サム・アルトマンの未来の構築方法(Yコンビネータ・インタビュー)
サム・アルトマンがYコンビネータ時代の気の置けない友人ギャリー・タン氏(注01)と非常にリラックスしてかつこれまでになく饒舌に語っています。大変興味深い内容ですが、48分の動画の内容でかなり長いので、読みたいところだけ読んでください。
※注01:ギャリー・タン氏は、Yコンビネーター(YC)の現代表兼CEOであり、2011年から2015年までYCのパートナーを務めていました。 サム・アルトマン氏も同時期にYCの代表を務めていたため、二人はYCでの活動を通じて長年の知り合いであり、深い信頼関係を築いてきたと考えられます。そのため、インタビュー中のリラックスした雰囲気や親しい友人同士のような会話が見られます。
今こそテック企業を始める最高のタイミングか?
ギャリー・タン:
「今回のインタビューは、実は以前あなたがスタートしたシリーズ『How to Build the Future』の再起動版なんですよね。再びこのシリーズに戻ってきていただけて、ありがとうございます。」
サム・アルトマン:
「そうだね、まさにその通り。こうしてまたリブートしてもらえて嬉しいよ。」
ギャリー・タン:
「それでは、あなたの最新エッセイ『インテリジェンスの時代』について話しましょう。いまって、テクノロジー企業を立ち上げるには最高の時期だと思いますか?」
サム・アルトマン:
「少なくとも今までで一番いい時期だと言っていいと思う。未来にはもっと良い時期が来るといいんだけどね。これまでの大きなテクノロジー革命のたびに、できることが増えてきたんだ。だから、今後も企業がますます素晴らしくなって、影響力も増していくだろうと思うよ。現時点で言えば確かに最高のタイミングだね。大企業は、ゆっくりとした変化の時には優位に立てるけど、モバイル、インターネット、半導体革命みたいに急速な変化が起きた時や、昔の産業革命のような時代には新興企業のほうが有利だったりする。だから、今はかなりワクワクするタイミングなんだ。」
ギャリー・タン:
「エッセイの中で、あなたはすごく大きな発言をしている?それは、ASI(超知能)について、『あと数千日かもしれない』と述べている部分。」
サム・アルトマン:
「たぶん、だけどね。それが僕たちの希望であり、推測でもある。でも、確かに大胆な発言だとは思うよ。」
ギャリー・タン:
「その点についてもっと教えて!すごく大きな発言だから。」
サム・アルトマン:
「そうだね。僕たちが取り組んでいることが順調に進み続ければ、ここ数年で達成してきた進展が、今後も3年、6年、9年と続く可能性が見えてくる。仮に9年として、3500日くらいになるのかな?このペースで改善が続けられるか、あるいはもっと早く進められれば、そのシステムはかなり多くのことを実現できるようになると思う。すでにA1みたいなシステムでも、特定の閉じたタスクでは非常に高い認知能力を持っていて、とても賢いと言える。まだ進歩の限界には到底達していないと感じているよ。」
ギャリー・タン:
「そのアーキテクチャの変化が、多くの可能性を解放したってことかな?今後、進歩がどんどん加速する可能性がある?」
サム・アルトマン:
「そうだね、もちろん予期しない壁にぶつかる可能性もあるし、見落としている部分があるかもしれない。でも僕たちには、まだたくさんの進展の余地が残されていると感じているんだ。」
ギャリー・タン:
「このエッセイは、これまで見た中でも非常にテクノロジー楽観主義的な内容だね。気候問題の解決、宇宙コロニーの設立、物理学の全解明、無限に近い知性や豊富なエネルギーなど、希望に満ちた未来が語られているね。」
サム・アルトマン:
「そうだね、これらすべてのこと、さらには今のところ想像もつかないことが意外と近い将来に実現可能かもしれない。半ば真面目にこれを話せるようになったことが本当にわくわくするよ。
僕がYCで特に好きなのは、ちょっと無謀にも見えるほどのテクノ楽観主義を推奨してくれるところなんだ。『これは無理だ』とか『こういうことはできない』とか、世の中ってどこかでいつもそんな感じで人に伝えているけど、初期のPG(ポール・グレアム)の精神が示すように、『もっと大きく考えよう』って創業者たちを励ましてくれるYCは、特別な場所だと思うんだ。
ギャリー・タン:
「無尽蔵のエネルギーって、かなり大きなテーマだね。それが実現できたら知識労働だけでなく、実際の物理的な作業までロボティクスやAIで大きく変えられる可能性が広がる。いわゆる『豊かさの時代』への鍵だと思う。」
サム・アルトマン:
「その通りだよ。無限の知性と無限のエネルギー、この二つが僕たちの目指すあらゆる目標の基盤なんだと思う。もちろん他にも重要な要素はたくさんあるけど、もし本当に『無限の知性』と『無限のエネルギー』を得ることができたなら、もっと良いアイデアがどんどん浮かんで、それを物理世界で実現することも可能になる。
ギャリー・タン:
「例えば、AIを大量に稼働させるためにもエネルギーが必要だよね?」
サム・アルトマン:
