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さらさら 流る 読了
そこには真っ黒の先の見えないトンネルがあった。
筆者の作品には、人間のどうしようもない暗部とその先にあるかすかな光とが描かれることが多いなと思いながら読み進むことになる。
この作品は菫という女性がその当時はとても好きだった、愛していた男性との愛の終焉の手前に見せた弱さが、6年後の自分を苦しめるという物語である。
世に言うリベンジポルノを扱った作品なのかなと思っていたら、そうではないという謎解きのあとに、女性の友人・百合が菫の魂を救う。最終はさらさらと流れて行くのだ。
自分の裸体がネットの中で拡散されていることに気が付いてしまうところから始まるが、当然その画像の元は愛した男が削除したはず。だが撮影させたのは自分。自分の体は自分のものであって、自分単体から派生したものではないという律儀な正確の菫は両親や弟に悪いと罪悪感を持ちながらも、光晴を恨む。そんな男と付き合っていた自分も含めて。
でも、22歳という若い気持ちの中で彼だけが自分のすべてだった。家族の中でも溶け込んでいる彼とは不思議なことに、たった一度の嫌悪するべき出来事から別れを突きつけた。自分の非礼を詫びたが許さない菫を引き留めようとしたのは男。
だが、今更どうなると言うのだ。
弁護士を探して、相談をして自分でなんとかしようと思うがかなりの費用が必要となることに両親の前で謝罪するが本当はとても怖かったはずだ。それは暖かい家庭がそこに存在するからだと私は思う。
まだ、あなたはましね。それでもあなたを優しく包んでくれる家族がいて良かったねと私は菫がとても羨ましかった。逆に考えると、そんな優しい人の中にいるから、あの男に甘かったのかも知れないねということ。
その駄目男、光晴は自分が保存した画像が、昔の彼女の裸体が流れていることを知り愕然とする。なぜならそれは自分がしたことではないから。懸命に自分のしたことではない証しを探す。いろいろな人物を疑うがどれも非常にうさんくさいが、犯人ではない。
犯人は意外なところにいた。自分がそもそも携帯にそんな画像を保存していたことが間違いなので、やはり真の犯人は光晴なのだと私は思う。子供がやったこと、その父親がやったこととしておしまいにしてはいけないのだ。
未練があったのだろうな、情けない男だなと思うと同時にいつまでも前を向けないこの男の行く先はどこなのだろう。私は不安に思った。
菫は百合の絵画のモデルとなる決心をする。敢えて自分の裸体をもう一度違う形で世間に出すことで、魂の再生を望んだのだろうか。私は不思議な気持ちで最後のページまで読んだが答えがなかった。
どうして、そこに行き着くのだろうか。もう、しょうがないから開き直ったということではないが、私には理解ができなかったし、菫の気持ちに寄り添えなかった。
女性同士の友情の物語とも思えるし、家族の絆を見たような気もする。
だが、いくら子供でも男なんだととても悔しく、醜いと思った。消費されるのは女性だから。女性の裸体だから搾取される。それがリンゴの画像なら、おいしいラーメンの画像ならその男の子は犯人にはならなかったのに。
罪を罪とも思わないところにも、言い様のない憎悪の気持ちを持った私は、どうしようもないなと思った。哀しい、悔しい。なぜこんなことがと非常にいたたまれない気持ちになった作品だった。