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感謝と決意を胸に。厚生労働大臣政務官の1年2ヶ月を振り返って
このたび第二次石破内閣の発足に伴い、昨年9月から約1年2ヶ月にわたり務めさせていただきました厚生労働大臣政務官の職を、退任することとなりました。
私にとっては初めての政務三役への就任。医療・介護・福祉・雇用・年金など、国民生活に直結する様々な重要政策に携わらせていただいた充実の日々でした。知識も経験も至らない私を、献身的にお支え頂いた省内外の大勢の皆さまへの感謝を込めて、「政務官」という役職の実像と、今後の厚労行政への期待を記したいと思います。
ここでは特に印象に残る3つのプロジェクトについて、振り返ってみたいと思います。
1. 官民の新たな協働モデルを探求した「ヘルスタホワイトペーパー」の策定
政務官への就任が決まった頃、党内の先輩に政務官として期待される役割は何かを尋ねました。その時の回答はいまだに忘れられません。
「官僚からすると、副大臣や政務官が毎年新たなペットプロジェクトを始めようとすると仕事が増えてかえって迷惑というのが本音。だから政策は程々にして、飲み会などをたくさんして知り合いを増やすのに注力するのがいいよ。」
きっと多少の誇張と後輩への冷やかしも含まれていたんでしょう。でも、政と官の微妙な関係の核心を捉えているようにも感じ、ハッとしたのを覚えています。
以来、政務官として何か新たに提案する際には、単なる思いつきではいけない、本当に今その検討が必要か、職員にどの程度の労務的負担をかけるか、より効率的なアプローチがないか、などの点を吟味しながら絞り込みを意識してきました。(役所の方には絞り込みが足りないと怒られるかもしれませんが。。)
そんな中、私が「どうしてもやらせて欲しい」と大臣や事務方にしつこくお願いして、立ち上げさせて頂いたプロジェクトが「ヘルスケアスタートアップ等の振興・支援策検討プロジェクトチーム(略称:ヘルスタPT)」でした。今年2月から約5ヶ月かけて、創薬や介護などのヘルスケア分野のスタートアップ振興のための具体策を練り上げました。
プロジェクト立ち上げに当たっては、従来の有識者会議方式ではなく、民間の知見を最大限活用する新しい政策立案プロセスに挑戦しました。起業家、投資家、学識者など12名の専門家チームに加え、細かい事実関係を確認して文章化してくれる実務家チームを揃えました。先輩の忠告を念頭に、「役所にはファーストドラフトの負担をかけない」体制でスタートしたこのプロジェクト。約140日間の濃密な議論を経て、25本の政策提言をホワイトペーパーの形でまとめ上げることができました。
特に大きな成果として誇らしく思うのは、私たちの提言の多くが令和6年度の「骨太の方針」や「新資本主義実行計画2024」に反映されたことです。MEDISOの機能拡充やCARISOの設立、マイルストーン型支援金の創設など、具体的な予算措置を伴う施策として結実させることができました。これは、委員の皆様の熱意と厚労省職員の緻密な実務能力が見事に調和した結果だと考えています。
特に印象深かったのは、許認可官庁としての従来の役割を超えて、未来創造型の政策立案に挑戦してくださった厚労省職員の皆さんの姿でした。省内外の調整という重要な役割を担いながらも、新しい発想を受け入れ、時には従来の常識を覆す提案にも真摯に向き合って頂いた姿勢には、何度も感銘を受けました。
この経験を通じて、「民」の自由な発想と「官」の緻密な調整力の融合こそ、政策のイノベーションを生み出す鍵になりうるのではとの手応えを感じました。こうした経験の蓄積を通じて、よりオープンで、より挑戦的な政策立案のモデルが広く発展していくことを期待しています。
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2. 省内体制を強化し、グローバルヘルス分野の強化へ
政務官の大切な役割の一つとして、役所を代表して対外的にプレゼンや演説を行ったり、他国と交渉を行うことが挙げられます。
今年6月、ジュネーブで行ったWHOの世界保健総会での政府代表演説は、一生忘れられない経験となりました。演説の準備段階から本番まで、外務省や厚労省の国際課の皆様と議論を重ね、一字一句に込める思いを練り上げていった日々が昨日のことのように思い出されます。
外交交渉の現場に立ってみて、特に印象的だったのは、国際保健分野における日本の影響力の大きさです。政府代表演説の中で、発展途上国の医療水準向上を目指す新たな国際機関「UHCナレッジハブ」の東京設置や、気候変動と健康に関するアライアンス「ATACH」への参加を表明すると、各国から大きな期待と歓迎の声をいただきました。また、WHOなどの国際機関で活躍する日本人職員の方々との出会いは、グローバルヘルスの分野で更なる貢献を目指す若い世代への期待を抱かせるものでした。一方、パンデミック条約の交渉決裂の場面では、先進国と途上国の立場の違いを目の当たりにし、国際合意の難しさも実感しました。
