大きく進展を生むと信じているよ。Oシリーズのモデルの急速な改良を期待してほしいし、それは僕たちにとって戦略的に非常に重要なことだ。

ノーコードツールでの開発について

ハリー:次に取り上げたいのは、今後のOpenAIの計画についてだ。ノーコードツールを開発して、非技術系の創業者がAIアプリを作ってスケールできるようにする構想についてはどう考えている?
サム:間違いなく実現に向かっているよ。ただ、まず最初のステップは、プログラミングができる人をもっと生産的にするツールを提供することだと思う。でも、最終的には質の高いノーコードツールも提供できると信じている。すでに意味のあるものはあるけれど、「完全なスタートアップをノーコードで作りたい」と言える段階にはまだ至っていない。それにはもう少し時間がかかるね。

ハリー:OpenAIが今、技術のどの層にいるかを考えると、OpenAIは特定のポジションにいるわけだけど、どこまで上に行くつもりなんだろう?
サム:面白い質問だね。でも、もし君が長い時間をかけてRAGシステム(Retrieval-Augmented Generation)をチューニングしているなら、それが無駄になるのか、それともOpenAIがそのアプリケーション層の一部を支配するつもりなのか、どう思う?
僕たちが創業者に伝えたい一般的なメッセージとしては、僕たちはモデルをどんどん良くしていくために全力を尽くすし、それに成功すると思っている。だから、もし君が今のモデルの小さな欠点を補うビジネスを作っているなら、僕たちがきちんと改善していけば、その欠点は将来的にあまり重要でなくなるんだ。でも逆に、モデルがどんどん良くなることでメリットがあるビジネスを作るなら、それは賢明な判断になる。

もし、ある“予言者”が今後登場する04モデルが本当に素晴らしく、今は不可能に思えることがすべてできるようになると保証してくれて、それを聞いて君が喜ぶなら、僕たちの考えは正しいかもしれない。だけど、もし「この特定の分野では01のプレビューがうまく動作しないから、そこを埋めて事業にするんだ」と言うのなら、それは次のモデルが思ったほど進化しないという仮定をしていることになる。その点を理解してほしい。

OpenAIへの投資はOpenAIの参画領域を見極める必要あり

ハリー:君が言った通り、特定の分野ではOpenAIが圧倒的な影響力を持つ可能性がある。だから、起業家は「どの領域にOpenAIが参入してくるのか、どの領域はそうならないのか」を考えて戦略を立てるべきだと思う。そして投資家も、「どこに投資すればリスクを避けられるのか」をしっかり見極める必要があるよね。どうやってその答えを見つけるかがポイントだね。

サム:AIを活用して、これまで不可能だった、あるいは現実的でなかった製品やサービスを作ることで、新たな市場価値が何兆ドルも生まれるだろう。僕たちが注力する分野は、「モデルをとにかく素晴らしくして、思い通りに動かすのに苦労しないようにすること」だ。でも、その技術をベースにして素晴らしい製品やサービスを作り上げる部分は、さらに良くなっていくと考えている。

初期の頃、特にGPT-3.5の時代には、ほとんどのスタートアップが「モデルはそんなに進化しないだろう」と考えていた。95%くらいの人が、モデルの進化を疑っていたんだ。そのため、僕たちはもうすぐ登場するGPT-4を見て、「この進化を知らないままモデルの欠点を補うツールを作っても、すぐに価値がなくなるぞ」って思っていた。実際、数年前のモデルは今から考えると本当にひどい出来だった。

だから、その時は「この穴を埋めるためだけにツールを作るよりも、素晴らしいAI家庭教師やAI医療アドバイザーなどを提供する方がずっといいのに」と考えていたんだ。でも、今は逆転していて、ようやく人々がモデルの改良スピードを理解し、僕たちの意図も受け入れてくれるようになった。昔は、多くの努力家たちがどうなるかを心配していたけど、今ではそれが大きな問題ではなくなってきたよね。

孫正義の「毎年9兆ドルの価値が生まれる」発言は本当か?!

ハリー:マサ(孫正義)がステージで「毎年9兆ドルの価値が生まれる」と言ったのを見て、どう思ったという質問についてはどう思う?