だから、これが実現できたら本当に大きな変革が起こると思うんだ。そして、同時にこれが進んでいるのが自然なテクノロジーの進歩の結果なのか、それともただの幸運なのかはわからないけど、とてもエキサイティングな時代だし、今こそスタートアップを始めるのにぴったりのタイミングだね。」
ギャリー・タン:
「『豊かさの時代』の話だけど、もしロボットがほとんどの物理的な作業をこなせるようになれば、物質的な進歩が富裕層だけでなく、すべての人にとって実現可能になるよね? でも、もし無限のエネルギーが解放されなかった場合はどうなる?何か物理法則が阻んでいる可能性もある?」
サム・アルトマン:
「確かに、それも考えられるけど、ソーラー発電と蓄電の技術もかなり進んでいて、たとえ核融合(注02)のような大きなブレークスルーがなくても、ある程度はやっていけると思う。それでも、エネルギーのコストを下げてその豊かさを増やしていくことは、生活の質に直接影響を与えるし、最終的にはあらゆる物理の問題を解決するだろうね。だから、いつかは解決すると思うよ。これには値するはずだし、将来的には核融合ではなくダイソン球のような話が普通になってくるかもしれない。それもまたすごいことだよね。今の時点で僕たちが『豊か』だと感じるエネルギーも、僕たちのひ孫たちにとっては全然足りないって感じるかもしれないし、宇宙にはたくさんの物質がまだまだあるからね。」
※注02:サムが投資している核融合発電、ヘリオンエナジーは2024年の稼働を目指していたが大幅に遅れています。下記のNoteを合わせてご覧ください。
サムがYCに参加するまでの道のり
ギャリー・タン:
「ポール・グレアムが私たちを集めてくれたんだよね?彼がYCを創設した理由の一つでもあすけど、彼がサムのYC参加にまつわるエピソードを語ってくれるのが面白くて。あなたがスタンフォードの新入生だった頃の話で、『2005年の最初のYCバッチに参加する』と言ったら、ポールが『まだ新入生なんだから、来年にしてもいいんじゃないか』って勧めたと。でもサムは、『いや、僕はもう2年生だし、行くよ』って言ったとか(笑)。このエピソードで、サムがコミュニティの中でも並外れた存在であるっていう評価が広まったんだよ。」
サム・アルトマン:
「その話が歴史の中に埋もれてくれたら良いなって思うけど、今ではすっかり定着してしまってるね(笑)。僕の記憶だと、ただ面接の日程を調整しようとしていて、ポールが『来年にしてもいいんじゃないか』みたいに言ったから、僕がもっと丁寧な言い方で『いや、僕は2年生だし、今年行きますよ』って答えた感じかな。でもこういう話って少しずつ美化されるんだよね(笑)。
それと、謙遜するつもりはないけど、僕自身、別に『手ごわい人物』っていう自己イメージはないんだ。むしろ、僕はそんなことないと思ってる。でも、物事がどうしてこうでなきゃいけないのかが理解できないときがあって、だったら最初から自分のやり方でやってみようって感じで行動してきた部分はあるんだ。ちょっと変わってると感じることもあるけどね。それでもYCが素晴らしいのは、そういう『自分のやり方でやりたい』って思う変わった人たちが集まる場所だからなんだ。
自分の自己認識で一番共感できる部分は、『やりたいことはやってみる』っていう精神が強いことかな。意外とそれで上手くいくことも多いし、それって良いことだと思う。そしてYCで出会った人たちの中には、みんなそういう『やりたいことをやってみる』って信じている人たちがたくさんいて、それがYCを特別にしているんだ。」
ギャリー・タン:
「YCの特別さについて考えたとき、ずっとその点が心に残っているね。すごい人たちが『君ならできる』って信じてくれるのが、若い創業者には本当に特別でインスピレーションを与えてくれる。でももっと後で気付いたのは、同じ目標を持つ仲間の存在が、想像以上に大事だったってこと。だから、若い人に一番伝えたいアドバイスの一つは、『なるべく早い段階で、そういう仲間を見つけること』だね。僕も最初はあまり重視してなかったけど、周りに刺激を受ける仲間がいることはすごく貴重だったんだ。」
サム・アルトマン:
「確かに。僕たち二人ともスタンフォードに通っていたけど、僕は結局卒業せずに、もっと大きなリターンを追求することにしたんだ。スタンフォードも良いところだったけど、YCの創業者たちが集まる場には、それ以上の刺激があったよ。」
ギャリー・タン:
「そうだね、スタンフォードも素晴らしいけど、僕も当時は周りの人たちからもっと上を目指そうとか野心を抱こうと刺激を受けるような感覚はなかった。むしろ、誰がどの投資銀行でインターンするかっていう話題で競い合うくらいで…。その点で言えば、YCの雰囲気を体験してから、大学に戻るかどうかを悩むことなく決めらたよ。」
サム・アルトマン:
「確かに、カール・ユングの言葉に『世間があなたに「あなたは誰ですか?」と問うて、もしあなたがそれを知らなければ、世間が答えを教えてしまう』っていうものがあるんだけど、自分がどうありたいかを意識することと、周りにどんな人がいるかを早い段階で意識するのが本当に重要だと思うね。」
YCリサーチ創設の初期
ギャリー・タン:
「サムがパートナーの部屋に戻ってきて、いろんな業界の人たち、特にリーダー的な人たちと会ってきた話をよく聞いたよね。みんながAIについて話してて、実現がすぐそこに感じられる一方で、まだ遠い感じもあったけど。でも、それってもう10年前の話なんだよね。」
