卒業 おめでとう その2
たまたま好きになった人が先生だっただけで、私は何も悪いことをしていないと私は思っていた。三年生になっても私と先生の関係に何も変わりはない。男子バレー部のマネージャーになって先生との距離を深めようとか、近寄る、付きまとうなどという古典的なことをわたしは好まない。
何となく子供っぽいじゃないか。そう、万葉集のように歌を詠むというのも古典的なことも必要とはしない。スマホのやり取りだけが私の心の便りだった。男子バレーの友人がいたので、先生のアドレスを手に入れることなど簡単なことだった。
時々、球技大会、文化祭などで会えば言葉を交わすことも堂々とできる。卒業さえしなければ。三年生の夏の生徒会合宿が最後のチャンスだった、私が先生を好きだと自分の言葉で伝えることのできる……。
「近藤先生、夏の合宿参加されますよね」
「一応、下っ端なので行く認定にされていたので」
「高校入試の模試はどうだった? 今はできるだけ勉強に集中したほうがいいと思うが」
私はlineの画面に大きく絵文字で拒否を表すスタンプを送ると会話は終わってしまった。
校内では先生が広報委員の担当だったので、三年になり私は広報委員に自分からなり書記を務めてできるだけ先生との距離を近くした。あの時から私は先生への思慕の気持ちを抑えきれずに、居残りしないとできないように仕事を増やして教室で近藤先生との時間を何度も作った。
だが、簡単に10歳も年上の先生に好きですなんて言えなかった。
それで先生が私のことをさけることは、あらかじめわかっていたから……。それだけはいやだ。このまま、一緒にいることだけが私の願い、そして卒業し高校へ進んで三年すぎたら、18歳。大学生になれば先生も私のことを女として見てくれるのではと薄い願いを抱いていた。
二度目の夏の合宿。
暑い夏の滋賀県の空はどこまでも蒼く、私たちのことを迎えてくれる舞台は整ったと思った。
草原の風が私の髪をざっとさらう、そして私の視線の先にはベージュのチノパンに白いポロシャツの近藤先生が男子バレー部員たちと笑う笑顔があった。
ちらっと私のほうを向いて、早く来いと手招きする。私と体操部の香ちゃん・彼氏の冲田君の三人はボストンバッグをもって走った。
「先生、今年はちゃんと着火してくださいよ」
私が笑って言うと、
「最後だからな……。来年はもうこの学校にはいないだろうし」
足元から力が抜けた。冲田君が誰に言うとでもなく呟いた。
「近藤先生、結婚するらしい。桂先生と」
私の顔色が変わるのをかおりちゃんが見て、彼氏の冲田君を張り倒した。どうやら知らなかったのは私だけなのかもしれない。
(終わった、私の青春と初恋)
明日に続きます。読んでくださいね!!
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