サム:僕は、これを何桁のオーダーかでざっくり考えるだけでも、今は十分だと思うよ。確かに巨額の資本支出が必要だし、同様に膨大な価値も生まれる。それはこれまでの他のメガ技術革命と同じで、これも明らかにその一つなんだ。

来年は、僕たちが次世代システムへの大きなプッシュを進める年になると思う。さっき言ったノーコードのソフトウェアエージェントがいつ完成するかはわからないけど、それを例にして将来を想像してみてほしい。誰でも自分が欲しい会社全体のソフトウェアを簡単に説明できて、それが実現できる時代を考えてみて。もちろんまだまだ先の話だけど、そういう未来が来た時には今と比べてどれだけ簡単になり、コストも劇的に下がるのか想像してみてほしい。それは本当に強力なことだよ。

他にもたくさんの例が出てくると思う。例えば、僕が前に話した医療や教育の分野は、どちらも世界にとって数兆ドル規模の価値がある分野だ。もしAIがこれまでとは違う形で実現できたら、それは本当に素晴らしいことになるだろう。大きな数の議論は重要ではなくて、「9兆ドルなのか1兆ドルなのか」といったことは、もっと賢い人たちが考えることだと思う。でも、価値創造がとてつもない規模であることは間違いない。

エージェントの定義はどう考える?

ハリー:さて、エージェントという言葉についてはいろいろと混乱があるんだけど、エージェントの定義はどう考えている?人々がエージェントについて誤解している点は何だと思う?

サム:僕たちの誰も、まだこの概念に直感的な理解を持っていないと思うんだ。みんなが何か重要そうなものを指し示しているけど、まだはっきりしない感じ。例えば、AIエージェントが代理で行動するという話になると、よく出てくる例は「レストランの予約をしてくれる」といったものだよね。オープンテーブルを使ったり、直接レストランに電話したりするという、ちょっと面倒な作業を代行してくれるって話。

だけど、もっと面白いのは、人間ではできないことをエージェントがやってくれる未来なんじゃないかな。例えば、1軒のレストランに電話する代わりに、300軒に同時に連絡して、どこが自分にぴったりの料理を提供できるか調べてくれるとか。人間が300軒に電話するのは大変だけど、エージェント同士が対応するなら問題ないし、大量の作業を並行して処理できるんだよ。

ただ、普通に話題になるのはその程度だけど、僕がもっと興味を持っているのは「非常に賢い上司や同僚」のようなエージェントだね。一緒にプロジェクトを進めて、数日間や数週間かかるタスクをうまくこなしてくれて、質問がある時だけ連絡してくるような感じ。最終的には素晴らしい成果物を持ってきてくれるんだ。

この考え方がSaaSの価格設定を根本的に変えると思う?
サム:そうだね、これからは労働力を置き換えるようなイメージになるかもしれない。例えば、「1GPU、10GPU、100GPUを常に自分の問題解決に使いたい」と言えるような世界を想像してみて。席数やエージェントごとの料金ではなく、使っている計算資源の量に基づいた価格設定になるかもしれないね。

エージェント向けの特別なモデルを作る必要があると思う?
サム:大量のインフラと構造物を構築する必要があるのは確かだけど、01モデルは優れたエージェントタスクを実行できる道筋を示していると感じているよ。

モデルのコモディティ化が進んだら投資額の回収ができるのか?

サム:トレーニングにかかったコストほど価値がないというのは完全に間違っていると思う。さらに、モデルをトレーニングするたびに学んで次のモデルをより良くするという積み重ねの効果もある。

モデルから得られる収益は、投資を正当化するのに十分だと思っているよ。ただ、公平に言えば、これは誰にでも当てはまるわけじゃない。同じようなモデルをトレーニングしている人が多すぎるかもしれないし、ちょっと遅れている場合や、ビジネスの基本ルールに従ってその製品を価値あるものにする仕組みがない場合は、投資のリターンを得るのは難しくなるかもしれない。

僕たちは幸運なことに、ChatGPTがあって、何億もの人がモデルを使ってくれているから、コストがかかったとしても多くのユーザーにそのコストを分散できているんだ。(注02)
※注02:非営利の時代には、研究開発のために莫大な投資が行われていたけれど、それが今の営利モデルに完全に還元されているかどうかには疑問を持つ人もいます。それに加えて、AIモデルの開発や運用は引き続き高額なコストがかかるから、投資家や関係者がその費用対効果をどう見ているかも重要な視点です。

マルチモーダルモデルはo1とどのように連携していく?