「もっと国際保健分野で日本が活躍できる環境を整えてほしい」
この一年、省内でも省外でも、こうした切実な声を多く耳にしてきました。そうした関係者の思いを実現していくことも、政務官の重要な役割となります。国際保健分野をライフワークとしてきた武見敬三厚労大臣と相談を重ね、本年6月末に厚労省内に「国際戦略推進本部」を立ち上げ。同時に、今後国際保健分野を志す方々が安心してキャリア形成に取り組めるよう、予算面でも人事ポストの面でも組織体制を構造的に強化していく基盤を整備することができました。
パンデミックに対峙する中で、私たちは、世界の衛生環境が相互に密接に繋がっていることを学びました。隣国の衛生環境の改善への支援は、単なるチャリティではなく、日本の健康・衛生に直結しています。世界有数の経済力を持ち、世界一の健康長寿国である日本。日本が明確な強みを持つ健康・医療の分野だからこそ、更なる世界的なリーダーシップの発揮が可能であることを確信し、期待しています。
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3. 医療DXの現場から学んだ不屈の挑戦心
一方で、政策実現の厳しい現実を突きつけられた経験も少なくありません。苦戦続きだったマイナ保険証の利用率向上の取り組みは、その代表例でした。
本年5月、山形県酒田市での岸田総理との視察は、医療DXの可能性と課題を肌で感じる貴重な機会となりました。日本海総合病院での電子カルテ共有システム「ちょうかいネット」の運用や、地域全体でのマイナ保険証・電子処方箋の積極的な活用は、まさに地域医療の未来像を示すものでした。病院や薬局のデータがつながることにより、医療の質が向上し、医師などの働き方が改善され、社会的コストの無駄もなくせる。自信に溢れるちょうかいネットの皆さまの言葉には説得力がありました。
視察先で体感した医療DXの未来像を胸に、低迷を続けていたマイナ保険証の利用促進に取り組みました。「まず隗より始めよ」ということで、一番身近な厚労省の職員の方々に対して、エレベーター内に啓発ポスターを貼ったり、各部署でアナウンスを繰り返すなど、あらゆる手を尽くして利用促進を働きかけました。また対外的に優秀自治体の表彰を行ったり、業界団体を通じて来院者への声がけ方法に工夫を凝らしたりも。しかし、残念ながら省内も省外も思ったほどには数字は伸ばすことはできませんでした。
地方の人口が急速に減少し、医療資源も枯渇してくる中、医療DXを通じた改革推進の必要性は多くの専門家やメディアも賛同するところです。しかし、いくら政策目的に合理性があっても、円滑に推進できるとは限りません。特に市民の行動変容を促すような取り組みには、医療現場や患者さんの視点に立った丁寧な説明と周知のための時間がかかることを再認識しました。同時に、困難にぶつかる度に、何度でもデータを見返し、知恵を絞り、工夫を凝らし、再度チャレンジされる厚労省の担当者の方々の粘り強さと前向きな使命感には、深い感銘を受けました。失敗しても失敗しても、成功するまで何度でもチャレンジする。難しい社会課題が山積する厚労省だからこそ、こうした重心の低い挑戦心が大事なのだと教えて頂きました。
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感謝、感謝、そして感謝
本当に多くのことを学ばせて頂いた1年2ヶ月でした。
私が最も印象に残っているのは、遠慮なく反対意見をぶつけてくださる若手官僚との議論、週末返上で現場視察に同行してくださる課長補佐との対話、国際交渉の準備で寝食を忘れて戦略を詰める審議官との打ち合わせなど、年次や役職に関係なく、純粋に政策の質を高めようとする真摯な姿勢に触れた時間です。
休憩時間や移動中の何気ない会話の中で、「もっと国民のためになる政策を作りたい」「現場の声をもっと政策に反映させたい」という思いを語ってくれた職員の皆様の言葉は、今も鮮明に記憶に残っています。時には厳しい批判にさらされながらも、より良い社会の実現に向けて日々奮闘する姿に、心からの敬意を表したいと思います。
公私にわたり多くの時間を共にし、多くの職員の皆さまと本音で語り合える関係を築けたことは、政務官としての経験の中でも最も大切な財産となりました。
このたび、自民党副幹事長という新たな重責を担うこととなりました。厚生労働大臣政務官としての経験で学んだ、現場の声に耳を傾け、組織の垣根を超えて協力し合う姿勢を、これからも大切にしていきたいと思います。
最後になりましたが、この1年2ヶ月の間、日々の業務を支えていただいた厚生労働省の職員の皆様、医療・介護の現場で献身的に働く皆様、そして常に温かいご支援をいただいた国民の皆様に、心からの感謝を申し上げます。
新たな立場でも、皆様の期待に応えられるよう全力を尽くしてまいります。引き続きのご指導ご鞭撻を、何卒よろしくお願い申し上げます。
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