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●●さんへ 東京・上野 黒田記念館 《湖畔》 黒田清輝作 1通目
東京国立博物館 黒田記念館 《湖畔》 黒田清輝作
●●さん、もう会うことも無くなってしまって、随分と時間が経ってしまいましたね。
貴兄がいつか好きだと言っていた黒田清輝(1866-1924)の《湖畔》が公開されているのを知り、東京上野の黒田記念館(1928年 昭和3年 設計 岡田信一郎)に出かけてまいりました。
ある日、あなたはこの絵が教科書に載っている中で、一番印象に残っていると言ってましたよね、場所は池袋あたりの飲み屋だったような、それを聞いて僕は見たこともないのに「そうですか?ぼくはそうでもないんですよね!」なんてお酒の勢いもあって、そんなこと言ってしまい、雰囲気が悪くなりましたね。結局それっきりになって、あれが直接会った最後の日だった。だからどうしても見に行きたかったんですよ。
上野の東京国立博物館。その西隣に国立国際こども図書館、そののすぐ脇に《湖畔》を所蔵している黒田記念館があります。
春と秋、それからお正月の一時期、そこの特別室で《湖畔》など、明治時代の「日本近代洋画界の父」と呼ばれる、黒田清輝の代表作が公開されているんです。建物もとても素敵で、入館料も無料だそうですよ。お正月あたりにまた特別室は公開されるはずだから、そのときでも良いいですけどね。
●●さんは絵も、建築も好きだったから、あの頃のように色々と自分の意見を語っても、「相変わらずだね」なんて笑わないで欲しいです。
黒田記念館 正面玄関
黒田記念館 正面
黒田記念館の正面です。2階にある、ギリシア建築様式の2本の柱とアーチ型の窓の組み合わせが見せ所。
黒田記念館 正面玄関上部
玄関の上に窪みを作って、そこに3つのアーチ型の窓。その脇に2本のギリシアのイオニア式の柱を並べて、縦の細いラインを作って軽い印象を与えているのが設計者の工夫ですね。
建築界の巨匠、ライトも使用したスクラッチのレンガ
ここでこの建物に使われている、スクラッチタイル という、釘で引っかいたような凸凹のあるレンガに注目です。
1923(大正12)年9月1日。アメリカ人の建築家の巨匠、フランク・ロイド・ライトが設計した、東京日比谷の帝国ホテル「ライト館」はオープンしました。この日付で、わかった人もいるかもしれませんが、関東大震災の当日のことだったんです。
たくさんの建物が倒壊した中、この「ライト館」はほとんど壊れなかったそうです(当時の建物は名古屋の明治村に移築されています)。建築家ライトが帝国ホテルを作るのに採用したのがこのスクラッチタイル でした。当然話題になりますよね。
そのため、スクラッチタイルは大流行。だからこのレンガが使われていると、大正から昭和初期だとすぐにわかるそうです。
スクラッチタイル 建物向かって左側の窓周辺
ちなみに。小ネタですが。当時こんなレンガは日本になく、このレンガを作るためだけに、愛知県に「帝国ホテル煉瓦製作所」という工場まで作ったそうです。そして、この工場の流れを組む会社が「INAX」、今はいくつかの会社と一緒になってあの「LIXIL」という会社になったらしいです。知らんけど。
入り口の細かなディテール
入り口は少し飛び出して、左右に壺、また上には灯りが設置。この辺は美術館ならではの、優しい印象を作るためですよね、重厚さが大切な銀行や役所の建物にはこういうものはいらないですからね。
入り口の上には、優しい曲線を使った扇窓、(このモチーフは館内の階段の手すりにも使われています)親しみやすい字体で黒田記念館の文字も入っています。
玄関の関所
ちょっと入りにくい感じがする自動扉を入ると、そこには急な階段が、そこを登るとまたガラスの扉があったと思われる入り口があります。このわずかな距離で物理的に人の視野を上昇させ、また二つの扉を通ることで、まるで関所を通過するように、美術館の外にいた時の気持ちをすっかり変えて館内に入ることができるという訳ですね。
玄関の階段
赤い絨毯と優しい光の素敵な階段
一階に上がると、左には素敵な階段があります。上の窓からは優しい光が差し込んでいて、まさにこっちに登ってくださいって言っているようです。
手すりには、アール・ヌーヴォーの影響でしょうか、曲線を使ったモチーフの繰り返しがあります。階段に使用されているため、この曲線の部分が少しづつ上下にずれているのも好印象。素敵なリズムを生み出して、先へ先へと視線を誘導していきます。この曲線は、玄関の上の扇窓にも使われていました。赤い絨毯の床、濃い茶色の手すり、白い壁。このコントラストも美しいです。
2階 特別室 黒田清輝の代表作のある部屋
2階の特別室
2階に上がると左側に黒田清輝の代表作が飾られている特別室があります。部屋の奥には作品が見えています。濃密な空間があって、そこには素敵な作品があることを予想させますよね。
正面には彼の代表作の一つ。《智・感・情》(1899年)。大きな作品なので、見るのに距離のひきがあるのも嬉しいですね。
●●さん。作品については次の機会にしますね。ちょっと長くなって疲れました。近いうちにまた投稿しますから。
よろしくご承知ください。