サム・アルトマン:
「僕が思っていた最高のリタイア後の仕事って、研究所を運営することだったんだよね。当時はまだAIに特化したものではなかったけど、YCリサーチの話を始めた頃は、いろんな分野に資金を提供するものにする予定だったんだ。AIが確実に成功するとか、重要な分野になるっていう確信があったわけじゃなくて、他にもいろんな失敗したプロジェクトも試してたんだ。
その頃、ゼロックスのパロアルト研究所やベル研究所の歴史についての本をいくつか読んでいて、シリコンバレーの中でも『良い研究所がまた必要なんじゃないか』っていう空気があったんだ。それをやるのがすごくクールだと思ってね。YCがやってることと似てるところがあって、頭のいい人たちに資金を割り当てることで、上手くいくこともあれば、いかないこともある。とにかく試してみたかったんだ。
ちょうど2014年後半から2015年、2016年の初めにかけてAIが小さなブームを迎えていて、『スーパーインテリジェンス』の本の議論とかも出てきてたし、DeepMindもいくつか印象的な成果を出していたけど、少し異なる方向性だったよね。僕はずっとAIオタクだったから、『これは何かやってみるのに最高のタイミングだな』って思ってさ。でもその時点で『ImageNet』がもう出てたかな?」(注03)
※注03:サムにとって「リタイア」とは、働かなくなることではなく、「本当にやりたいことをやれる状態になった」ことを意味しています。それまでのキャリアで積み上げた経験や人脈、資金を活用して、ようやく自分のビジョンを実現する自由を手に入れた状態が、彼にとっての「リタイア」です。
サムのような人にとっては、リタイアは終わりではなく、新たなスタートであり、むしろ生涯で一番大切な仕事に集中できる状態であり、本当にやりたいことに全エネルギーを注ぎ込める場所を手に入れたという意味ではサムにとってOpenAI設立は「最高のリタイア」と言えるでしょう。
日本でも広がっているFIREの考え方は、経済的に独立して早期退職し、その後はやりたいことに自由に取り組む生き方だけど、「リタイア後に本当にやりたかったことを始めた」っていう、サム独自のFIREとも言えるかもしれません。日本のFIREはお金を貯めてから「好きなことにシフトする」という側面が強いけど、サムのリタイアは、自分の持つ資源や知識を最大限活用して、さらに大きな目標に挑むための新しいスタートといえます。
ギャリー・タン:
「うん、もうしばらく前に出てたね。ホットドッグかどうかを判断できるくらいにはなってた(笑)。」
最初のOpenAIチームを結成
サム・アルトマン:
「Greg(Greg Brockman)が最初の頃からいて、振り返ると、まるで映画のモンタージュみたいだったよ。たとえば、バイオピックの序盤で、主人公が仲間を探して車で駆け巡るシーンがあるじゃない?みんな『お前にしかできない』って言われて、『やってやるよ』って感じで集まる。Ilyaもそんな感じでさ、彼のことをとても頭が良いと聞いていたから、動画を見てみたんだよ。彼は、いまでも驚くほど頭が良くて、まさに本物の天才でビジョナリーだけど、加えて、彼の存在感がものすごい。YouTubeで彼の動画を見たとき、『この人に会わなきゃ』と思って、メールを送ったんだけど、返信がなかったんだ。それで、彼がスピーカーとして出るカンファレンスに直接行って、ようやく話すことができた。それからしばらく話を続けて、仲良くなっていったんだ。
GregとはStripeの初期から少し知り合いで、AIに関する彼の考え方が気に入って、こう話したんだ。『君のAIに対する考え方が好きだ。ラボを始めたいと思っているんだ』って。」
ギャリー・タン:
「それで、AGI(汎用人工知能)を目指そうっていう話に?」
サム・アルトマン:
「そうなんだ。当時、AGIなんて言ったらクレイジーか、無責任だと思われるような時代だったから、それがかえって彼らの注目を引いたんだ。特に優秀な若者の関心をね。逆に言えば、そういった考えは、中途半端な年配者からは冷笑されるようなもので、『これは良い兆候だ』と思ったね。僕たちはまるで寄せ集めのグループみたいだったよ。僕がその中ではかなり年上で、当時30歳ぐらいだったから。『あの若者たちは無責任で、何もわかっていないくせに馬鹿げたことを言ってる』って見られたけど、だからこそ共感した人たちは『じゃあやってみよう』って一緒に賛同してくれたんだ。そうやって一人一人と会って、集まりながら、だんだんとチームが固まっていった。少しずつだけどね、9ヶ月くらいかかって、ようやく形になり始めたんだ。
その中でも印象的な思い出があって、2015年12月にOpenAIを発表したんだけど、IlyaがGoogleとの関係でちょっとした制約があって、実際の始動は2016年1月になってからだったんだ。1月3日ぐらい、みんなが休み明けに戻ってきて、Gregのアパートに集まったんだ。10人くらいだったかな?みんなで集まって、すごく達成感があった。でもその後で、『さあ、これから何をしようか?』ってなって(笑)。あの瞬間は本当にスタートアップの創業者が、資金調達を達成した後に『さあ、これからどうする?』って思い悩む瞬間に似ていたね。シャンパンを開けて祝うタイミングじゃなくて、『ここからが本当のスタートだ』っていう、まさに発射の号砲が鳴ったんだよ。でもその時、これからどれだけハードなレースが始まるのか、誰もわかってなかったんだ。