サム:モデルの差別化をさらに進めるために、今は“推論能力”に最も力を入れている。これが次の大きな価値の飛躍を引き起こす鍵になると考えているからだ。もちろん、いろいろな方法でモデルを改良していくつもりだし、マルチモーダル機能も取り入れていく。人々が求める新機能をモデルに組み込むことがとても重要だと思っているよ。

ハリー:推論能力とマルチモーダルの分野ではどんな課題があると思う?また、どういう成果を目指しているのか教えてほしい。
サム:マルチモーダル推論は、うまくいってほしいと願っている部分だね。もちろん、達成するためには多くの努力が必要だけど、人間の赤ちゃんや幼児が言葉をまだ上手く扱えない時期でも、複雑な視覚的な推論ができるのを考えれば、それが実現可能であることは明らかだと思う。

ハリー:視覚能力のスケールは、新しいo1モデルの推論パラダイムとどのように連携していくと思う?
サム:ネタバレにならない範囲で言うと、画像ベースのモデルは急速に進化していくと期待しているよ。

“コア推論”のブレイクスルーをどうやって達成したか?

ハリー:強化学習に進むべきか、それともトランスフォーマー以外の新しい技術を取り入れるべきか、という質問にはどのように答える?

サム:僕たちの方法は“特製ソース”みたいなもので、簡単に言えば「うまくいくものを真似するのは簡単」なんだ。でも、なぜ真似が簡単かというと、「これが可能だ」という確信があるからだ。研究者が何かを成し遂げた後、たとえ具体的な方法がわからなくても、再現するのは可能なんだ。実際、GPT-4やo1モデルのコピーが現れているのを見ればわかると思う。

本当に難しいのは、新しくて未検証のことに挑戦し、それを実現する能力だ。多くの組織はこういうことをできると自慢するけど、実際にできるところは少ない。これはAI研究に限らず、あらゆる分野で言えることだね。僕はこれが人類の進歩にとって最も重要な要素の一つだと思っている。

引退後に書いてみたいと考えていることの一つが、「どうやってそんな組織や文化を築くか」という本だよ。誰かがすでにやったことをただ真似する組織ではなく、何か新しいことを生み出す組織の作り方についてね。これは世界がもっと持つべき能力だと思うけど、人間の才能が限られているから難しいんだ。でも、多くの才能が無駄にされている現実もある。だから、もっとそういう組織が増えてほしい。

ハリー:才能がどのように無駄にされているの?
サム:世界には本当に才能のある人がたくさんいるけど、その人たちが十分に活かされていないんだ。例えば、悪い会社で働いているとか、良い企業が存在しない国に住んでいるとか、いろんな理由がある。AIには、この状況を改善し、人々が最大の潜在能力を発揮できるようにする可能性があるからワクワクしているよ。今はその理想にはまだ程遠いけどね。少し違う道を進んでいたら、素晴らしいAI研究者になっていたかもしれない人もたくさんいるはずなんだ。

2年での10倍の成長を遂げるのにどれだけの努力が必要だったか

サム:この数年間は、本当に信じられないほどの急成長を経験してきたんだ。引退したら本を書きたいって話をしたけど、ここ10年間で自分のリーダーシップがどう変わったか振り返ると一番大きな変化は“物事が変わるスピード”だと思う。普通の会社なら、ゼロから1億ドル、1億から10億ドル、そして10億から100億ドルの売上に成長するまで、もっと時間をかけて進むものなんだ。でも、僕たちはそれをたった2年でやらなければならなかったんだ。

僕たちは最初、研究はしていたけど、シリコンバレーの典型的なスタートアップのような意味での“会社”ではなかった。たくさんの顧客にサービスを提供する企業としての基盤がなかったんだ。それをすごく短期間で整える必要があって、学ぶ時間が足りなかったと感じるよ。

ハリー:何をもっと学ぶ時間が欲しかった?
サム:例えば、すぐに思い浮かんだことの一つが「次の10%の成長ではなく、次の10倍の成長を目指すためにどれだけの努力が必要か」ということだ。次の10%を成長させるには、これまでうまくいったことを続ければいいけど、10倍の成長を目指すには、全く違うアプローチが必要なんだ。会社が急速に成長する中で、基礎的なことを学ぶ時間すらない環境で、次の大きなステップに進む準備をするのは本当に大変だった。

さらに、それを実現するための内部コミュニケーションも大きな課題だった。情報の共有方法や、もっと複雑なことを考えるための仕組みを作るにはどうすればいいかを学ぶ必要があったんだ。計画の面でも、今すぐにやらなければならないことと、1年後や2年後に必要になる長期的な準備をどうバランスさせるかも考えなければならなかった。

