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DeepSeekはChatGPTを“蒸留”したのか? AIコピー疑惑の行方

昨日書いたNoteで説明した通り、DeepSeekは「蒸留」という手法を用いることで、大規模なリソースを必要とせず、少ないGPUで元のAIと同等のベンチマークスコアを持つモデルを実現しました。DeepSeekの開発秘話については下記のNoteをご覧ください。

しかし、昨日までのDeepSeek賞賛ムードは一変し、その「蒸留元」となったAIに関する以下のニュースのような懸念が浮上していますので、この懸念材料について解説していきたいと思います。


DeepSeekがでChatGPT o1クラスのAIを開発できた訳

DeepSeekはNVIDIAのGPU、H100を5万と200名の人員で開発されたと言われており、なぜそんな少ないリソースでChatGPT o1クラスのAIが実現できたのかを説明していきたいと思います。

AIによる蒸留とは

AIの蒸留とは、元の大規模なAIモデル(親モデル)の知識を、より小型のモデル(子モデル)に移し替える技術を指します。この手法では、親モデルが生成する膨大なアウトプットを観察し、そのパターンを学習することで、子モデルは親モデルと同等の性能や知識を持つことが可能になります。

具体的には、親モデルに質問やタスクを与え、その回答や出力をデータセットとして子モデルに学習させます。このプロセスは、人間の教育に例えると、教師が生徒に知識を伝えるようなものです。教師(親モデル)の知識を効率的に吸収した生徒(子モデル)は、元の教師のように複雑なタスクをこなせるようになります。

DeepSeekがこの蒸留技術を活用した結果、より少ないリソースで高性能なモデルを構築できたと考えられます。

Grok生成画像、Top画像も同じ

開発者がどうやって蒸留したから、下記のポストにわかりやすく図解されています。

なぜ蒸留は効果的なのか

蒸留が効果的である理由は、以下の点にあります。

  1. 計算リソースの削減
    親モデルは大規模な計算資源を必要としますが、蒸留された子モデルは、親モデルの知識を効率的に学ぶことで、同じような結果をより少ないリソースで生成できます。これにより、運用コストが大幅に削減されます。

  2. 汎用性の向上
    子モデルは、親モデルのアウトプットを通じて学ぶため、特定のタスクに適応しやすくなります。さらに、小型化されたモデルは、モバイルデバイスやエッジデバイスなど、リソースが限られた環境でも活用可能です。

  3. 開発スピードの加速
    蒸留により、すでに高性能な親モデルをベースにした学習が行えるため、ゼロからモデルを構築するよりも短期間で高性能なAIを実現できます。

DeepSeekが蒸留で成功した理由

DeepSeekが蒸留を通じてChatGPT o1クラスのAIを開発できた背景には、以下の要因があると考えられます。

  1. 大規模なトレーニングデータの確保
    ChatGPTのようなAIは膨大なデータで訓練されていますが、DeepSeekはこのようなモデルから生成されたアウトプットを効果的に利用することで、独自のデータセットを構築した可能性があります。

  2. 高度なアルゴリズムの採用
    蒸留に用いるアルゴリズムの精度が高ければ高いほど、親モデルの知識を効果的に子モデルへ移行できます。DeepSeekは最先端の技術を採用したと推測されます。

  3. 効率的なリソース管理
    GPUの効率的な利用や、開発チームの専門性の高さが、少ないリソースでも高い成果を上げる要因になったと考えられます。

Grok生成画像

蒸留技術への懸念と未来

蒸留技術には多くの利点がありますが、同時に倫理的・法的な課題も浮上しています。他社のAIモデルを蒸留する行為が知的財産権を侵害する可能性があるため、この技術の使用には慎重なアプローチが求められます。

一方で、蒸留技術はAI分野の進化を加速させる重要な役割を果たしています。今後は、蒸留技術を適切に管理しつつ、その利点を最大限に活用する方法を模索することが求められるでしょう。

AI技術の透明性と知的財産のバランス

AIの発展において、オープンソース化と知的財産の保護のバランスは重要な議題となっています。

下記のポストは、「OpenAI がデータを盗んだのは間違いないが、他の誰かが彼らから盗んだとしたら、それは悪いことなのか?! この時点ですべてをオープンソース化すべきだ。」と問うています。

上記の懸念点に対して解説していくと:

  1. データの取得とモデルの開発手法の違い
    「OpenAIもデータを盗んだのでは?」という意見に対しては、AIの開発におけるデータ収集はインターネット上の公開情報を活用するケースが多い。これは法律の範囲内で行われているのに対し、DeepSeekが疑われている「蒸留」は、特定のAIモデルのパフォーマンスや知識をそのまま模倣する行為であり、より直接的な知的財産の問題を含んでいる。

  2. オープンソース化のジレンマ
    OpenAIが技術をオープンソースにすれば、イノベーションが加速する可能性はあるが、競争力の低下や悪用のリスクも高まる。一方で、オープンソース化しなくても蒸留によるコピーリスクは依然として存在しており、適切な知財保護と技術管理が求められる。

  3. 知財保護と技術革新の両立
    AI技術の透明性を確保しつつ、企業が適切な競争力を維持するためには、蒸留技術の悪用防止や、法的枠組みの整備が重要になる。今後のAI業界では、このバランスをどのように取るかが大きな課題となるだろう。

蒸留の倫理的課題と今後の展望

蒸留とは、ゼロから研究・開発するのではなく、既存のAIの知識や性能を圧縮し、小型モデルへと移植する技術です。技術的には効率的ですが、倫理的・ビジネス的にはグレーゾーンとなることが多いのも事実です。

仮にDeepSeekがChatGPT o1を「蒸留」したとすると、それはOpenAIの開発者たちが長年積み重ねてきた知識の成果を、そのまま活用したことになります。これは、職人が丹精込めて作り上げたものを、別の誰かがその形をなぞってコピーしたようなものに近く、元の職人の許可がなければフェアとは言えないでしょう。

一方で、蒸留は単なるデータの模倣ではなく、AIの学習手法のひとつとして長年活用されてきた技術でもあります。そのため、法的に完全に違法とは言い切れない面もあります。しかし、もしOpenAIがAzureの膨大な計算資源と開発者の努力を結集して作り上げたChatGPTの知識が、そのまま蒸留によって流用されるのであれば、開発者の努力をどのように守るべきかという議論は避けて通れません。

OpenAIとしては、今後このような「無許可の蒸留」への対策を講じる必要があるでしょう。また、業界全体としても「AIの知的財産をどのように取り扱うべきか」というルール作りを進めていく必要があります。

Grok生成画像

蒸留モデルは親モデルを引き継ぐ

下記のような興味深いポストがありましたので、共有しておきます。


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