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小沢くんの"Life" 再発雑感

 大学に入学したものの、新入生歓迎合宿に行くのをサボったため、仲良くなっているクラスメートを遠巻きに見ていたとき、「みんな仲良くなってんねえ」なんて言ってにっこり笑っていたのが、もう一人の新歓合宿サボりの民、小沢くんでした。以来ほんの少しですが、結構仲良くさせてもらっていた時期があります。いっしょに学食でごはん食べたり、ドイツ語のヴァイラント先生に叱られたりしました。

 彼はすでにロリポップソニックとしてキャリアを積んでおり、デビューも決まっていました。でも名前が決まっていなかったみたいで、教室で「フリッパーズギターって名前、どう思う?」と聞かれたりしました。小沢くんはノートにイルカの絵と、"flipper" かなんかのロゴを上手に描いてました。

 お茶の水や神保町のレコード屋さんをたくさん教えてもらいました。 小沢くんが、Gene Ammons の"Big Bad Jug" をニコニコしながら買っていたのを覚えています。

 その後彼はデビューして破竹の快進撃をし、さまざまな試行錯誤を経て現在に至るのはみなさんご存じの通りです。本郷に進んで専修課程が分かれたあたりから急速に疎遠になりました。現在はまったくの没交渉ですが、彼が与えてくれた陽性のバイブスは、いまだに私を照らす光です。

 このアルバムが再発されると聞き、逡巡の末に買うことにしました。当時彼がポップスターとして駆けていくのを羨望の眼差しで見ていた自分を恥じる気持ちが非常に強かったので。しかし、針を落とすと、仕事場へ向かうために赤羽駅の長い長い階段を駆け上がる自分の姿を思い出しました。あ、そこと紐づけられてるんかと、ちょっとおかしく思います。

 改めて聴いてみると、90年代の浮かれ気味の空気を、文字通り記録(レコード)した一枚だと思います。でも、記録者として時代と音、そして言葉と格闘した生々しい痕跡でもあります。才気溢れる若者が、いつ終わるとも知れぬ試行錯誤(ものすごく苦しかったに違いない)をしたからこそ、当時リリースされたあまたの音楽作品の中でも、抜群の普遍性を備えたのだと思います。どう聴いても90年代の音なのに、「昔っぽい」とか「今っぽい」とか、そういうのを全然感じさせない。奇跡の音と言葉たちだけで構成された世界がギュっと詰まってる。

 リリースから30年、武道館のライヴも盛況だったようでなによりです。感想を読んでるだけでこちらまで泣きそうになる。もういい年だし(お互い様)、きっちり休んで、好き勝手な活動をしてほしいと思います。

 どうせ今でも、毎朝起きたらクレイジーなことをひとつ、考えてるに違いない。

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