たぶん、これに対するプレイブック(戦略の手引き)はなかったのかもしれない。もし誰かが秘密のプレイブックを持っていたとしても僕には教えてくれなかったね(笑)。だから、僕たちはみんな、試行錯誤しながらこの状況を乗り切ってきたんだ。即興で学ぶことが本当に多かった。

「若い人だけ雇う」「経験者だけ雇う」という戦略は正しくない

ハリー:ピーター・ティールが「30歳未満の若い人を雇うことが素晴らしい会社を作る秘訣だ」と教えたって話は興味深いけど、「若い30歳未満の人材を採用することが正しい戦略か」という質問にどう答える?

サム:若くてエネルギッシュで野心に満ちた人を雇うのはいいけど、経験が少ない。一方で、経験豊富でこれまでに何度も成功したことがある人材もいる。どちらも成功する可能性はあると思う。実際、さっきもSlackで「最近採用した若い人が信じられないくらい素晴らしい仕事をしている」とメッセージを送っていたところなんだ。20代前半だと思うけど、本当に驚くほど優秀で、もっとこういう人を見つけたいと思っているよ。若い人たちは新しい視点やエネルギーを持っていて、素晴らしい貢献をしてくれることもある。

でも、一方で、人類史上最も複雑で高価なコンピューターシステムを設計するようなプロジェクトになると、経験がない人に任せるのはリスクが高すぎる。だから、若い人も経験豊富な人もどちらも必要なんだ。どの年齢層の人も高い基準で採用するのが理想的だと思っている。

「若い人だけ雇う」「年上の人だけ雇う」という戦略は正しくないと思うし、僕にはあまり共感できない。でも、共感できる部分もある。それは、Yコンビネーターで学んだことなんだけど、「経験がない=価値がない」というわけではないということ。キャリアの初期段階にいるにもかかわらず、非常に大きな価値を生み出すポテンシャルを持った人はたくさんいるんだ。だから、社会全体でそういう人に賭けるのは素晴らしいことだと思っているよ。

Anthropicのモデルはコーディングにおいて素晴らしい

ハリー:じゃあ少しスケジュールに戻って、Anthropicのモデルについて話そう。彼らのモデルはコーディングにおいて優れていると評されることがあるけど、その評価は妥当だと思う?開発者がOpenAIと他のプロバイダーをどう選ぶべきかについてどう考えている?

サム:確かにAnthropicのモデルはコーディングにおいて素晴らしいパフォーマンスを発揮していて感心するよ。ただ、開発者たちは多くの場合、複数のモデルを併用しているんだ。これから、よりAGI(汎用人工知能)の時代に進む中で、どう進化していくのかはわからないけど、AIがどこにでも存在するようになると思うんだ。

今、AIを“モデル”と呼んでいるけど、何かしっくりこないと感じている。もしかすると将来的には“モデル”じゃなくて“システム”として語られるようになるかもしれない。でも、それが浸透するにはまだ時間がかかりそうだね。

サム・アルトマンは自分が神の側に立てるよう祈る

ハリー:モデルをスケーリングすることについて、スケーリング則が今後どれだけ続くと思う?よく「もう長くは続かない」と言われいる割には思ったよりも長く続いているけど、その進化が今後も続くのかどうか、どう考えている?

サム:モデルの能力がこれまでのように改善され続けるかという問いに対して、僕は「はい、しばらくの間は続く」と思っているよ。

ハリー:疑ったことはある?
サム:もちろんあるよ。理解できない挙動が出たり、トレーニングが失敗したり、さまざまな問題があったんだ。スケーリングの限界に近づいた時には、新しいアプローチを見つけ出さないといけないこともあった。

ハリー:一番難しかった局面は?
サム:GPT-4に取り組み始めた時にいくつか深刻な問題が発生して、どう解決するか本当に悩んだ時期があったんだ。でも、最終的には解決できたよ。それから、o1モデルへのシフトと推論モデルのアイデアも長い研究の道のりがあって、ここにたどり着くまでにはいろいろな試行錯誤があった。

