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地方都市の現実と挑戦~山形市でゼロ開業から12年間の経営で見えたもの~

皆さんこんにちは!
井上公認会計士事務所の代表を務めます、公認会計士・税理士の井上哲寿と申します。このたび会計事務所のnoteとは別に、個人のnoteページを開設しました!ここでは、一人の「中小企業経営者」として、地域経済について思うところなどを書いていきたいと思います!
第1回目は、「地方都市の現実の挑戦~山形市でゼロ開業から12年間の経営で見えたもの~」と題しまして、これまでの歩みを振り返ってみました!


1.地方都市の排他性と既得権益の壁

私は2012年7月、山形市でゼロから会計事務所を開業しました。
それまでは東京の大手監査法人で働き、ビッグクライアントを担当しながら、いわば日本経済の最先端で連日深夜遅くまで仕事をしていました。
しかし、ある時ふと、地元の山形市で自分の力を試したい!という思いから、山形に戻る決断をしました。

東京で一緒に働いていた上司や同僚、後輩たちからは「第一線を退いた」と見られました。田舎に戻るのは、夢破れた人や都会の激務に疲れた人が選ぶ道だという固定観念があるようでした・・・。しかし、私自身は山形でもこれまで通りバリバリ働くつもりでした。

ですが、現実は想像以上に厳しいものでした・・・。

山形に戻ってまず驚いたのは、街全体の閉鎖的な雰囲気でした。
多くの企業では「この取引はこの業者と」と暗黙のルールが決まっていて、新規参入の余地がほとんどありません。地元の業者は長年の取引関係のもとで安定した収益を得ており、新しい競争を歓迎する空気はありません。人口が減少し、街の活気が失われつつあるにもかかわらず、現状を変えようとする動きはほとんど見られませんでした。

銀行からの顧客紹介も、「昔から付き合いのある会計事務所」に偏っていました。私は最先端のIT技術を活用し、スピード感を持って対応できることを強みとしていましたが、それだけでは参入の壁を超えられませんでした。

さらに、地方特有のヒエラルキーも存在しました。経営者団体や会合に積極的に参加し、何年も「下積み」のようなことを繰り返して顔と名前を覚えてもらうことで、ようやく仕事がもらえるという仕組み。実力やスキルよりも、「どれだけ長く顔を出しているか」が重視される風潮に、強い違和感を覚えました。

2.変化を拒む税理士業界と苦しむ経営者たち

この閉鎖的な環境の中でも、私に相談を寄せる若手経営者が少しづつ増えてきました。彼らの共通の悩みは、「税理士が変化に対応してくれない」ということでした。

  • 「自分たちのやり方に対応してくれない」

  • 「相談しても親身になってくれない」

  • 「新しいツールを使いたいのに反対される」

特に10年ほど前から登場したクラウド型会計ソフト(freeeやマネーフォワード)に対して、多くの税理士(特に年配層)が強く反発していました。老舗のオンプレミス型会計ソフトを使い続け、新しいものを学ぼうとしない。
「クラウド型会計ソフトに安易に飛びついてはいけない」と言う人もいましたが、私には正直「やらない言い訳」に聞こえました。

私の知人の経営者が、顧問の税理士に「クラウド会計を導入したい」と相談したところ、「あんなのはおもちゃだから使ってはダメ」と一蹴されました。また別の経営者は、クラウド型会計ソフトを導入しようとしたものの、会計事務所に「どうしても使いたいなら割増料金を請求する」「入力したデータをすべて紙に印刷して提出するように」と指示されたという話もありました。

おそらく山形市だけではなく、田舎の地方都市では同じような現象が起こっていたのではないでしょうか。
この業界の変化を拒む姿勢が、地方の経営者たちを苦しめています。DXが進まなければ、人手不足に悩む中小企業の負担はますます大きくなります。それでも、「昔ながらのやり方」に固執する税理士が多いのが現実でした。

3.変わらなければ生き残れない時代へ

私がここまで事務所を成長させることができたのは、世の中の環境の変化が大きいです。人手不足やコロナ禍をきっかけに、経理業務の効率化・クラウド化・DXの需要が急増しました。これにより、感度の高い若い経営者の目に留まる機会が増えていきました。

特に、私と同じように地方の閉鎖的な空気に息苦しさを感じていた若手経営者(創業者や2代目経営者)たちから、相談を受けることが少しずつ増えてきています。彼らは変化を求めています。しかし、それに対応できる税理士が圧倒的に不足しているのが現状です。

こういった時代の変化の兆しを早めに捉えることに力を入れてきたことが功を奏し、ここまで生き残ることができたのではないか、と考えています。変化の兆しに気付かずに、従来通りのアナログな対応をしていたら、私たちのような零細事務所はとっくに消えてなくなっていたはずです。

私は、マネーフォワードの辻社長の考えに共感しています。会計システムはユーザー目線で作られるべきです。
企業によって最適な会計システムは異なります。経理担当者のいない零細企業に、従来の複雑なシステムを押し付けるのは合理的ではありません。全国を飛び回る社長なら、どこでも会社の数字を確認できるクラウド型が最適です。

昨年11月、マネーフォワードの辻社長と対談する機会がありました。
「クラウド不毛の地で戦う若手税理士の奮闘」について話し、励ましの言葉をいただくことができ、とても嬉しかったです。
また、2年くらい前から、東北地方で同じ志を持つ数少ない会計事務所と交流する機会が増え、それも大きな励みになっています。

4.地方でも、変化は確実に進んでいます

地方の変化は遅いですが、確実に進んでいます。
若手経営者たちは新しい価値観を持ち始めており、DX化や効率化に前向きな人が増えています。

私たちは「世界一のNo.2」 という経営理念のもと、変化することをおそれず、変化しないことをおそれる というミッションを掲げています。「柔軟な思考」と「お客様に寄り添う熱い気持ち」 を両輪とし、地方の中小企業にとって最も満足度の高いサービスを提供することを目指しています。そして、大切にすべき5つのバリューとして、speed・challenge・together・simple・fun を掲げています。

もちろん、私たちはクラウドやDXの強みを重視しています。効率化を通じて、お客様がより経営に集中できる環境を作ることが私たちの役割の一つです。
しかし、それ以上に大切なのは、お客様の発展を第一に考えること だと思っています。お客様の業績が伸びたときに、「自分のことのように喜べるかどうか」。それが、本当に信頼される税理士・パートナーであるための最も重要な資質だと考えています。

そして、私が事務所経営をする上で、今後も一番重要だと考える経営資源は、いうまでもなく人材です。多くの若くて優秀なスタッフが集まり、高いモチベーションをもって働いてくれることが、とても大事です。
そのために、働きやすい職場、働きがいのある職場、心理的安全性が確保され、一人ひとりが楽しく働ける職場を作り上げていくことが経営者である私の役割だと思っています。

決算慰労会&歓送迎会
社内レクリエーション ボウリング大会!
北海道への研修旅行 税理士法人TAPさんとの懇親会
社内レクリエーション 和菓子作り体験会!

これからも、speed・challenge・together・simple・fun というバリューを大切にしながら、地方に新しい価値観を根付かせていきます。
そして、地方の閉鎖的な環境の中でも挑戦する人がもっと増えていくことを願っています!


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