僕が本当に驚いたのは、特にIlyaをはじめとする初期メンバーが持っていた『大きなビジョン』だったよ。僕たちはいくつも迷走しながら、ようやく今の形にたどり着いたけど、最初から描いていた大きな方向性が実に的確だったんだ。Gregのアパートでホワイトボードかフリップチャートに描かれていたそのビジョンが、ずっと生き続けているんだよ。
初期のオフサイトでも同じ目標を掲げていたと思うけど、具体的には『大規模な教師なし学習を解明する』『強化学習(RL)を解決する』っていうのがあって、あともうひとつは『120人以上の規模にはしない』だったかな。3つ目は守れなかったけど(笑)。でも最初の2つに関しては方向性がしっかりと定まっていたよ。ディープラーニングも、そのフリップチャートに描かれていたんだよ。」
なぜスケーリングが異端視されたのか
ギャリー・タン:
「2つ目の大きな異端なアイデアは、スケーリングが可能だという発想だね。これは、当時は攻撃的だと思われるほど批判されていたね。立ち上げ当初、たくさんの批判があったのを覚えてるよ。」
サム・アルトマン:
「そうなんだ。当時、僕たちが信じていたのは『ディープラーニングは機能する』ということと、『スケールさせることでさらに良くなる』ということ。どちらも当時はかなり異端な考え方だったよね。でもその頃は、スケールがどう予測的に効果を出すのかまではわかっていなかったんだ。ただの直感だったんだけど、後になってその予測性を示すデータが得られた。とはいえ、ニューロンネットワークを大きくすれば性能が向上することは、すでにわかっていたんだ。そこは確信があったよ。」
ギャリー・タン:
「そうだね。その信念がまるで『宗教的なレベル』で信じられていたように見えました。当時、権威ある専門家たちが、ただ反対するだけじゃなくて、スケールを信じること自体が『悪い信念』だとか『言うべきではない』とまで言っていたのを覚えてるよ。」
サム・アルトマン:
「本当にそうなんだ。『AI冬の時代を再び引き起こすぞ』とか『これは間違っている』とか言われてた。でも、僕たちは結果を見ていて、『どんどん良くなってるじゃないか』としか思えなかったんだ。そしてスケーリングの結果を得たときは、今でも驚くような感覚だったよ。ある時点で、ただスケーリングのデータを見て、『これを続けていこう』と決めざるを得なかったんだ。
その時点で、何か『学習』に関して、理解しきれていなくても、非常に重要な現象が起きていると感じるようになったんだ。ポール・グレアム(PG)の表現で言うなら、『新しい元素を発見した』みたいな感じで、どうしてもそこを追求したかったんだよ。DeepMindなど他の組織に比べてリソースは少なかったからこそ、『彼らはたくさんのことを試すだろうけど、僕たちはこの一つのことに集中しよう』と決めたんだ。それがスタートアップとしては正しい判断だったと思う。」
ギャリー・タン:
「そういう集中力がスタートアップ成功の秘訣かな?」
サム・アルトマン:
「うん、わからないことはたくさんあるけど、『これがうまくいく』ってわかっていることに全力を注ごうと思ったんだ。他の人たちが色んなやり方で工夫しすぎていたとき、僕たちは目の前の課題を解決することに集中して、とにかくスケールアップを続けることにしたんだ。
スケーリングには見過ごされがちな側面があるけど、もしスケールによって良くなっているように見えるものがあれば、とことんスケールアップすべきだと思うんだ。よく『少ない方が良い』みたいな考え方があるけど、実際には『多い方が良い』ってこともある。僕たちはその『多い方が良い』を信じて、それを突き詰めようとしたんだ。
OpenAIのことについて、あまり知られていないことの一つは、設立当初から驚くほど優秀な研究者が集まっていたことなんだ。世界中で最も頭の良い人たちが集まっていて、その人たちが本気で追求したいと思うテーマに全力を注げる環境を提供できた。それが、OpenAIが特別だった理由の一つだと思う。
たとえば、コンピュータリソースの確保も一苦労で、当時の業界の年配の専門家たちからの批判の中には、『リソースを無駄にする』とか『これが原因でAI冬の時代がまた来る』みたいなものもあったんだ。資源を浪費するって言われたり、あるいは、リソースを使いすぎるのが倫理的に問題だとか、そんな風にも言われていた。
でも、僕たちは一つのベットに極端な信念を注ぐことに価値があると信じていた。多くの人は、リスクを分散して複数の賭けにかける方が賢明だと考えていたけど、僕たちはあえてそうせず、信じるものに集中したんだ。」
ギャリー・タン:
「そういう楽観主義は、成功しているYCスタートアップの多くにも共通する精神だね。信念を持って一つの賭けに集中することが、成功の鍵だったんだね。」
信念が持つ力
サム・アルトマン:
「もし何かをやろうとして周りから反対されても、自分にとって納得がいかないなら、それでもやるべきだと思うんだ。スタートアップの世界に触れることで、これを何度も目の当たりにしてきたことには本当に感謝しているよ。
YCに入る前は、『どこかに大人がいて、全ての答えを知っている』と本気で信じていたんだ。誰かが自分に反対するのは、彼らが正しい答えを知っているからだってね。でも今では、世の中にそんな『答えを持つ大人』なんていないってことがわかったんだ。(注04)誰もすべての答えを知っているわけではなく、結局は自分で素早く試してみて、自分の道を見つけるしかない。その考えに気づいたことが人生の大きなブレイクスルーだった。
ただし、単に『強い信念を持つ』ことと、『間違っているときに適応する』ことは別だ。僕たちは結果が示すことを素直に信じて、それに基づいて行動するようにしたんだ。確かに、高い信念を持って取り組んで失敗したことも多いけど、その度に間違いを受け入れて進むようにしてきた。データが出るまでは信念で突き進むことが大事だけど、データが出たら結果を受け入れて次のステップに進む必要があるんだ。」
※注04:サムもかつては瞑想指導者のジャック・コーンフィールド氏の元で瞑想したりしていました。2023年4月にサンフランシスコで開催された「Wisdom 2.0 2023」において、瞑想指導者のジャック・コーンフィールド氏と対談しています。
このセッションでは、マインドフルネスとAI、そして未来の生活について議論が交わされました。コーンフィールド氏は、サムと共に瞑想を行った経験について語っています。下記の動画はWIsdom2.0 Japanが字幕をつけていますのでわかりやすいです。
ギャリー・タン:
「確かに、信念があることで集中力が増すような感じだね。選択肢を絞らなければならない場面が来たとき、それが成功の可能性を高めるってことだね。」
サム・アルトマン:
「そうなんだ。でも、最初から何が起きるか全部わかっていたかのように話せたら良いんだけど、実際にはそうじゃない。僕たちのOpenAIの話は、言語モデルに関するアイデアが最初からあったわけじゃなく、色んなことを試して、科学的な理解を深めるのに役立つものを見つけていったプロセスだったんだ。
僕たちは、世界がどう動くかや製品の形がどうなるかについて、多くの仮説を持っていたけど、それらが間違っていたと気づいたことも多かった。正直言って、言語モデルがこれほどの重要な存在になるなんて全く予想していなかった。Alec Radfordがそうだったのかもしれないけど、少なくとも僕には全く見えていなかった。最初はロボットやエージェント、ビデオゲーム用のAIとかいろんなことに取り組んでいたんだ。数年後にGPT-3が出てきたけど、当時はそれが明確に見えていたわけじゃないんだ。
あるキーインサイトがあって、GPT-1の前の段階、いや、さらに前に、ポジティブやネガティブな感情を見分けることに関するインサイトがあった。確か、論文のタイトルが『教師なしの感情分析』みたいなもので、Alecが一人で進めたプロジェクトだったと思う。Alecは本当にすごい人で、Amazonのレビューの生成タスクで一つのニューロンが感情をポジティブかネガティブに切り替える現象を見つけたんだ。
他の研究者ならこれを大きく宣伝したかもしれないけど、Alecだったから、みんながその重要性に気づくまで少し時間がかかったんだ。その後、彼がGPT-1を作り、他の人がそれをスケールアップしてGPT-2に発展させた。この『何かすごいことが起こっている』という気づきが、GPTシリーズのスタート地点だったんだ。あのとき、教師なし学習はあまりうまくいっていなかったけど、彼がこの『ポジティブとネガティブを切り替えるニューロン』という興味深い性質に気づいたんだ。」
GPT-4の商業化
サム・アルトマン:
「ケーステキストのJake Hellerのことはすごく印象に残っているよ。彼はYC出身で、GPT-3、3.5、そして4にアクセスできたんだけど、特にGPT-4を使えるようになったときが彼にとって大きな転機だったみたいでね。GPT-3.5だとまだ誤情報(ハルシネーション)が多くて、法的な現場では使えないレベルだった。でもGPT-4になったら、プロンプトを小さく分けて使えば、彼の望む通りに機能するようになったんだ。それで大規模なテストケースを構築して、最終的にはその会社を6億5000万ドルで売却したんだ。彼はGPT-4を商業化した最初の人物の一人だと思っているよ。
その話をJakeとしたときのことを覚えてる。GPT-4が登場したとき、『これは本当にすごいものが手に入った』と実感した数少ない瞬間の一つだったね。
最初にGPT-3を創業者たちに売り込もうとした時は、『すごいデモだけど、ビジネスとしては…』という感じで、著作権管理以外の大きなビジネスモデルにはならなかったんだ。でも3や3.5になると、特にYC出身のスタートアップが興味を示し始めて、こっちも何かを無理に売り込むというより、自然とニーズが生まれた感じだった。そしてGPT-4になると、いきなり『GPUをどれだけ提供できる?』っていう話になって(笑)。あのときは、本当に良いものを手にしたと感じたよ。」
ギャリー・タン:
「ユーザーからの反応で手応えがあった?」
サム・アルトマン:
「そうそう。モデルをリリースして手に取った瞬間から、『これはすごい』って感じてた。僕たちもいろいろテストしていて、全部が素晴らしい結果だったし、自分たちもみんな『うわ、今これができるのか』って感心してたんだ。韻を踏んだり、ちょっと面白いジョークを言ったり、いろいろできるようになってて、すごく良い感じだったよ。でも、実際にヒット商品を持っているかどうかは、ユーザーの手に渡るまで本当にわからないからね。自分の仕事に自信を持ちすぎることもあるし、本当にテストされるのはユーザーの反応だよ。」
サムがLooptを創設した理由
ギャリー・タン:
「すごいAIラボを立ち上げる前に、サムは19歳でYCに入り、Looptっていう会社を作ったんだね。これは今でいう『友達を探す』の位置情報共有サービスで、Appleが似たようなサービスを出す15年も前に存在していたわけですが、サムがそのアイデアに惹かれたのはなぜ?」
サム・アルトマン:
「当時はモバイル端末に興味があって、モバイルを活用できる何かを作りたかったんだ。iPhoneが登場する3~4年前だったけど、ポケットにコンピューターを持ち歩くってことが、すごく大きなことだと感じてたよ。今では信じがたいかもしれないけど、当時は本当に『電話』としてしか使われてなかったんだ。」
ギャリー・タン:
「確かに、昔は実際の『電話』だったね。」
サム・アルトマン:
「僕も、今では電話機能として使うことはあまりないけどね。最初にインターネットに接続できる携帯を手にした時のことを今でも覚えてるよ。当時はひどいテキストベースのブラウザで、すごく遅かったんだ。メールを確認するのも本当に面倒だったけど、高校の時にその携帯を手に入れて、テキストや通話だけじゃない体験に夢中になったんだ。『これはもう電話じゃなくて、持ち歩けるコンピューターだ』って気づいて、それが大きな衝撃だったね。当時はダイヤルパッドが当たり前だったけど、いつかこの技術がすごいことになると思っていたよ。」
プラットフォームの変化から学んだこと
ギャリー・タン:
「サムにとって最初のコンピューターはLC2だったんだよね?子どもの頃に使っていたコンピューターを思い出させるよね。」
サム・アルトマン:
「そう、まさにこれが僕たちが育った時代のコンピューターだったんだ。でも今じゃ、あの黒い画面の小さなデバイスをポケットに持ち歩けるなんて、当時は信じられないことだったよね。」
ギャリー・タン:
「当時からテクノロジーの未来に対する興味が強かったんだね。」
サム・アルトマン:
「僕は昔から、今でもそうだけど、ずっとテクノロジーオタクだったんだ。金曜の夜はそんなことを考えて過ごしてたよ。でもその頃は、App Storeもないし、iPhoneもまだ存在しなかった。僕はApp Storeの立ち上げに少し関わったんだけど、それもとても良い経験になったよ。プラットフォームの変化を経験して、その初期の混乱や、小さな行動が大きな方向性に影響を与える様子を目の当たりにできたんだ。僕は当時は外側から見ている側だったけど、その変化を経験できたのは貴重だったね。物事がどれだけ速く変わっていくのか、それにどう適応するのか、よくわかったんだ。」
ギャリー・タン:
「その経験で会社を売却したんだよね。初めてのマネジメントやエンタープライズセールス、いろんな学びがあったんじゃない?」
サム・アルトマン:
「うん、でも正直成功した会社ではなかったから、それはすごく辛かったよ。それでも学びのスピードや経験の量はものすごかった。PGがよく引用していた言葉で、『20代は何のためかはわからないけど見習い期間だ』っていうのがあるんだけど、それは本当に実感したね。あの経験には本当に感謝しているよ。難しい経験だったけど、プロダクトマーケットフィットを見つけることもできなかったし、成長の限界を超える方法も見つけられなかった。でも、スタートアップをやることほど、あらゆる分野で幅広い学びを得られるものはないと思う。そういう意味では素晴らしかったね。」
ギャリー・タン:
「19歳や20歳の頃に、フィーチャーフォンからスマートフォンへの変化の波に乗っていたわけだ。そして、何年か後には次のアクトで、新しいプラットフォームの変化そのものを生み出す立場に…。」
サム・アルトマン:
「そうなんだよね。年を取るよね(笑)。でも、今まさに18歳や20歳の若者たちも、この波に乗り遅れたくないって思っているはずだよ。すべてが今、目の前で起きているからね。」
大手テック企業がAIの進展を把握していない
サム・アルトマン:
「今のところ、すごく成功している大手テック企業の創業者たちでも、AIで何が起こっているかをよく理解していない人もいるんだよね。それが驚くほど広くて。だからこそ、今のスタートアップにワクワクしているんだ。世の中はこのAI革命について、まだ驚くほど気づいていない。」
ギャリー・タン:
「確かに、YCの創業者たちは『今すぐ素晴らしいことをやる』ってすごいスピードで動いてるね。」
サム・アルトマン:
「Facebookが一時、モバイルの波に乗り遅れそうだったのを思い出すよね。彼らはウェブソフトウェアの開発に長けていて、それが逆に足かせになっていた。最終的にはInstagramやWhatsAppを買収することで対応したけど、あれもモバイルへの移行の難しさを象徴していたよ。プラットフォームの変化って、いつも先入観のない若い世代が生み出すものなんだよね。これは本当に面白いところだと思う。」
サムが勧めるスタートアップの道
ギャリー・タン:
「サムも、イーロンもベゾスも、みんな創業者としての道をスタートして、その後ハードテックに挑むようになったんだよね?例えば、最初はLooptやZip2みたいなソフトウェアから始めて、その後に段階を踏んでいくというスタイルかな。もし今、誰かが『最初から一番難しいハードテックに挑戦したい』って考えているとしたら、すぐその方向に進むべき?それとも、まずは資金面を解決して次の段階で自分の資金を投入するというのが良い?」
サム・アルトマン:
「それはすごく面白い質問だね。確かに、自分がOpenAIの最初の投資を自分で賄えたのは助かったよ。他の誰かに最初からその資金を頼むのは難しかったと思うからね。そして、イーロンがさらに大規模な資金を提供してくれて、それにはとても感謝しているよ。その後にも他の人たちが支援してくれて、僕が他のプロジェクトに投資するのにも役立ったから、その点ではすごく良かった。
ただね、さっき話した通り、僕はLooptで学んだことも多いけど、正直なところ時間を無駄にしてた気もするんだ。でも、全体としては人生の一部だし、いろいろ学んだから後悔してはいない。結局は全部うまくいったし、学びも多かったよ。」
ギャリー・タン:
「今の自分が過去にタイムカプセルを送って、スタンフォードの19歳の自分にメッセージを伝えるとしたら、どうアドバイスする?」
サム・アルトマン:
「難しい質問だね。AIはずっとやりたかったことだったから、AIを勉強するために大学に進んだんだ。当時、AIラボで言われていたのは『ニューラルネットワークには手を出すな。もう試したけどうまくいかない』ってことだった(笑)。だから今振り返ると、Looptじゃなくてもっと良いテーマを選べたんじゃないかとも思うけど、結果的にはこれで良かったと思ってるよ。
それに、テクノロジーの進歩の中で、人の生活を良くする技術を作り出してきた人たちのことをよく考えるんだ。あのコンピュータを作った人たちが誰かは知らないけど、ものすごく感謝しているよ。彼らはテクノロジーの限界で必死に働いてくれて、その結果、僕は8歳の誕生日にあのコンピュータを手にして、人生が大きく変わった。彼らに直接ありがとうと言えないけど、その感謝の気持ちはすごく強く持っている。今、自分がその長い進歩の道にレンガを一つ加えられるのは嬉しいことだね。」
OpenAIのドラマを振り返る
ギャリー・タン:
「それで話変わるけど、昨年の出来事を振り返って何を学んだ?チームの離脱(注05)もあったけど大変だった?でも頑張っているようだね。」
サム・アルトマン:
「うん、なんとかやってるよ(笑)。まるで中規模、あるいは大規模のテック企業の成長プロセスを10年かけてやるところを2年で一気に経験してる感じだよね。ChatGPTなんてまだ2年も経っていないのに、すごく早いペースで進んでいて、それに伴って痛みも多い。
会社がスケールしていくと、どんな企業でもチームの入れ替わりがあるけど、ゼロから1のフェーズで優れていた人が必ずしも1から10や10から100のフェーズでも得意とは限らない。僕たちも進むべき方向が変わってきたり、色々と間違いも犯したり、その中でうまくやれたこともあるけど、それがまた変化を生むんだ。
今は少し落ち着いた時期に向かっているといいんだけど、今後もダイナミックな変化の時期はまた訪れると思ってる。」
※注05:OpenAIでは創立メンバーが全員辞め、イリヤ・サツケヴァー氏が率いていたスーパー・アライメントチームの解散、などで主要初期メンバーが全員抜けたことになります。長期休暇をとっているグレッグ・ブロックマンも、いまだにOpenAIに戻ってきていません。下記にその様子を解説したNoteを紹介しますので合わせてご覧ください。
ギャリー・タン:
「それにしても、OpenAIの今の働き方やペースは、過去のソフトウェア企業と比べても並外れていると感じるね。どうやってそれを成し遂げている?」
サム・アルトマン:
「今までで初めて、僕たちが実際に何をすべきかがはっきりと分かっている感じがしてるんだ。AGIを作るためにはまだ膨大な作業が必要だけど、ある程度は道筋が見えているし、今はワクワクしているよ。プロダクト面でもまだ考えることはあるけど、大体の方向性は見えてきたし、今はクリアな目標があるからこそ、スピード感を持って進めることができるんだ。
『これをやる』と決めて、それを徹底的にやると覚悟を持てれば、研究の方向性もインフラも、プロダクトもどんどん明確になるから、それに集中できる。長い間、僕たちは純粋な研究機関だったし、やりたいことが他にも山ほどあったけど、皆が一つの目標に向かって進むことで、動きの速さも決まってくるんだ。
まるで最近レベル1からレベル2に上がったような感覚だよ。」
現在のモデルを活用するスタートアップの取り組み
サム・アルトマン:
「先日、YCで01ハッカソンを開催したんだけど、それもまたすごく印象的で楽しかった。面白いことに、3位に入賞したのがCamperというCAD/CAMスタートアップでね。彼らはハッカソンの間に、飛べなかったエアフォイルを、飛行に必要な揚力を生み出せるようにするプロセスを作り上げてしまったんだ。まさにイノベーターのレベル4って感じだよね。」
ギャリー・タン:
「そうだね。サムが以前からレベル2からレベル3への飛躍はすぐに起きるだろうと言っていたが、レベル3からレベル4へのジャンプは難しく、新しいアイデアが必要だと思っていたよ。でも、あのデモと他のいくつかのプロジェクトを見て、現行のモデルをうまく活用するだけでも大きなイノベーションが可能なんだと実感したよ。」
サム・アルトマン:
「その通りだよね。CamperはすでにCAD/CAMの基盤となるソフトウェアを持っていて、さらに大規模言語モデルがそのソフトウェアをツールのように使えるインターフェースとして言語を利用している。これにコード生成を組み合わせると、とんでもないことが起きるよ。大規模言語モデルが単にコードを書く以上に、自分でツールを作り、それを使いこなしてチェーンオブソートを実現できるようになる。今後、進展のスピードは僕たちが思っている以上に速くなると思うよ。
レベル3はエージェント、つまり複数のタスクを遂行し、環境とやり取りしながら、必要に応じて他者に助けを求め、協力することができる存在だね。これも思ったより早く実現できそうだよ。レベル4はイノベーター、つまり科学者のように、理解されていない現象を長期的に探究し、理解を深めていくような能力を持つこと。自分で『わからないことを解き明かしていく』力がある。
そしてレベル5が少し曖昧だけど、企業や大きな組織全体でレベル4のようなことを実行できるようになる状態だね。これは非常に強力なものになると思う。
ギャリー・タン:
「複数のエージェントが自己修正しながら協力していく様子を見ると、まるで小さな組織を見ているようで、フラクタル構造を思わせますよね。そう考えると、Jakeが話していたように、今後は『数十億ドルの収益を上げながらも従業員が100人未満、あるいは50人、20人、ひょっとすると1人の企業』が登場するかもしれないね。」
サム・アルトマン:
「そうだね。1人の創業者と1万台のGPUがあれば、それだけで相当な力を発揮できる時代が来ると思うよ。」
初期の創業者へのアドバイス+最後の思い
ギャリー・タン:
「これからスタートアップを始める人や、すでに始めたばかりの人たちに何かアドバイスはある?」
サム・アルトマン:
「今のテックトレンドに賭けるべきだね。まだまだ成長余地があるし、モデルはこれからさらに劇的に良くなる。今、AIを使ってできることと、それなしでできることの差はとてつもなく大きいよ。大企業や中規模の企業、そして創業して数年のスタートアップでさえ、もう四半期単位の計画サイクルに入っている。Googleなんかはもう10年単位の計画を立てているみたいで、どうやってやってるのか見当もつかないけど(笑)。でも、スタートアップの最大の強みはスピードと集中力、信念、そして技術の進化に素早く反応できる力なんだ。特に今はその強みが際立っている。だから、絶対にAIを活用したものを作るべきだし、新しいアイデアが生まれたその日にすぐに形にする力を活かしてほしいんだ。
もう一つ、AIを使っているからといって、ビジネスの基本法則が適用されないわけじゃないってことも忘れないでほしい。『AIを使ってるから自分は特別だ』と思って、競争力や他社よりも優れたプロダクトを作らなくていいってわけじゃないんだ。新しい技術を他の人よりも早く取り入れることで短期的な成長は得られるけど、最終的には、価値のあるものを構築し続けることが必要だってことを覚えておいてほしい。誰でもすごいデモは作れるけど、それをビジネスにするのが真の挑戦だよ。今まで以上に早く、そして今まで以上に良いものが作れるけど、ビジネスを築く努力はやっぱり必要(注05)なんだ。」
※注05:OpenAIの非営利研究部門で始まったOpenAIは、組織の再編に伴い、実質的に営利部門(OpenAI LP)に統合されています。もともとOpenAIは完全な非営利組織としてスタートしましたが、AGI開発に必要な資金調達のために、「キャップ付き営利企業(OpenAI LP)」を設立し、非営利のOpenAI Inc.がこの営利企業を監督する形に移行しました。
OpenAIの「キャップ付き営利企業」構造は、営利企業でありながら、収益が特定の上限を超えると社会に還元されるという仕組みを持っています。これにより、収益を上げつつも、利益の一部をOpenAIの研究や社会的な目的のために再投資するように設計されています。
ギャリー・タン:
「2025年で楽しみにしていることは何?」
サム・アルトマン:
「そう、AGIだね……まるで自分の子どもみたいにワクワクしてるよ。これ以上に興奮したことはないかもしれない。本当に人生が一変する。こんなにワクワクしてることは今までなかったかもしれない。」
ギャリー・タン:
「本当に素晴らしいですね。より良い世界を次世代の子どもたち、そして世界全体のために築いていこう。今日はありがとう、サム。」
サム・アルトマン:
「こちらこそありがとう。」