ジャイアニズム英語
大学の1回生の話である。
どこの大学でもそうかと思うが、初めの1回生などでは、専門科目のほか、教養科目、語学、スポーツなどの授業などがあり、私も例外なく、他の人と同様に、英語の授業を受けていた。
英語の授業では、教科書の読みを席の順番に当てられて、学生が読んでいく。高校の授業と同じだ。
通っていた大学は、一応国立大であり、高校の成績もそれなりの人間で固められている。英語に関しても、センター試験も二次試験も突破してきたのだから、それなりの知識を持った者が多かった。
とはいえここは日本。大学入試を突破したところで、全く話せはしないし、英語の発音が独特な人間も存在する。
なんというか、ひらがな英語というやつだ。
ひらがなで表現したほうがいいやつ。
「あいあむ、あ、すちゅーでんと。」
的な。
(「あいあむ、えーと、すちゅーでんと。いらんっゆうねん。いらんっゆうねん。」てCM昔あったね。)
同じ学科の辻(仮名)君は、非常に声がでかい奴だった。やたら無駄にでかい声の関西弁で、休み時間も子分っぽい奴に向かって捲し立てる。
「俺なー、高校の頃はかしこかってん!!」
ここに来ている連中は、大体それなりに高校で出来ていたやつらである。
こういう辻君のような存在を関西では「いちびり」と表現する。
声はでかいが、話の中身は残念ながら、噛み倒した後のガムの如く味がしない。あとなんとなく顔もでかい。
そんないちびりキャラも相まって、我々としても、辻君は注視せざる負えない存在となっていた。
その辻君に順番がまわってきた。
確か放送について、論じた英文だったように思う。
残念ながら、この男はひらがな英語の持ち主だったようだ。でかい声とひらがな英語で、のっしのっしと2行・3行と読み進めていく。
「ざ、ぶろうどきゃすと、いず、、、」
おそらくSiriに聞いても、
「すいません、わかりません!」
と返されるだろう。
漫画の効果音で言うと、
「ボェ〜」
見事なまでのジャイアニズムである。
なんか聞いているこちらが恥ずかしくなってきた。
これが共感性羞恥というやつだろうか。
文章の終わりにパパラッチという英単語があった。paparazzi。記者という意味になる。
辻君の担当もそこまで。読み終えれば、このジャイアニズム英語ももう終わると思ったその瞬間ーーーー。
「..........ぱぱらっつぉ!!!」
辻君が叫んだ。
ぱぱらっつぉ?
ひらがな英語が強すぎるのと、読み方がわからなかったのとの二重苦で、全くの予想外の言葉が飛び出してきた。
イタリアのお菓子を彷彿とさせる、見事な「ツォ」の発音であったが、報道記者とイタリアのお菓子では意味が大きく異なる。
ありえない角度からのパンチを喰らったが如く、周りの学生が少しざわざわしている。
先生の方を見てみる。
。。。先生も目が細くなっている。
ツォ!?っと目が訴えかけている。。!
「。。。ありがとう。じゃあ次。」
スルーした!!
一応言っておくが、私は言葉などと言うものは伝わればいいと思っている。
発音が例え汚くあろうと、堂々と発言することは素晴らしいと思う。
が、相手が「いちびり」の辻君となれば話は別。
私を含めた悪い学友達は、この出来事を見逃しはしなかった。以降4年間に渡り、このパパラッツォ事変を、辻君にイジリ続けたわけである。
後半はもう、噛み倒した後のガムの如く、味がしなかった。