ハリー:長い道のりで士気を保つのは大変じゃない?どうやってモチベーションを維持しているの?
サム:AGIを作りたいと本気で思っている人たちが多いから、それがすごく強いモチベーションになっているんだ。みんな、簡単にまっすぐ成功にたどり着けるとは思っていないし、それが当たり前だと思っている。歴史上の有名な言葉に「神が自分の味方をしてくれるよう祈るのではなく、自分が神の側に立てるよう祈る」(注03)といったものがあるけど、ディープラーニングに賭けることは、それに近い感覚なんだ。大きな障害にぶつかっても、最後にはうまくいくと信じる気持ちが僕たちを支えている。
※注03:彼が歴史上の有名な言葉を引用しているのは、"Sir, my concern is not whether God is on our side; my greatest concern is to be on God's side, for God is always right." ~ Abraham Lincoln エイブラハム・リンカーンの「閣下、私が心配しているのは、神が私たちの味方であるかどうかではありません。私の最大の関心事は、神の味方であることです。なぜなら、神は常に正しいからです。」という言葉です。

大変なのは毎日新しい「51対49の選択」がいくつか出てくること

ハリー:決断をしないまま残っていることが、心に重くのしかかるのはどんな時ですか?

サム:毎日違うんだよね。特に「これだ!」という一つの大きな決断があるわけじゃない。でも、確かに重要なものはある。たとえば、次にどのプロダクトに賭けるべきかとか、次のコンピュータをどう設計するかとか、そういったものはすごく大きな決断だし、一度決めたら後戻りできない感じがある。僕も他の人と同じように、そういう決断を後回しにしてしまいがちなんだ。でも、実際に大変なのは、毎日新しい「51対49の選択」がいくつか出てくることなんだよ。

そういう選択は、もともと「ほぼ同じくらいの確率でどちらも良いか悪いか」が難しくて僕のところに回ってくるんだけど、自分が他の人より特別に良い判断ができるとは思っていないんだ。それでも、決断をしなきゃいけないことが多い。その数の多さが一番大変なんだよね。

ハリー:誰かに頼る時、どんな人を選ぶ?
サム:特定の一人に頼るのは良くないと思っている。僕にとって正しい方法は、15人から20人くらいの人を頼れる人として持っておくことなんだ。それぞれが特定の分野で優れた直感や文脈を持っていると信じている人たちに、必要に応じて助言を求めるようにしている。だから、「全てのことに一人に頼る」というのは避けているんだ。

1番の心配事は僕たち全体がやろうとしていることの「複雑さ」

ハリー:今日の半導体の供給チェーンや国際的な緊張について、どれくらい心配していますか?

サム:心配かと聞かれたら、もちろん心配だよ。でも、どれくらい心配かを正確に測るのは難しいね。ざっくり言うと、最も大きな心配事ではないけどトップ10%の中には入るくらいかな。

ハリー:一番の心配事は何ですか?
サム:ああ、もうここまで来たら隠し事をしても仕方ないよね(笑)。一番の心配事は、僕たち全体がやろうとしていることの「複雑さ」なんだ。全体的にはうまくいくと信じているけど、ものすごく複雑なシステムに思えるんだ。しかも、それはフラクタルのようにどのレベルでも当てはまる感じで、OpenAIの内部でも、各チームの中でも同じことが言える。

具体例を挙げると、ちょうど話していた半導体についてだけど、電力供給の確保、適切なネットワーキングの決定、チップのタイムリーな入手など、さまざまな要素のバランスを取らないといけない。さらに、リサーチがそのタイミングに合うように準備されていないと、必要な時に準備ができていなかったり、せっかくのシステムをうまく活用できなかったりすることもある。

そういうすべてをうまく連携させて、システムのコストを回収できる製品を作らなきゃいけない。だから、「供給チェーン」という言葉では単なるパイプラインのように聞こえてしまうけど、実際はもっと複雑なエコシステムなんだ。今までどの業界でも見たことがないような複雑さがあるね。それが多分、僕の最大の心配事だと思う。

AI革命はどの技術革新の波とも違う

ハリー:この技術革新の波をインターネットバブルと比較する人が多いけど、今回は人々が使っているお金の額が全然違うと言われているよね。ラリー・エリソンは、基盤モデルのレースに参入するのに1000億ドルが必要だと発言したけど、それについてどう思う?賛成する?

