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どうしようもなくて・

「分からないな。どうしてこういう事しかいえないんだ?」

「私も言いたくないわ。こちらが言いたくないことを言わせてるのよ。分からないの?」

 茂之は車の鍵を取ると私の顔も見ずに外へと飛び出した。

「しばらく戻らない……」

 私が見てしまったことから疑心暗鬼な毎日が始まってしまった。

 洗面の鏡の向こうでスマホを見ながら、見たこともないような笑みを浮かべているので、また犬か猫のかわいい画像だと思っていたらそれが、かわいい女の子からのlineだったのだ。スマホを置いてトイレに入ったすきに私は、洗顔中にも関わらずのぞき見した。

 いけないことだと分かっていたけれど、私が悪いってことも知っていたけれど。何も見ていないふりをしていても、どうしても頭から離れない。

 二人で手を繋いで、買い物に出かけても。

 映画をみていても、ストーリーなんか頭に入らない。

「深幸、最近なんだか元気ないな。どうした?」

 ファミレスのランチでオムライスのスプーンがとまったままの私はぼんやりとしていたようだ。

「へえ、普通」

「なんだよ、その言い方。深幸のためにこうして出かけているのに」

 スパゲティを器用にフォークに丸めて食べる人は私だけを愛しているわけじゃない。私のことを好きじゃない。この人と一緒にいるべきじゃない。

 いつもまにか、涙が出て頬を伝い、止めることができない。どうしたらいいのだろう。ああ、助けて。私はこの人のことが好きなのに、この人は私のことがすきじゃないんですぅううううううう。

 止まらない涙に茂之は、気にしないふりをしてスパゲティを食べるのをやめて、席を立つ。

「帰るぞ」

 私は頷いてバッグを持つと立ち上がる。

 周りの家族たちや、カップルに変に思われないように。顔をしたにして引っ張られて歩く。

「なあ、かっこ悪い。なんだよ。最近情緒不安定ひどすぎ。体が悪いのなら病院へいこう。行ってくれないか。俺が食器を洗わないのが悪いのか、洗濯物を干さないことが悪いのか? わからないよ」

「私はあなたが分からない。自分で何をしているのか知っているくせに、それを隠して、私のせいにしているけれども、知ってる。他に女がいるわよね。不正解ならごめんなさい」

 突然今までの勢いをなくすと、急に怒り出す。

「みたんか? 人のスマホみたんか?」

「無防備にそのまま晒して、トイレにはいったじゃん。見えるように置いたじゃないの。それを見たとか、騒ぐのはおかしいよね」

 私は車を降りて一人で道を歩き始めて、そのまま、どこをどう歩いたのかわからないままに部屋の前に立っていた。オートロックなどのない3万円の貧乏アパートの鍵は二つ。一つはあなたでもう一つは私のはず。

 いつの間にかあなたの心の鍵を別の女がもっている。

 さようなら、あなたが戻っても、戻らなくても、私はもうこの部屋にいない。さようなら大好きだったよ。鍵はここに置くから解約しておいてね。

 次にどこであっても声を掛けないでくれると嬉しい。今まで本当に楽しかった。でも私のことを好きだっていう男の一人や二人はいるんだから……。

             了

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