明日は みえるかな
最近のお天気は晴れたり、曇ったり、雨が降ったりでとても忙しい。
スマホが急に鳴り出す……。
「今、なにしてる?」
「ベランダから、空見てる」
勝雄からの電話はいつも突然で、突拍子もないことこの上ない。私はわざとそっけなく返事をした。夕暮れの街はまだ暮れそうもない。古ぼけたワンルームマンションの304号からは渋滞し始めた道路に車のテールが赤く光り重なる。向かいの保育園からは子供たちのお迎えのパパ・ママたちが慌ただしく入っていく。
「あのさ、もう下にいるんだけど。行かないか、気晴らしに。もう具合はいいんだろ?」
「うん、大丈夫」
私は先週ワクチン接種をして微熱が出て体に力が入らなかった。久しぶりに寝込んだ。
よく見ると、マンション横の一方通行に見覚えのある紺色のワゴン車が四点を点滅させていた。私の部屋は角部屋なのだ。
すっぴんの私は眉毛だけライナーを使い薄く描くと、タンクトップを脱いでそこらへんにある、白いTシャツに着替えた。ジャージを脱ぎ捨てて、デニムのショートパンツに脚を入れる。洗面で髪の乱れをさっと直して、シュシュでまとめる。
私はふっと笑ったふりをした。
隆文と別れて一年が過ぎた。
勝雄は高校の時の友達だが、最近頻繁にラインや電話が来るたびに私を連れ出そうとする。大体の魂胆はわかっているが、そんなことを口にはしない。
「お待たせ」
「琵琶湖の花火、車では無理だろうな?」
「ええ? 今年も中止でしょ?」
「おやおや、オリンピックで10月になったのは去年のことで、今年はどうだろうか?」
今夜の口実はこれだ。
毎回何を口実にするのか話題を探すほど、賢かったかな? とも思うが、勝雄といると心がほぐれる。彼の横顔をちらっと見た。まっすぐ前を向いている、あの時と同じ横顔。
「なに? 少し惚れた?」
「なによ、イカ焼きみたいな顔してさ」
「おう、そのイカ焼きでも、トウモロコシでも持って、お前が浴衣だったら花火なんかなくてもいいんだよな。来年は行こうな。琵琶湖のホテルもう予約したんだ。後はお前次第。来年のことなんかあてにならない。けど俺はお前だけ待ってるから」
そんなこと言われても、ねえ。来年は花火、見えるかな?
来年は琵琶湖の花火見たいよね!!
左腕に浮いた血管と筋肉。強く掴んだら、怒られた。
「運転中にビビらせんな。後で好きなだけ触っていいから…….、だけどもうあいつを忘れるためにガールズバーのバイトなんかやめろよ。脚の露出も控えめにしろ!!」