サム:いや、それはちょっと高すぎると思うよ。もっと少ない額で済むと思う。でも、ここに面白いポイントがあるんだ。新しい技術革命を語る時に、みんな過去の例を使って理解しようとするけど、これは基本的に良くない習慣だと思っている。それでも、その理由はわかるんだけどね。

さらに言うと、AIに使われるアナロジーは特に悪い例が多い。インターネットはAIとは明らかに違うもので、たしかにインターネット革命の特徴の一つは「簡単に始められること」だったよね。AIの場合はコストについて、「10億ドルか100億ドルか」という話があるけど、インターネットの時代とは全然違う。

ただし、インターネットの側面に近い部分もあるんだ。多くの企業にとって、AIはインターネットの延長線上にある感じだと思う。誰かがAIモデルを作って、それを使って新しい技術を構築するわけだからね。でも、もし自分自身でAIそのものを作ろうとしているなら、それは全く違う話になる。

他に挙げられる例としては、電気があるけど、これも多くの理由でうまく当てはまらないと思う。僕が気に入っているのはトランジスタの例だね。これもまた、物理学の新しい発見によって生まれたものだし、素晴らしいスケーリングの特性があった。トランジスタはすぐに普及して、ムーアの法則のようなものが登場した。AIに関しても、同じように「どれくらいのスピードで進化するか」を示す法則を想像できるかもしれない。

テクノロジー業界全体がトランジスタの恩恵を受けたし、現代の多くの製品やサービスにもトランジスタが関わっているけど、それを“トランジスタ企業”と呼んだりはしないよね。非常に複雑で高価な産業プロセスと巨大なサプライチェーンがあって、物理学のシンプルな発見が経済全体を長い間支えてきたわけだ。でも、普段はそんなことを意識しないで使っているものばかりだよね。

Quick-Fire Round質疑応答

ハリー:短い質問をするので、即答でお願いしますね。
サム:OK、やってみよう。

Q1. 今23~24歳で、今のインフラを使って何かを作るとしたら、何を作る?
サム:AIを活用した特定の分野に特化したプロダクトだね。例えば、最高のAI家庭教師を作りたい。あらゆるカテゴリーの学習をサポートするものを想像しているよ。それはAI弁護士でもいいし、AI CADエンジニアでも同じような感じ。

Q2. 本を書くとしたら、タイトルは何にする?
サム:タイトルはまだ考えていないけど、人間の潜在能力を引き出すことに関する本になると思う。何か人類の可能性を解放するようなものかな。

Q3. AIの分野で誰も注目していないけど、みんながもっと注目すべきことは?
サム:いろんな解決方法があるけど、自分の人生全体を理解してくれるAIだね。無限の文脈を持つ必要はないけど、自分のデータをすべて把握して、完全に理解してくれるようなAIエージェントを作ることに注目してほしい。

Q4. 最近1ヶ月で驚いたことは?
サム:ある研究の成果なんだけど、詳しくは話せない。でも本当に素晴らしい結果だったよ。

Q5. どの競合相手を最も尊敬している?理由は?
サム:今この分野にいるすべての人たちを尊敬している。フィールド全体が本当に才能ある人たちの集まりで、みんな素晴らしい仕事をしているんだ。ちょっと逃げた答えに聞こえるかもしれないけど、実際そうなんだよ。

Q6. お気に入りのOpenAI APIは?
サム:新しいリアルタイムAPIが素晴らしいと思う。でも、API事業は大きくなっているから、良いものがたくさんあるよ。

Q7. 今日最も尊敬しているAIの人は?
サム:Cursorチーム(注04)に感謝の意を示したいね。AIを使って本当に魔法のような体験を生み出し、人々がうまく結びつけられなかった要素をしっかり組み合わせているのがすごいと思う。OpenAI社製のサービスやチームをあえて挙げなかったのは、リストが長くなっちゃうため。

※注04:Cursorは、Visual Studio CodeをベースにしたAI支援型エディターです。VS Codeの使いやすさに加えて、AIによるコード補完やエラーチェックなど、コーディング作業を効率化する機能が備わっています。AIがプログラミングをサポートし、開発スピードを向上させることができるため、特に生産性を重視する開発者におすすめです。下記からインストールできます。

Q8. レイテンシと精度のトレードオフについてはどう考える?
サム:その二つのバランスを調整できるダイヤルが必要だと思う。今のように即答が求められる場面では、レイテンシを優先するけど、もし「物理学の新しい発見をして」と言われたら、数年待つことも受け入れるかもね。それはユーザーがコントロールできるべきだと思う。

Q9. リーダーとしての不安や改善したい点は?
サム:今週特に悩んでいるのは、プロダクト戦略の詳細について、これまで以上に不確実さを感じていることだね。プロダクトは僕の弱点かもしれない。

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Zun-Beho
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